第52話 更なる依頼
この町フィリルは、迷宮マギコーストが近くにある事で栄えている小さな町だ。
人口は約千人。見た目より少ないと思ったが、ルナの町でも同様で、冒険者の人数は人口の中には入っていない。ルナの町では冒険者の方が人口より多いのではないかと思ってしまうくらいだ。
まず覗いてみたのは武器屋。剣や槍等の前衛用の武器よりも、ロッドや弓のような後衛用の武器が多い。
「剣の種類はこれだけですか?」
俺は武器屋の店主に、他に剣は置いていないか聞いてみた。
いつになるか分からないが、ジムに魔法剣というか、魔道大剣を作ってやろうと考えているのだ。
「ああ、それだけだ。ここの迷宮は魔術師の迷宮だから、剣を欲しがる奴なんてほとんどいねえよ」
残念ながら大剣はなかった。王都へ帰ったらトラビンさんに相談してみるか。
魔術師用のロッドをいくつか見ていると、魔道ロッドに改造できそうな杖が見つかった。両手で持つタイプの大きなやつだ。
「この部分をくりぬいて……魔石はこのあたりにセットすれば恰好いいかな……」
「なに見てんの? それエミーへのお土産か?……にしては大きすぎねぇ?」
ジムはお土産を探していると思ったようだ。
「いやいや、これは俺用にしようかなって……」
「何言ってんの、お前魔術師じゃねえじゃん」
「そうなんだけど、魔術師のロッドを持ってると格好いいじゃん」
先日、MRを利用した魔道ロッドより、格好良く見せたいのだ。
「……お前、昔と違って何考えているのか分からない時があるよな」
「魔道学園で勉強してたらそうなったんだよ」
「ふーん」
日本での記憶には、大学に行ってから妙な方向に目覚めた人が数人いる。
「これ買いますから、商業ギルドカードで支払いは出来ますか?」
「ああ、できるぞ。これは……千2百リルだな。まいどありがとな」
「お前、けっこうお金もってんのな」
ジムが羨ましそうに、ギルドカードを見ている。
「魔道コンロやらの発明権料が入ってくるからな」
「お前、いくつもの魔道具を発明してるんだってな。……そのうち、貴族にでもなるんじゃね?」
「そんな訳あるかよ!」
国王様からがっぽりと頂いた事は、この際ジムにも黙っておこう。
俺は魔術師のロッドを手に入れたことで満足し、そそくさと冒険者ギルドへ戻った。
◇
マギコーストの4日目は休養に当てられているが、午前中はギルド2階の会議室で、三日間の迷宮探索の順位や反省点などがサマンサ魔術科長から発表された。
「同じチェックリストで得点と減点を計算し、最終得点で順位を決めています」
途中でメモしていたと思ったが、あれはチェックリストだったのか。
「では、1位から発表します。1位、第2班。得点、2325ポイント。……ちなみに、魔石の数は460個。こちらは、歴代1位の成績です」
会議室に、拍手喝采が巻き起こる。
ライアナ先生が言っていたように、ゴルビーの魔石を全部回収したのが大きかったのかな。
午後からは自由行動となったが、フィリルの町には娯楽施設と呼べる店が無い。
冒険者の町だから分かるが、お店といえば武器屋と防具屋、雑貨屋に道具屋。食堂や飲み屋、そして謎の大人のエリアがある。
あとは、迷宮用の食料販売の屋台や露店などが多少出ているくらいだ。
俺たちは特にやることもなく、それぞれ思い思いに過ごして体を休めた。
◇
次の日、布に包んだ魔術師の杖を馬車の荷台に載せようとしていたら、それをエミーの目が追っていた。
「ねえアル、それって何に使うの?」
(そうくるよね……さて、どうしようか)
魔道ロッドを作ろうと思ってるなんて事、みんなの前では言えない。ライアナ先生も乗っているし。
「俺もエミーたちの様な魔術師に憧れててさ、武器屋でこれを見かけた時に、つい……か、買っちゃったんだよ」
(俺、きょどってないか?)
「あー、やっぱりアル君は魔術師になりたかったんだね! 私たちが魔法の練習をしてる時に、いつも魔術練習所の片隅の方で羨ましそうに見てたもんね」
「ああ、分かりますわ。アルさんは特にライアナ先生のお手本のとき真剣に見てらしたのよ。私はてっきりライアナ先生に恋してらっしゃるのかと思ってましたわ」
勘違いしてくれたのは助かったが、メグの勘違いも甚だしい。
「アハハハやめてくれ、私には子供もいるんだぞ」
「ねぇアル君ってさあ、年上が好きなの? ねぇ年上が好きなの?」
「勘弁してくれよ、俺は純粋に魔術師に憧れているだけなんだから」
魔道ロッドからは話が遠ざかったが、新たな誤解が生じてしまった。
術練習所で見てたのは、それは魔法陣のライブラリを蓄積するためだが、それも弁解が難しい。
俺はなんて秘密の多い奴なんだ。
「アルは嘘をつくとき、眉毛が上がる。嘘はついていない」
「ふーん、確かに嘘は言ってなさそうね」
(ミラさん? それは俺も知らなかったよ)
◇◆◇
魔術科修業旅行から帰還して5日後のこと、王宮騎士団の本部事務所で監視員が異変に気付いた。
「ここから250キタール南の森の中に、比較的大きな魔力反応が検出されました」
改良して範囲が広くなったレーダーの表示パネルを見て、監視員さんが異変に気付いたのだという。250キタール南と言えば、グランデール王国の最南端、カルトール公国に近いところだ。
即刻この異変は、レオノール騎士団長に報告された。
そして次の日、俺は魔道科長のミレーナ先生と共に、王宮騎士団の本部事務所に呼ばれた。
俺は状況が掴めずにミレーナ先生の後ろに立っていると、騎士団長が南のシルシェア盆地に異常な魔力反応が見つかったという。
「本来、このあたりの森には大型の魔物はいないのだ。この魔力反応が正しいならば、王国にとって脅威になる可能性がある。よって騎士団で調査部隊を編制し、調査を行う事となった」
騎士団長から調査を行う旨、幹部たちに通達がなされた。
「そこで大変申し訳ないのだが、アルフレッド君には今回の調査に同行してほしいんだ」
覚悟はしていたが、今回も国王陛下からの依頼らしい。魔道ビームライフルを持って行き、何かあった時には臨機応変に対応して欲しいという依頼だ。
「陛下は私の事を少し買い被られているようです。学生の私が行くのは問題ないのでしょうか?」
いくら魔道ビームライフルを持っていくにしても、俺はまだ魔道学園の生徒で15歳になったばかりなのだ。
「ああ、問題ない。陛下は君に期待されておられるのだ。今回の調査隊では、以前アルフレッド君が開発した魔法のスクロールを持参することになった。調査隊へ、使い方の指導をしてくれると助かるのだ」
そういうことなら仕方がない。
「分かりました。それで調査には何日ぐらいかかるのでしょうか?」
「現地までの距離は、道なりで三百キタール以上ある。移動は片道で10日間、現地の調査に5日、帰ってくるまで合計25日間を想定している」
(けっこう長い期間だな)
「出発はいつでしょうか」
「出発は3日後だ。それまでに準備できるか?」
「まあ、それだけあれば大丈夫だと思います」
俺は早速魔道ビームライフルと、魔道ガンにセットする魔石のチャージを開始。そしてもう一つの必須なアイテムを製作し、調査隊の出発に備えた。




