第66話 魔法大剣の届け出
俺たちはアイアンリッジからの帰り道、オークらしき反応を魔道レーダーが捉えた。
レアンの村からは離れているので今回の依頼の対象にはならないが、街道の近くにいる大型の魔物は危険だ。
確認しに森に入ると、やはりオークだった。
「おっしゃ、俺に任せろ」
ジムは大剣を持って、威勢よく駆けていった。
「おい、後方支援は?」
「大丈夫、いらねぇ!」
やれやれと思いながら、俺は魔道ガンを取り出してジムの後を追う。
しかし、オークと対峙したジムは棍棒での攻撃を軽く受け流し、膝を狙って振り上げた大剣が、オークの左脚を断ち切り、咆哮と共に体勢を崩させた。
「ぶおぉぉぉぉー!!」
更にジムは、軽くサイドステップを踏みながら、斜め下に大剣を振り下ろす。
「ズシャッ」という乾いた音と共に、オークの首が胴体から切り離されて飛んで行く。
「おし!」
今回のジムは、危うさが全くない。
「お疲れ。どうだった?」
「……滅茶苦茶使いやすいなこれ。動きは軽い剣、威力は大剣そのものだ。切れ味も桁違いだな」
刃には風魔法が展開し、動かす方向へ引力が生まれている。まさに風魔法の魔法剣だ。
「これだったら、剣先が当たってなくても切れたりできるんじゃないか?」
「それも可能だと思う。突きに対して剣先から風魔法を大きく展開すれば出来そうだけど……それは、扱いに慣れてからだな」
使いこなすには、修練が必要だ。
俺たちは、その足で冒険者ギルドへ向かった。
「現地での討伐達成の確認ができました。しかし、達成まで早かったですねー。これで依頼完了です」
討伐自体は当日で、残りはアイアンリッジに立ち寄っていたのだが……。
「ありがとうございました」
俺たちは、その足で領主館に行くために、冒険者ギルドを後にした。
「こんにちは。突然で申し訳ありません。今日は領主様っていらっしゃいますか?」
「ああ、いらっしゃるぞ。アンナを呼ぶからちょっと待ってろ」
アンナさんはすぐにスカートの裾をめくって走ってきた。いつもどおりだ。
「また来てくれたんですね!」
「うん、でも今日は領主様に届け出をするだけだから、要件が終わったら帰っちゃうよ」
「ええーっ、そんなー。せめて夕食くらい……」
「領主様がよろしければ、で」
領主館の玄関へと向かう間に、そんなことをメイドのアンナさんと話しながら進んで行く。玄関では、執事長のジョセフさんが待っていた。
「ようこそおいでくださいました、“月盟の絆”の皆様がた」
「ジョセフさんこんにちは、本当は予約を入れなければいけないのに、いつも急な訪問で申し訳ないです」
領主様は偉い貴族様だ。いつも突然訪問している俺たちは、とても失礼なことをしていると思う。
(しかしジョセフさん、俺たちのパーティ名を何で知ってるの?)
「いえいえ、アルフレッド殿であれば何も問題ありません。ちなみに、なぜパーティ名を知っているのかと疑問を持たれたようですが、冒険者ギルドより報告が来ますので私どもも知っておるのですよ」
読心術か? いや、多分、超能力者だ。
「一応、決まりとなっておりますので、武器の類はお預かりいたします」
「この大剣は領主様にお見せしたい物ですので、後ほど持ってきていただいてもよろしいですか?」
「そうなのですね、かしこまりました」
この前の様に、応接間へ通されてお茶をご馳走になっていると、ドアをバーンと開けて領主様が入ってきた。
(静かに開けられないのか? その内ドアが壊れるぞ)
「やあ、みんなよく来たねぇ! ジェームス君も一緒にパーティに入ったんだってねぇ」
「はっ、騎士団にいたころは色々とお世話になりました」
「みんな、座って、楽にしていいから」
そう、ジムは最初に入った騎士団は、ここの騎士団だったのだ。
「ジェームス君は頑張り屋でね、うちの騎士団に入ってからの上達ぶりは私も感心しているよ」
「たしか、見習い騎士に応募して合格したんですよね」
エミーもジムが見習い騎士に合格したあと、なぜ王宮騎士団に入ったのか聞きたいようだ。ジムはなぜか肩をすぼめて俯いている。恥ずかしいのかな?
「そうそう、彼は見習い騎士からのスタートだけど、僅か三カ月の養成期間を経て当家の騎士団に入団したんだ。その後もメキメキと剣の腕が上達していって、私から王宮騎士団への編入を提案してみたんだよ」
「あの時は本当にありがとうございました。俺もアル達に負けたくなかったし、王宮に行けるって聞いた時には本当に嬉しかったんです」
俺やエミーたちが魔道学園に入学したのを知って、自分も王都に行って俺たちと肩を並べたいっていう一心で頑張ったのだろう。自分で決めたことは、ひたすらに頑張るタイプだからな。
「でも、王宮騎士団を辞める事になって、大変申し訳ない気持ちなんです」
「それについては、レオノール君から聞いているよ。彼が勧めたってね。これからの道をアルフレッド君と一緒に歩んだ方が、きっと君の為になる。ひいては国の為にもなるだろうからって」
「そう言っていただけると助かります」
国の為になるってのが良く分からないが、ジムのためになるって言っているのだから……多分いいんだろう。
「で、今日はどのような用件で来られたのかな?」
「あっ、そうでした。ジョセフさん、例のものを持って来ていただけませんか?」
俺は、部屋の隅でいつの間にか待機していたジョセフさんに声をかけた。
「承知しました」
ジョセフさんは入り口のドアを開け、入り口で待機させていた若い執事さんから大剣の乗ったカートを受け取った。
「こちらでございますね」
「はい、ジョセフさんありがとうございます。領主様、実はこの大剣なのですが、新しく開発した魔道具となっております」
「ほう、今度は剣に魔道具の要素を付与したのか。それで、どのような魔道具にしたのかい?」
「はい、この剣は重さが結構ありますが、……」
俺は剣に風魔法を展開させたことを細かく説明した。説明していて理解してもらえるか不安になったが、領主様はすぐに理解してくれた。
「なんと、刃に風魔法が展開するとそうなるのか!」
「実際にどのようになるかは、ジムにやってもらおうと考えています」
「分かった、では早速裏庭に出て試してみよう。ジョセフ、騎士たちに命じて木の標的を裏庭に持ってこさせてくれ」
俺たちは裏庭に出た。領主館の裏庭は訓練場も兼ねているとの事。
「けっこう重いな、これがジェームス君が持つと軽くなるのか、ちょっと持ってみてくれ」
「分かりました、鞘に入っていると風魔法は展開できないので重いんですが、このように鞘から出していくと軽くなります」
「うーん、良く分からんな……上下に振ってみてくれ」
「こうですね」
ジムが大剣を片手で持ち上げて、上下に振って見せる。
「おおう! 本当に軽そうに見える」
「では、あそこに立ててもらった訓練用の標的に、先ずはゆっくりと刃を当ててみてくれ」
「はい、ではこんな感じで」
ジムは大剣を片手で持ったまま、木製の標的に軽く当てた。
「ウォッ!」
(そうだろうな、ゆっくりでも風魔法の展開によって、木で作った標的ならばスパンと切れる。オークの首もちょん切れたんだからな)
「なんという切れ味なんだ!」
領主様はここにきて慌てだした。
「ちょっと待ってくれ……おーいジョセフ、あれを持って来てくれんか」
「対ゴーレム用の標的でございますね。かしこまりました」
無言で頷く領主様。
(『あれ』で分かるジョセフさんってば、マジで出来る人)
思わずそう呟いてしまった。
「フフ、長い付き合いでございますからな」
俺に向かって、ジョセフさんが微笑んだ。
そして、俺たちの前に持ってきてもらったのは、ゴーレムだ。いや、動かないゴーレムだった。
岩で出来た、かなり重そうなゴーレムの人形だった。
運んで来てくださった若い騎士さんたち、ご苦労様です。
「これではどうだ。さすがに刃こぼれは免れんだろう」
「アル、いいんだよな」
ジムが俺に視線を向ける。
「試してないけど、たぶんいけると思う」
「なにっ?」
「では、いきます!」
ちょっと鈍い音がしたけれど、ゴーレム人形も斜めにスパッと切れた。もちろん、刃こぼれは無い。
「やったね、アル君」
「ジムも凄い」
「……」
エミーとミラは嬉しそうに拍手を送っている。
しかし、領主様はそのまま動かなくなった。




