第64話 再会とステータス魔法
「よう! 久しぶりっ!」
「久しぶりって、何でこんな所にいるんだよジム」
「ハハ、騎士団辞めてきちゃったよ」
「「ええぇーーー?」」
「詳しくは晩飯食いながらでも話すわ、これから宿屋いくんだろ?」
「そうだけど……」
騎士団を辞めて来たというのに、宿屋に向かうジムの顔を観察するに何だか嬉しそうだ。悲壮感などは全く感じられない。
「こんにちは!」
「あら、ジム君やっと合流できたんだね!」
「えっ?」
(女将さんがジムの事を知ってるってことは……)
「お女将さん、今日はアルの部屋に泊まるよ、いいよね」
「いいさー、あんた達もお仕事お疲れさんだったねぇ。夕飯はもうすぐ出来るからちょっと待っててね」
「そんじゃ、晩飯を食う前に事情を話すわ」
そう言ってジムは、食堂のテーブルの1つに腰かけて手招きした。
「前にアルが言ってただろう、学園を卒業したらルノザールに行って冒険者をやるって。それを聞いた時に、ミラもエミーも絶対一緒に行くだろうって踏んでたんだよね。それで俺も無性に冒険者を一緒にやりたくなってさー、騎士団長さんに相談したんだよ」
(なるほど、修業旅行で馬車の御者を一緒にしたときに、そういう話をしたな)
「そしたら騎士団長さんは、お前と一緒に行動することができれば絶対その方がいいって言ってくれてね。新年度になったとき、騎士団を辞めて真っ直ぐここに来たってわけさ」
ルノザールには昨日到着したらしい。先ずは冒険者ギルドに行って俺たちが依頼中で出ていて、依頼完了がいつになるか分からない事と、冒険者の館トロフィアを紹介したことを聞いたとの事。
トロフィアでも1週間は宿を取っているからその間には帰ってくるだろうと思った事などを話してくれた。
「それで、冒険者ギルドで待ち伏せしていたわけか」
「待ち伏せって何だよ、人聞きが悪いなぁ。でも帰るのはもう少し先だと思ってたから、2日目でみんなに会えたのはラッキーだったよ」
依頼主の村に行こうとも考えたが、入れ違いになるのは嫌だったからギルドで待つことにしたらしい。
最悪は5日間、冒険者ギルドで俺たちの帰りを待つつもりだったようだ。
「ジムはいつも私たちをビックリさせるよねー」
「ジムはビックリ魔」
(再会する時にはいつも俺たちをビックリさせてるもんな。そしてミラさん、ビックリ魔って言葉変じゃない?)
「夕食出来たけど、もう食うかい?」
「あ、いただきます!」
「昨日からここの料理食べてるんだけど、美味いよね」
「おやじさんが作ってるらしいわよ」
「はい、お待ちー」
「ここの料理は美味しいなって言ってたところで、いただきます!」
「ハハハ嬉しいねー、若いんだから一杯食いなよ」
ジムは相変わらずだな。
「俺たちは今パーティを組んでいてさ、ジムも一緒に入るかい?」
「冒険者ギルドのお姉さんに聞いたけど、3人で月盟の絆っていうパーティを組んでるんだよな」
「そうだよ、私たちはルナの出身じゃない? だから月の盟友ってこと」
「そしたら俺もバッチリ条件に合ってるよな」
「そうだぞ、で……入るんだろ?」
「入る入る!」
「他の二人もいいよね」
「うん!」
「もちろんよ」
「決まったな、明日冒険者ギルドに行ってパーティに加えてもらおう」
こうして幼馴染4人でのパーティが始動した。
冒険者ギルドでのジムのパーティ加入は簡単だった。
そして、ジムの冒険者ランクはDランクだったが、彼がパーティに加わっただけでパーティのランクがCランクになったのだ。
人数が増えたからなのか、前衛が増えてバランスが良くなったからなのか。
からくりは良く分からない。
ルノザールの冒険者ギルドに来る依頼は、基本ルノザールから1日ほどで行ける近い場所での依頼となるが、稀に行きだけで2日かかるところもある。
近隣の小さなギルドで受託できそうなパーティが居ない場合、比較的大きなルノザールのギルドに依頼が回ってくるためだ。
この場合の依頼料は高く設定されることが多く、俺たちはそんな依頼から5日間以内で終わりそうなものをチョイスして受けまくった。
1週間のうちに1日だけは休みを設けた。休暇は必要であるし、それぞれの自由時間も必要なのだ。
俺は冒険者ギルドで見たカード作成の魔道具を何とかして解析したいと考えていた。
でもそれは簡単には叶わない。
なぜならば、これらの魔道具は“特殊魔道具”という括りで、魔道学園を卒業しただけの魔道具師には扱うことができない決まりになっているからだ。
あの魔道具は、プレートの上に手を置くだけでその人の冒険者ランクが表示された。という事は、ランクを判断する為の情報を手から入手しているはずだ。
電波のような物を手から発しているのか? 熱とか? 振動とか? 俺は考えられることをいくつか並べて検討していった。……魔力か? いや、魔力を持っているのは魔術師と言われる人たちだけで俺たちには魔力が無い。
いや待てよ、別に魔力を出してなくてもいいんじゃないか? プレート側から魔力のような物を発してその反射を検知するとか。ちょうど地球の病院にあったエコー診断装置やCTスキャンの様に人体からの反射や透過を検知すればいいのではないか?
俺は休みの時間を使って考えた。
考えに考え抜いた結果、魔力を人体にぶつけることによって人体の水素原子核が一時的に磁化するのではないかという事と、魔力をぶつけたり停止させたときに発生するエネルギーを魔道コイルによって検出すれば、その人固有の情報が引き出せるのではないかという考えに至った。
魔力の発生と検出にはMR装置のコイルを使い、その発射と停止の制御をプログラムに任せることで人体固有の情報検出を試みてみた。
「これは! な、なんだ?」
検出はできた。検出はできたのだが、何を検出しているのかさっぱり判らない。表通りを行き交う人達を検知してみると、違った情報を検出していることは分かっている。
「あとは、これらの情報が何を意味しているのか調べないとな」
俺は魔道学園の魔道科長、ミレーヌ先生に手紙を書いた。これまで調べた内容とやりたいこと。個人のステータス情報が正確に検出できないかを考えているのだと。
◇◆◇
2週間後にミレーヌ先生から返事が来た。
先生によると、人には様々な情報が体の中に存在している。性別や年齢、種族や経験値、武力や魔力の熟練度、その時の体力や魔力の量などが体の中には情報としてひしめき合っているのだそうだ。
それらを正確に検出できる技術はまだ確立されていないが、経験値だけは特殊魔道具として実用化されているものがあるようだ。おそらく冒険者ギルドで見たプレートだろう。
そして今、アルフレッド君が検出した情報は、おそらくこのような情報であろうということを過去の論文から紐解いて調べてくれたのだった。いやいや、これは有難い!
手紙の最後には、誰にも何も聞かずにここまで出来るとは、君はやっぱり末恐ろしいな、と書かれてあった。
早速俺は、この情報をもとにプログラムを組みなおした。そして、プログラムの起動を『ステータスオープン』という思念コマンドに設定した。
MRに自分の手を近づけてコマンドを念じてみる。
―― ステータスオープン ――
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名前:アルフレッド(月見里拓郎)
年齢:16歳(28歳)
性別:男
経験値:685630
レベル:35
ランク:B
体力:889/950
魔力:5/5
――――――――――――――――――
「うぉーー!」
(思わず唸ってしまったじゃないか)
MRの中の仮想空間に、自分のステータスと思われる情報が表示されたのだ。
地球のゲームに出てくるものと比較すると貧相なものではあるが、しかしこれだけでも十分であろう。
(しかし俺にも、魔力があったのだ! ちょこっとだけ)
早速明日は、メンバーのステータスを調べてみよう。




