第63話 ミラのサーチ魔法
レーダーに表示されたワイルドボアは、今日で狩りつくした。明日はもう少し深く森に入ることになる。
「明日は、範囲をもっと広げて奥の方を探索します。効率は落ちますが、あと5頭ぐらいは狩れると思いますよ」
「そうかいそうかい。有難いことじゃなー、宜しく頼むよ」
晩ごはんには、今日仕留めたボア肉を焼いた料理が出てきた。
今日のワイルドボアだけでも、村全体の家族に分配し、それでも余っている。残りの半分を明日ルノザールに売りに行き、もう半分は燻製にして保存食にするそうだ。
この日は結構疲れていたためか、早めに眠気が襲ってきた。
8頭ものボアを大八車まで引きずって乗せたり、それを村まで引っ張ったりと、俺は結構大変だったのだ。
◇
次の日の朝、エミーとミラから提案があった。
「あのね、昨日はアル君ばかり働いてたでしょ。だからアル君の負担を少なくできないかって、ミラと話したの」
「それは有難いけど……」
「私がサンダーボルト、ミラがウインドカッターでやっつけるってのはどうかな」
気持ちは有難いのだが、それだと問題がある。
「うーん、それだとサンダーボルトの音で近くのボアが逃げてしまうし、ウインドカッターだと攻撃が届かないよ」
「あうっ」
「気持ちは有難いから、ボアを引きずるときにロープを引っ張ってもらうのを頼もうかな」
大八車はどこにでも入って行けるわけではない。時には魔物の亡骸を10mほど引きずって乗せなければならない場合もある。意外とこれが大変なのだ。
「分かった、村の人に少し長いロープを借りてくるわね」
「サーチをやってみる」
「えっ?」
どうやら携帯レーダーの存在が、ミラの闘争心に火をつけてしまったようだ。
確かに、ミラは風魔法と雷魔法の素質があるから、訓練をすればサーチ魔法が出来るようになるかもしれない。
「でも、サーチ魔法は結構難しいらしいわよ? サマンサ先生だってサーチ魔法が出来るようになったのは30歳過ぎてからなんだって言ってたから」
「携帯レーダーの動きで、何となく分かった」
「そ、うなのか?」
改めて、ミラの魔術師としての素質に驚かされる。
俺は魔術師が発現する魔法陣をもとに魔道具を作ってきたが、彼女は逆に魔道具の動きを感じ取って魔術に活かそうとしているのだ。
「やってみる」
「お、おう」
「やってみて!」
「サーチ!」
何も起こらない……と思ったが、サーチ魔法の魔法陣は地面の下に発現するものだった。
「どう?」
「何となく、わかる」
「おおー」
分かったらしい。
「でも、方向しかわからない」
「どっち?」
「あっち」
確かに、携帯レーダーでも彼女が指さした方向に魔力反応がある。
「凄いよミラ! サーチも出来るようになったんだね!」
「でも、まだまだ。もっと頑張る」
昨日は8頭だったが、彼女たちの作業の助けもあり、今日は探索範囲を広げたおかげで午前中だけで7頭を仕留めた。
そして、これ以上はかなり奥の方まで行かなければ見つからない事を村長さんに伝える。
「これで今年の収穫時期には被害が大幅に減るだろうて。大変助かったよ」
結局のところは15頭の駆除に留まったが、村長さんはたいへん満足してくれた。ギルドの依頼書に駆除頭数とサインをもらうことができた。
依頼完了である
その日の午後には、ボアの解体と魔石の取り出しの手伝いを俺がやり、燻製肉の仕込みをエミーが手伝った。
ミラには氷の生成を行ってもらい、明日の朝に街に売りに出かけるまでの保存を任せた。
アイシクルの魔法で作る氷は、瞬間的に凍って冷却能力が高い。地球の冷蔵庫で作った氷のように直ぐに溶けてしまうことは無いのだ。多分、温度がかなり低いのだろう。
俺たちは、もう一晩だけ村長さんの家に泊めてもらった。
そして次の日の朝に、俺はやってみたいことがあった。
「ミラ、この上に立ってサーチ魔法をやってみてくれる?」
「なんで?」
「俺はサマンサ先生のサーチ魔法の魔法陣を知ってている。ミラの魔法陣と比較して改良できるような所が有ったら助言したい」
魔法陣を記録している……とは言えない。
「うん、わかった」
「アル君だからね。出来るかも」
ミラは相変わらず無表情なのだが、喜んでいるのが俺には分かる。
「じゃあ、いく……サーチ!」
「わあ、奇麗!」
台の上に乗ったミラの足元には、直径はサマンサ先生の半分ほどだが、奇麗な薄青色の魔法陣が発現し回転している。
俺はその魔法陣をMR装置によって記録し、その場で解析を行ってみた。
「サマンサ先生の魔法陣と比較すると、魔力波を発動するところはあまり変わらないけど、反射してくるのを検知する部分が弱いね」
「うんうん」
ミラは真剣だ。
「アル君、そんな事まで分かるんだー」
「魔力のある所にサーチの魔力を当てると、光がガラスで反射してくるように魔力波が反射してくるんだ」
「うんうん」
ミラの目が輝いてきた。
「そしたら、その反射の波がどの程度の時間で帰って来たかを調べれば、その魔力までの距離が分かると思う」
「分かった! やってみる」
(えっ? それで理解したの?)
「サーチ!」
今度はサマンサ先生の魔法陣に引けを取らない、大きな薄青色の魔法陣が発動した。
「わーーー! 凄い!」
「今度は結構いいんじゃないか?」
「マスターした」
「もうマスターしちゃったのかよ」
「アルのおかげ」
ミラの魔術師としての才能に、底知れぬものを感じた俺とエミーだった。
その後、昼過ぎには定期馬車の停留所から馬車に乗り、ルノザールへの帰還の途に就いた。
◇
「まずは、これどうすればいいかな?」
夕方のルノザールの街で、俺は背負った2頭分のワイルドボア肉をどうすればよいか、彼女たちに相談した。
「冒険者ギルドで引き取ってもらえるのではない?」
「商業ギルドのカードも持っているけど……」
「討伐依頼がそっちだから、肉もそっちだと思う」
ミラの言う「そっち」は冒険者ギルドの事だ。
「そうだな、冒険者ギルドに持って行ってみようか」
ボア肉を背負ったまま、俺たちは冒険者ギルドに向かった。
(けっこう重いな……)
「すみません-ん! 依頼の達成確認とワイルドボアの肉を引き取ってもらう事出来ますか?」
「あらー、重そうですね。では先ずは引き取りカウンターの方で、引き取りからさせていただきますねー」
重かったので助かった。カウンターの奥でワイルドボア肉の重さを測り、その後に依頼達成の手続きを行った。
「依頼達成おめでとうございます。それにしても早かったですねー、今回の依頼料とワイルドボアの肉の代金は、まとめてアルフレッドさんのギルドカードに入れてもいいですか? それとも三名のギルドカードに均等で分配する方がいいですか?」
「えーっと、まだ決めてませんでした。均等割りでいいかな?」
「それだと、一番頑張ったアル君に申し訳ないよ」
「今回はそうかもしれないけど、場合によってはエリーの出番が多かったりミラだったりすると思う。だから、いつも均等割りって事にしておけば問題ないと思うんだ」
パーティでの分配率は、均等がいいと聞いたことがる。
「アル君がそう言うんだったら……」
「私もそれでいい」
二人の同意が得られた。
「均等割りでお願いします」
「分かりましたー、三名のギルドカードをお借りしますねー」
俺たちはそれぞれのギルドカードをアメリアさんに渡して記録してもらった。
宿に戻るため出口に向かおうと踵を返したところで、妙に視線を感じる。そちらに視線を向けようとすると、その前にはミラがそれに気付いていた。
「よう!」




