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第66話 魔法大剣の届け出

 俺たちはアイアンリッジからの帰り道、もう1匹のオークを見つけた。

 レアンの村からは離れているので今回の依頼の対象にはならないが、魔道大剣の性能確認には最適ではないだろうか。


「おっしゃ、俺に任せろ」


 ジムは大剣を持って、威勢よく駆けていった。


「おい、後方支援は?」

「大丈夫、いらねぇぞ!」

「あいつ大丈夫かな」


 やれやれと思いながら、俺は魔道ガンを取り出してジムの後を追う。

 しかし、オークと対峙したジムは棍棒での攻撃を軽く受け流し、前回と同じように膝を目掛けて大剣を振り上げた。と、その瞬間にオークの左足は膝から下がスパッと切断されてしまい、咆哮と共に体制を崩す。

 更にジムは、軽くサイドステップを踏みながら大剣を振り下ろした。


「ズシャッ」という音と共に、オークの首は胴体から切り離されて飛んで行く。


「お疲れ。どうだった?」

「……滅茶苦茶使いやすいなこれ。動きは軽い剣と同じなのに、耐久は大剣そのもの。そして切れ味はまるで布切れでも切るかのようにサックリ切れて殆ど力が要らねえ」


 剣の刃の周りには風魔法が展開して、動かす方向に引力が発生する。風魔法の魔法剣と言っても良いのではなかろうか。


「これだったら、剣先が当たってなくても切れたりできるんじゃないか?」

「それも可能だと思う。突きに対して剣先から風魔法を大きく展開すれば出来そうだけど……扱いに慣れてからがいいかな」

「そうだな」



「現地での討伐達成の確認できました。4日間で達成されるとは、お早かったですねー。これで依頼完了です。こちらは今回の報酬になります」


 4日間と言っても、討伐を完了したのは当日だ。その後はアイアンリッジに行って3日間潰しているのだから。


「ありがとうございました」


 俺たちはその足で領主館に行くために、冒険者ギルドを後にした。



「こんにちは。突然で申し訳ありません。今日は領主様っていらっしゃいますか?」

「ああ、いらっしゃるぞ。アンナを呼ぶからちょっと待ってろ」


 アンナさんはすぐにスカートの裾をめくって走ってきた。いつもどおりだ。


「また来てくれたんですね!」

「うん、でも今日は領主様に届け出をするだけだから、要件が終わったら帰っちゃうよ」

「ええーっ、そんなー。せめて、夕食くらい食べていってくださいよー」

「……アル君、どうする?」

「領主様がいいって言われたらね」

「やったー、領主様に言っておきますー」


 領主館の入り口までを歩く間に、そんなことをメイドのアンナさんと話しながら進んで行くと、執事長のジョセフさんが待っていた。


「ようこそおいでくださいました、“月盟の絆”の皆様がた」

「ジョセフさんこんにちは、本当は予約を入れなければいけないのに、いつも急な訪問で申し訳ないです」


 領主様は貴族様なので、いつも突然訪問している俺たちはとても失礼なことをしていると思う。


(しかしジョセフさん、俺たちのパーティ名を何で知ってるの?)


「いえいえ、アルフレッド殿であれば何も問題ありません。ちなみに、なぜパーティ名を知っているのかと疑問を持たれたかと思うのですが、冒険者ギルドより報告が来ますので私も知っておるのですよ」


(読心術? いや、ジョセフさんは多分、超能力者ではないだろうか)


「一応、決まりとなっておりますので武器の類はお預かりいたします」

「この大剣は領主様にお見せしたい物ですので、後ほど持ってきていただいてもよろしいですか?」

「そうなのですね、かしこまりました」



 この前の様に、応接間へ通されてお茶をご馳走になっていると、ドアをバーンと開けて領主様が入ってきた。


(静かに開けられないのか? その内ドアが壊れるぞ)


「やあ、みんなよく来たねぇ! ジェームス君も一緒にパーティに入ったんだってねぇ」

「はっ、騎士団にいたころは色々とお世話になりました」

「みんな、座って、楽にしていいから」


 そう、ジムは最初に入った騎士団はここの騎士団だったったのだ。


「ジェームス君は頑張り屋でね、うちの騎士団に入ってからの上達ぶりは私も感心しているよ」

「たしか、見習い騎士に応募して合格したんですよね」


 エミーも見習い騎士に合格してから何故王宮騎士団にいたのか聞きたいようだ。ジムはなぜか肩をすぼめて俯いている。恥ずかしいのかな?


「そうそう、彼は見習い騎士からのスタートだけど、僅か3カ月の養成期間を経て当家の騎士団に入団したんだ。その後もメキメキと剣の腕が上達していって、私から王宮騎士団への編入を提案してみたんだよ」

「あの時は本当にありがとうございました。俺もアル達に負けたくなかったし、王宮に行けるって聞いた時には本当に嬉しかったんです」


 俺やエミーたちが魔道学園に入学したのを知っていて、自分も何とか王都に行って俺たちと肩を並べたいっていう一心で頑張っていたのだろう。自分で決めたことは一生懸命に頑張るタイプだからね。


「でも、王宮騎士団を辞める事になって、大変申し訳ない気持ちなんです」

「それについてはレオノール君から聞いているよ、彼が勧めたってね。これからの道をアルフレッド君と一緒に歩んだ方がきっと君の為にもなるし、ひいては国の為になるだろうからって」

「そう言っていただけると助かります」


 国の為になるってのが良く分からないが、ジムが助かるって言っているのだからいいんだろう。


「で、今日はどのような用件で来られたのかな?」

「あっ、そうでした。ジョセフさん例のものをよろしいですか?」


 俺は、部屋の隅でいつの間にか待機していたジョセフさんに声をかけた。


「承知しました」


 ジョセフさんは入り口のドアを開け、入り口で待機させていた若い執事さんから大剣の乗ったカートを受け取った。


「こちらでございますね」

「はい、ジョセフさんありがとうございます。領主様、実はこの大剣なのですが、新しく開発した魔道具となっております」


「ほう、今度は剣に魔道具の要素を付与したのか。それで、どのような魔道具にしたのかい?」

「はい、この剣は重さが結構ありますが、……」


 俺は剣に風魔法を展開させたことを細かく説明した。説明していて理解してもらえるか不安になったが、領主様はすぐに理解してくれた。


「なんと、刃に風魔法が展開するとそうなるのか!」

「実際にどのようになるかは、ジムにやってもらおうと考えています」

「分かった、では早速裏庭に出て試してみよう。ジョセフ、騎士たちに命じて木の標的を裏庭に持ってこさせてくれ」


 俺たちは裏庭に出た。領主館の裏庭は訓練場も兼ねているとの事。


「けっこう重いな、これがジェームス君が持つと軽くなるのか、ちょっと持ってみてくれ」

「分かりました、鞘に入っていると風魔法は展開できないので重いんですが、このように鞘から出していくと段々軽くなります」

「うーん、良く分からんなあ……上下に振ってみてくれ」

「こうですね」


 ジムが大剣を片手で持ち上げて、上下に振って見せる。


「おおう! 本当に軽そうじゃないか」

「では、あそこに立ててもらった訓練用の標的に、先ずはゆっくりと刃を当ててみてくれ」

「はい、ではこんな感じで」


 ジムは大剣を片手で持ったまま、木で出来ている標的に軽く当てた。


「ウオッ!」


(そうだろうな、ゆっくりでも風魔法の展開によって、木で出来た標的くらいならばスパンと切れる。オークの首もちょん切れたんだからね)


「なんという切れ味なんだ!」


 領主様はここにきて慌てだした。


「ちょっと待ってくれ…… おーいジョセフ、あれを持って来てくれんか」

「対ゴーレム用の標的でございますね。かしこまりました」


 無言で頷く領主様。

(『あれ』で分かるジョセフさんってば、マジで出来る人)


「フフ、長い付き合いでございますからな」


 俺に向かってほほ笑むジョセフさん。

(俺が思っていることも筒抜けだし)



 そして、俺たちの前に持ってきてもらったのは、ゴーレムだ。いや、動かないゴーレムと言った方がいいだろう。

 岩でできていて、重さが何トンもあろうかというゴーレムの人形だった。

 運んできてくださった若い騎士さんたち、ご苦労様です。


「これではどうだ。さすがに刃こぼれは免れんだろう」

「アル、いいんだよな」

「試してないけど、たぶんいけると思う」

「なにっ?」

「ではいきまーす」


 ちょっと鈍い音がしたけれど、ゴーレム人形も斜めにスパッと切れた。もちろん、刃こぼれなんかは無いようだ。


「「やったね」」

「……」


 エリーとミラは嬉しそうに拍手を送っている。

 しかし、領主様は固まってしまわれた。

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