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第62話 初めての依頼

 次の日。

 3人とも、二の鐘が鳴るころには食堂に集まっていた。受けた依頼場所に行く準備をしてからの集合だ。


「昨日はよく眠れたかい?」

「はい、おかげさまで」


 全員が揃ったのを見計らって、宿屋の女将さんが朝食を運んでくる。


「今日は冒険者の仕事かい?」

「そうですね、南西の村の方にワイルドボアの討伐に行ってこようと思います」

「それは大変だねぇ。今日の昼は弁当作れるけど、持っていくかい?」

「ああ、それは助かります!」


 日によっては食材が無くて作れないけど、食材が余っている時には弁当が作れるとのこと。しかも冒険者には無料で作ってくれるのだそうだ。

 冒険者の宿とうたっているだけに、冒険者にとってはとても有難い宿なのだ。



 今回の依頼の場所は、ルノザールの街から南西に50kmほど行った場所だ。

 ルノザールからは、南西にあるリーゼの町まで定期馬車が出ている。それに乗って行くと半分程の距離にある農村の村長が俺たちの依頼主になる。


「はい、これお姉さんたちの3人分のお弁当。ケガしないように気を付けてね」

「あら、メイちゃんありがとー」


 昨日は受付をしていた宿屋の娘さんが、弁当を3人分作ってエミーに渡してくれた。一瞬俺の方を見たが、すぐに目を逸らしてエミーに弁当を渡していた。


(宿代の計算が終わるまで、待ってあげれば良かったな)



 ルノザールの街を出てから4時間ほど経って、依頼主の農村にたどり着いた。

 村の東側には森が広がっており、そこがボアの生息地になっているようだ。


 俺たちは馬車を降り、近くの木陰で昼食を食べてから村に入った。


「私がこの村の村長をやっとります、ゼノンと言います。今回はワイルドボアの駆除を宜しくお願いします」

「Dランクパーティの月盟の絆です。私はリーダーのアルフレッドと申します。宜しくお願いします」


 この村は、住民が百人以下の小さな村だ。

 森からそう離れていないこの村には、イモ類を育てている畑があり、収穫時期になると森から降りて来るワイルドボアによって畑を荒らされるため、その前に毎年依頼を出しているらしい。


「今年は早めに来てくださってありがとうございます。芽生えや成長の季節でもちょくちょく森から降りて来よるんで助かりますわい。何日かかかると思いますんで、宿泊は私んところにお泊りくだされ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えます」



 冒険者活動をするにあたって、俺はどうしても携帯したかった魔道具がある。それは携帯型の魔道レーダーだ。

 ある程度の大きさの魔物であれば、半径1kmほどの範囲を探知できる小型のものを、卒業までに研究室で製作しており、今日はこれを持参していた。


「ワイルドボアはどのくらいの範囲に何頭くらいいそうですか?」

「そうさな、森の奥には危険で入れないから範囲は分からんが、近くにざっと2~30頭くらいはおろうかなぁ」


 思ったより、数が多い。


「なるほど。では、何頭くらい仕留めればよろしいですか?」

「10頭くらいでも減ってくれりゃあ助かります」

「分かりました。ところで、予算はどのくらいでしょうか?」


 ギルドでの依頼にはワイルドボア1頭につき大銀貨1枚となっている。

 しかし、村にも予算ってものがある筈だ。やり過ぎて払える金額が用意できないという事もあるかもしれない。


「村で用意した予算は銀貨50枚なんだが、足りない分は冒険者ギルドの仲介で領主様から補助してもらえるんよ。だから、狩り過ぎて予算が足らんって事はないから大安心してくれ」

「分かりました。10頭を最低限に、出来る限りの討伐を行いましょう」

「それは助かるよ」


 補助が出るのならば、たくさん狩った方がこの村にとってもいいはずだ。


「討伐したワイルドボアの処理はどうします?」

「そうよな、魔石は不要じゃから全て君たちが取ってもらうとして、毎年毛皮と肉は半数ずつ村と冒険者とで山分けしとるが、どうだろうか?」


「それでは最低の10頭だとしても、俺たちも多すぎて持て余してしまいます。2頭分だけ肉を頂いてもいいですか? その他は村で分けてください」

「そりゃあもちろんありがたい。願ったり叶ったりだよ」


 余った肉はルノザールに運んで売ることもできるし、燻製にして保存することもできるから、村によっては助かるとのこと。

 多すぎる場合は、ミラが肉を氷漬けにしてあげることを約束した。

 話がまとまったところで、俺は立ち上がった。


 「じゃあ、早速始めようか」


 村の大八車を借りて、俺たちは森の方に入っていった。

 村からは見えなくなったところで、俺は携帯レーダーをバッグから取り出して動作させる。


「ねえ、アル君。それ何?」

「魔力の場所を調べる装置だよ。ほら、この一番真ん中の強い緑色がエミーとミラの魔力で、周りに点在しているのが魔物だね。魔物討伐研修の時、『こういうものがあったらエミーが怖い思いをしなくて済んだのに』っていう反省から作った物なんだ」

「アル君……」

「エミー……」

「魔物の森で、イチャイチャしない」

「そんな、イチャイチャなんてしてないってミラ」

「でも、サーチの魔法より正確」


 指摘した本人は、既にレーダーの表示に気が移っている。魔物の位置を興味深く確認していた。


「えーっと、画面を見ると一番近い点が200マタールくらいの距離にある。ゆっくり近づいてみようか」


 俺は魔道ライフルを構えながら、相手に気付かれないようにゆっくり進んで行く。緑の点まで50mほどに近づいたところで、ワイルドボア一頭を発見した。


「この距離からこの魔道ライフルで狙ってみる。君たちは外れた時を想定して魔法の準備をしてくれないかな」

「「了解」」

「じゃあ、いくよ」


 魔道ライフルは出力を制限することによって発射音を抑えることが出来る。

 サイレンサーを取り付けた銃の様な静かな音と共に、ファイアボールの玉が飛び出してワイルドボアに直撃した。

 弾を頭部に受けたワイルドボアは、その場で音もなく横倒しになった。

 先ずは、無事に1頭を仕留めることに成功だ。


 それからは、1頭仕留めるごとにワイルドボアを大八車にのせて村まで運んだ。

 肉を不味くしないために早めの血抜きが必要だからだ。

 有難いことに、血抜きや解体は村の人たちが「これで作物の被害が減る」と言いながら喜んでやってくれた。


 日が落ちるころまでには、8頭のワイルドボアを駆除することができた。


「1日でこんだけのワイルドボアが狩れたのは嬉しいが、逆にどんだけ多くのワイルドボアが居るのか心配になってきたなぁ」

「ああ、それだと大丈夫ですよ。この近くにいるのは全て狩りつくしましたから」


 こういう魔道具の存在を知られれば、余計な詮索を受けかねない。悪いが、ミラが魔術師としてサーチの魔法を使えることにさせてもらおう。


「彼女は半径1キタールまでの範囲の魔力を感知できます。その範囲にはもう、1頭もいない事が分かっています」

「ほぉー、そうなのかい、この嬢ちゃんがかい? こんなに若いのにたいしたもんだなー」


 俺がウソをついたからなのか、ミラの表情が良くない。他の人には分からないだろうが、俺には分かるのだ。


「あたし、分かるかも」


 ミラがボソッと独り言を漏らしたのを、俺は聞き逃さなかった。


(それってミラ……)


 まだ習得できていないサーチの魔法が、今だったら出来るかもしれない。俺には、そう聞こえた。

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