第55話 セージトータス
「このあたりが村の方向になる、倒れる方向はこの際考えるのはよそう。進行方向の木をできるだけ倒して進路を曲げさせようか」
「了解です」
俺とレオノール隊長は魔道ライフル2挺を使って、50mほどの距離を取りながら木の根元を狙ってトリガーを引く。
根元を破壊された木は縦横無尽に倒れてゆき、ほんの数分で大きな障害物の山が出来上がった。
「これはさすがに奴にとって障害になるだろう。うまく方向を変えてくれればよいが……」
耳を澄ますと、セージトータスの木々をなぎ倒す音がすぐ近くに聞こえてくる。
「もうそろそろだな、少し離れて様子を見よう」
俺たち調査隊の一行は、進行方向より左右に分かれて様子を見ることになった。
「見えてきたぞ!」
ゾウガメを大きくした様な巨体が、「バキバキ」という大きな音をたてて、前方の木々をなぎ倒しながらこちらに向かって来ている。
そしてとうとう、倒木で作った障害物の前に来た。
「動きが止まったぞ!」
障害物に阻まれたセージトータスは、斜め上に首を伸ばして咆哮をあげると、その後に障害となっている木々に向かって火炎を浴びせ始めた。
セージトータスの業火のもとでは、倒したばかりの生々しい木々も激しく燃え盛りあっという間に炭になっていく。
「まずい、障害を乗り越えて真っすぐに進むつもりだ!」
このまま真っすぐに進めば、獣人族の村が被害にあってしまう。
「魔道ビームライフルで狙います」
「頼む、このままでは被害が出てしまう」
おれは狙いを大きな甲羅に向けて、ビームライフルを発射した。
しかし、発射されたレーザービームはカメの甲羅によって見事に反射し、音もたてずに上方に弾き飛ばされてしまった。
「魔法が弾かれると言っていましたが、魔道レーザーも魔法と同様に弾かれてしまいます」
「何かいい方法はないものか」
俺は一つ考えがあったので、隊長に提案した。
「セージトータスは、攻撃を仕掛ければ炎を吐くと聞いています。俺が前方に回り込んで開けた口を狙いますから、調査隊の皆さんは魔法のスクロールを使って安全な距離から魔法を撃ってください。魔物が炎を吐こうと口を開けた瞬間にそこを狙い撃ちしてみます」
「かなり遠くから狙わないと危ないぞ、そうすると当たる確率が減ると思うが、大丈夫か?」
「大丈夫です、改良によって確度が上がっています。任せてください」
夜の暇な時間に、魔道ビームレーザーの改良を重ねていた。早速役に立つとは。
「俺は前方に回り込みます」
「分かった、アルフレッド君が回り込んだら皆に魔法攻撃の指示を出す」
セージトータスの側面にいた俺は、急いで追い越し前方に回り込む。もう森の出口に差し掛かっていて、後ろには村が見えている状態だ。
(視界は開けて狙いやすいけど、これで仕留め損なったら村がヤバいな)
村の入り口に陣取って、俺は魔道ビームレーザーの今回改良した点の1つ、折り曲げていたバイポッドを開き地面に立てる。そして地面にうつ伏せになって構えをとる。スナイパーライフルの構えかただ。
そして今回の改良点の2つ目が、新たに開発したアイテム、スナイパースコープの取付だ。
但し、今回取り付けたスコープはレンズが無く、MRアダプタの性能に依存したソフトウエアスコープで倍率は3倍~9倍のズームタイプ。
俺はバックパックから魔道スコープを取り出して、ライフルにセットする。取り付けもワンタッチだ。
「さあ、いつでも来い」
準備が完了したところで、レオノールさんに合図を送る。それを確認したレオノールさんは左右に展開した騎士たちに攻撃開始の合図を送った。
セージトータスの左右から、数種類の魔法攻撃が繰り出されてゆく。火魔法、風魔法、雷魔法など同時に発射されるがそれらは全て弾かれるか無効化されてしまう。
しかし、セージトータスとしてみれば迷惑千万。彼はたまらず、炎をまき散らすべく大きく口を開いた。
「今だ!」
青白い光線が一直線にセージトータスの頭部目掛けて発射され、そして口の中を直撃した。そしてその光線は後頭部から真っ直ぐ後ろへ抜けていった。
「ドッズーン!」
貫かれた頭部はそのまま力を失って地面に叩きつけられ、同時に大きな巨体も地響きのような音をたてて大地に沈んだ。
「ふうー」
俺は胸の内が熱くなる感覚を覚え、小さく息を吐き出した。直後『ドクン』とした体の変化が起こる。レベルアップの感覚だ。
「気配が消えたにゃ」
後ろで見守っていた村の住人のうち、暫く気配を探っていた一人からそんな言葉が発せられた。馬車の中で一緒だったニーナさんだ。
「ウオオオオオオーーーー!」
そして次の瞬間には、村の住人たちから大きな歓声があがった。
「アルはすごいにゃ。あんなに大きな魔物を一人でやっつけてしまったにゃー。あたいは強いオスが大好きにゃ」
「ニーナさん? 俺が強かったわけじゃなくて、この武器が強かっただけなんですよ」
「うんにゃ、強い武器を使いこなせるのも強いって事にゃあ。あたいと番になるにゃ」
ニーナさんが腕を掴んですり寄ってくる。
(ニーナさん、それってもしかして求婚ですか? って、いきなり何なんですか?)
「ちょ、そんなに腕に抱き付いたら動きづらいからやめてください。近いですって」
猫耳がすぐ目の前でパタパタしている。触りたい衝動に駆られるが、多分それは今やってはいけない事だ。『あたいの耳に触ったからもう責任とってね』って、そんな展開になりかねないと頭の中で警鐘が鳴った。
調査隊と村の若者たちの面々は、暫くたっても動き出さないことを確認して、巨大なカメに近づいている。
そこに村長が大鉈を持って現れ、カメの首を叩き切った。硬かった首の皮は、命を落とした今では柔らかくなっているようだ。
「血を抜くにゃ。早い方がいいにゃ」
本当は尻尾を吊って血を抜くのが良いが、30マタールもの巨体はどう考えても吊るせない。仕方が無いから首だけ切って出る分だけでも血を抜いたほうがいいようだ。
それからは解体作業に時間が割かれた。
そのままの状態では腐ってしまうし、運ぼうにも重くてびくともしない。
仕方がないので首を取った場所の甲羅の隙間から中に入り、内側から肉を削ぎ取っているのだ。
「おーい、アルフレッド君。こっちに来てくれないか」
「えっと、ニーナさん。呼んでるから離れてくれませんかねえ」
「あたいも一緒に行くにゃ」
「えーー」
「こらニーナ、アルフレッド君が困っているじゃないか。離れなさい。すまんねぇ、うちの娘が迷惑かけて」
(あ、そうなんですか、村長の娘さんなんですね)
「はあ、すこし動きづらいので少し離れてもらえると助かります。はい」
「ニーナ、いい加減に離れなさい。うちの子はまだまだ子供ですみません」
「子供じゃないにゃ、もう30歳になるにゃあ」
「30歳はまだまだ子供だ」
(やっぱり、子供なんだ)




