第51話 迷宮探索の反省会
「アル君、さっき変な言葉を喋ってたけど、あれ何? それに指をウニウニさせて、見ていて面白かったよ」
エミーはGと戦う気がまったく無い様で、俺の事をじっと観察していたようだ。
「あれは、魔道具を修正する時の詠唱みたいなものだ」
(ウソ、じゃないと思う)
「へぇー、魔道具を作るときも詠唱が必要なんだー」
「いや、皆が必要ってわけではないけどね」
(少なくとも、俺には必要なんだってことにしておこう)
俺は立ち上がって、いまだ殲滅できていないGの群れに狙いを定めた。
「みんな、待たせたな」
改良した魔道ガンは、散弾銃の様に銃口から一定の角度でファイアボール弾が広がってゆく。
それでも魔術師のファイアボールと比べスピードは遥かに速く、一瞬にしてその範囲のGの群れを焼き払っていった。
それから僅か1分ほどの短時間で、全てのGの群れが壊滅した。
◇◆◇
時間は30分ほど前に遡る。
事の発端は、5階層に降りて暫く進んだ時だった。
メグが隠し部屋を見つけたのまでは良かった。それを聞いたエミーが「やった! 宝箱があるかもーー!」って叫び、いきなり走って行って扉を開こうとしたのだ。
「エミー、まてまてまてまて!」
俺は嫌な予感しかしなかったので、全力で走ってエミーを止めに行った。しかし、俺が駆け付けた時には、扉が半分ほど開いた状態だった。
「ひぇっ?」
中を覗いたエミーは、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。
案の定、嫌な予感は当たってしまい、半分開いて閉まらない扉からは……手のひら大ほどのGの群れが、出てくるわ出てくるわ。
仕方なくお姫様抱っこして先ほどの岩場まで運んだのだが……。
そして――それが、先ほどの恐怖の戦闘状態に至った経緯である。
◇◆◇
「ふうー、もう動いてるやつはいないな」
「精神的に何かもう、……疲れましたわね」
「ああ…… もう戻るか?」
「魔石が…… もったいない」
倒したGの死骸はおそらく三百程度あるだろう。ミラはこの300個の魔石がもったいないと言っているのだ。
(確かにな)
「仕方がない、……俺たち男性陣で回収しようか」
昇天しているGはお腹を上にして事切れている。それは地球上のGと同じだが、こちらのGはお腹もこげ茶色だ。
足の付け根にナイフを挿して、甲殻をひっくり返せば中の魔石が取り出せる。
しかし『男性陣で』と言ったにもかかわらず、ミラは進んで参加した。
ミラは魔石集めを嬉々としてやっており、むしろ楽しそうですらあった。この中で一番気丈なのはミラではないだろうか。
対して俺とお坊ちゃん風なウィル君は、終始しかめっ面だ。彼もGには抵抗があるようだ。
ほぼ全数の魔石を回収し終えたあと、俺たちは早々に迷宮を引き上げた。そして冒険者ギルドに戻り、反省会をすることにした。
◇
時刻はまだ五の鐘が鳴った後、午後2時を回ったところだ。俺たち2班とライアナ先生の8名は、冒険者ギルドのロビーにある丸テーブルの一つを囲んだ。
時刻はまだ早いのでギルド内はガラガラだ。
「はあぁ疲れた」
「戻りましたわね」
「みんなごめんね、私が隠し部屋の扉なんか開けなければよかったのに」
本当にごめん、とエミーはみんなに頭を下げている。
「エミーが開けてなかったら、私が開けてましたのよ」
「しょうがないよ、あんなところに『開けてくれ』とばかりに隠し部屋があるんだからさ」
「エミーさんを止められなかった僕たちも悪かったよ」
「エミーのおかげで魔石が300個も集まった。嬉しい」
あからさまにエミーを非難するような者はいない。エミーが既に深く反省している事が分かっているからだ。若干一名、エミーを褒めている者もいるが。
「先生は知っていたんですか?」
「ああ、知っていたよ」
「ではなぜ事前に注意してくれなかったんですか?」
ライアナ先生は、微笑んだ。
「あれはねえ、ゴルビー洗礼部屋って言って、探索の先端を行っているチームが必ずと言っていいほど引っかかる部屋なんだ。あの部屋にあるゴルビーっていう魔物はねぇ、気持ちは悪いけれど人を襲わない魔物なんだよ」
ゴルビーって言うらしい。
「えっ? でもこっちに向かって来てましたよねえ?」
「それはね、向かって来てたんじゃなくて、逃げて来てたんだ。一つの部屋の中に二百匹とか三百匹とか、いっぺんに湧いてひしめき合っているから、自由になれるところを探して密集地帯から逃げ出して来てたんだよ」
「うわー。でもケガとかしないんですか?」
「まあ、かすり傷くらいはできるかも知れないがな」
危険ではなかったから教えなかっただけなのだろうか。いや、そうではないような気がする。先生が“洗礼部屋”と言ったからだ。
「あの部屋はなぜか、毎年誰かが扉を開けてしまうんだよ。そして半分でも開けたら扉は閉まらない。数が多いから殲滅は無理で、これがトラウマになってしまう子もいるくらいでね、もう二度とあんな隠し部屋の扉は開けたくないって思うのさ。ああそうだ、あの部屋のゴルビーを全滅させたのはお前たちが初めてだよ」
『無闇に迷宮の中の隠し部屋らしき扉は開けてはいけない』という教訓が、迷宮の中に用意されているというから驚きだ。
毎年誰かが開けてしまうってことは、なんか精神的な作用が働いているのではないだろうか?
まるで迷宮そのものが、人の好奇心を試し、教訓を与えているかのようだ。
「だからあの部屋に遭遇した君たちはラッキーなんだよ。命を守るための大切な教訓を迷宮に教えてもらって、おまけに魔石も大量にもらえたんだ」
逃げるのが精いっぱいで魔石を取り損ねたり、逃げるだけしか出来なかった年も何度かあったのだとか。
しかし、安易な行動は死に直結するという教訓を、特に危険もない状態で身に付けさせられるから先生たちとしては有難いことだと言う。
「点数を比較しなければわからないが、多分君たちがトップの成績じゃないかな。スピードも速かったし連携も申し分ない。扉を開けてしまったエミリーを非難する者は誰もいなかったし、チームワークは最高という訳だ。おまけに魔石の量もダントツだろう」
精神的なダメージを負っている俺たちに、魔石を取って帰ろうと提案したミラの精神力にも支えられているようだ。
「そういう訳で、君たちの迷宮探索の訓練は何も問題が無かった。あす1日は自由に過ごして疲れを癒すといい。また6日間かけて王都に戻らないといけないからな」
ライアナ先生の話を聞いてみんな安堵したのか、魔術師の面々は3階の部屋に行って少し横になりたいという。
俺とジムは体力的には全く疲れていなかったので、二人でフィリルの町を歩いてみることにした。




