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第48話 マギコースト迷宮探索1

「それにしても、すごく快適ですわね」

「なんでも、こないだの魔道科の修業旅行で、一番の発明品だって先生が言ってたわよ。今後は王国全体にどんどん普及するだろうって」


 王都からクルムまでの川沿いの道を南に進んできた俺たちは、学園の食堂で作って貰った昼食をセレニア川の土手に広げて食べていた。


 一番の発明品っていう言い方はおかしいのだが、それは俺が親方に話をして作ったんだぞーなんて野暮な事は言わない。


「王宮の馬車は装飾だけはいいのですけれど、振動が酷くてその内お尻の上の方が痒くなりますの。なのでこっそり手を入れて掻いちゃいますのよ。はやく王宮の馬車も改良して欲しいですわ」


 はしたないぞ、王女殿下! 男連中は聞かなかったふりして目をそらしているから。


「メグったらはしたないわねぇ、とても王女殿下の発言だとは思えないわよ」


(エミーはダメ出しするのか)


「あら、私だって普通の人間ですのよ」


「おいアル、どうしてこの国の王女殿下が俺たちの班にいるんだよ?」


 ジムが小声で聞いてくる。


「だって、そういう班分けなんだもん」

「いや、何でお前たちはそんなに馴れ馴れしく友達みたいに喋ってんだよ」

「だって、友達なんだもん」

「だもん、だもんって、お前いつから女みたく喋るようになったんだよ!」


(あ、小声からいきなり大声になりやがった)


「あら、アルさんはとっても男らしくって頼もしい方ですのよ?」

「あ、はい。すみません……です」

「ジム、いつものあんたらしく無いわね。メグも砕けて喋ってるんだから、あんたももっと砕けなさいよ」


(エミーも最初はそうだったんだよ、なんて野暮なことは誰も言わない)


「お、俺は王宮騎士団の騎士っていう立場なんだから、そういう訳にはいかねーんだよ」

「そうなりますわね、でもわたくしはそういうの全く気にしませんのよ、ジムさん」

「は、はぁぁ……」


 軍配は、王女殿下に上がった。


◇◆◇


 そんな感じで終始和気藹々に行きの行程が過ぎていき、予定通り6日後には冒険者の町フィリルに到着した。


(途中でジムから馬車の手綱を持たせてもらって御者の練習をしたけれど、誰も見てなくて良かったです)


「1週間にわたる移動、みなさんお疲れ様でした。今日は疲れをゆっくり癒す為に、早めに就寝してください。くれぐれも夜遅くまで話をしたり、枕を投げて遊んだりしないように」


 日本の修学旅行では昔やっていたと、おばあちゃんが言ってたな『枕投げ』。


「明日は1の刻に起きて、支度をした後に朝食です。2の刻には冒険者ギルドのカウンターで冒険者の仮登録の後、パーティ登録をします。その後にマギコーストに向けて馬車を発車させますので、1階のギルドカウンターには2の刻の鐘が鳴る前に集まっておくように。遅れたら減点になりまーす」


 4班の馬車に同乗しているサマンサ先生が、2階の食堂で明日の説明をしてくれる。

 ここは冒険者ギルドの建物で、2階が食堂、3階は宿泊所になっているのだ。


 毎年魔道学園から修業旅行として20名ほどの生徒がフィリルを訪れるため、ギルドと契約して宿泊所と食堂が学園の生徒と教師に解放されている。

 周りの先輩冒険者も温かい目で見ている人が多い。おそらく経験者も多数いるのだろう。



 次の日、俺たち2班は全員が2の刻前にギルドカウンター前に集合していた。


 これから冒険者ギルドへの仮登録をするのだが、俺だけはギルドカードを持っているので仮登録は不要だ。ジムたち騎士も皆冒険者ギルドには登録済みだ。


 エミーたち2班の5名が仮登録を行うと、次はパーティ登録だ。これについては俺も初めての経験になる。

 前にルナ迷宮にリアナさんたちと潜った時は、パーティ登録をしないで潜ったのだ。


「それでは、それぞれの冒険者カードをこの上に乗せてください」


 ギルドの職員がそういって、広めのプレートをカウンターに持ってきた。それぞれが自分のカードを上に乗せていく。


「7名で間違いないですね」

「はい、7名で間違いありません」


 ウィル君が代表で答えている。


「では登録を開始しますね」


 次の瞬間、魔術科の生徒5名と俺、そしてジムの7名が、目に見えない何かで繋がれた感覚が体の中を走った。でもそれは一瞬の事だった。


「繋がったわね」

「繋がりましたわね」

「うん、そんな感じがしたな」


 俺にとっても初めての感覚だった。



「じゃあジム、迷宮までお願いね」

「おう、任せろ」


(エリーは、自分たちの騎士がジムだったので馴れ馴れしく接しているけど、他の班は騎士に敬語を使って節度を保ってるんだからね)


「じゃあジム、迷宮まで行ってくれ」

「おいアル、おまえ騎士に対して馴れ馴れしいんだよ! たまにはお前が手綱を引けよ」


 俺はエミーと同じ事を言っただけなのだが、このジムの反応には心が癒される。


 結局、マギコーストまでの半分の距離は俺が手綱を握らせてもらった。これまでも何度かやらせてもらったし、目の前の馬車に付いて行くだけだから簡単なのだ。



「各自、台の上にカードをかざしてから入っていくように」


 迷宮に到着すると2班の引率の先生、ライアナ先生が迷宮への入り方を指南してくれる。ルナ迷宮とほぼ同じシステムの様だ。



「前衛の二人は左右に分かれて、後衛からの魔法が当たらないように気を付けてくれ、そして後衛からの攻撃が標的に当たって殲滅できた場合は魔石を回収して先に進む。もし殲滅ができなかった場合は前衛が盾と攻撃によって足止めをし、場合によってはそこで殲滅を行う」


 俺たち前衛は、後衛からの魔法攻撃が万一でも当たらないようにと、左右に分かれることにした。その方が気兼ねなく魔法を撃てるからだ。


「後衛の魔術師は1度目の攻撃で仕留めきれなかった場合、すぐに2回目の詠唱を開始し、全員の詠唱が終了した時点で足止め中の前衛は横にずれてもらう。その瞬間に魔法攻撃するというのが魔術師を含んだパーティの初歩的な攻撃方法だ」


「先生、魔法の種類はどのようにしたらいいんですか?」


「それぞれの得意魔法があるだろうが、魔物の種類によってダメージが異なるのは座学で学んだ通りだ。それらを思い出しながら自分たちで考えて魔法を繰り出すんだ」


 1階層ではどんなことがあっても対応できる魔物しか出てこないから、大丈夫だとライアナ先生は言う。

 自分たちで考えながら対処することによって経験が積まれ自然と臨機応変に対応できるようになるのだそうだ。


「他の迷宮ではそうはいかないが、ここマギコーストの迷宮では1階層から3階層まではFランクの魔物しか出てこない。先ずはFランクの魔物で動き方の経験を積むんだ。そしてパーティの中で話し合ったり、反省したりすることも必要だ。分かったかな?」


 俺もそうだと思う。最初から頭で考えるよりもやってみる方が速いし、反省点も分かってくる。


「確かにそうだよね、魔物討伐研修でも一応の経験はしたけど、今度はパーティを組んでいるからチームワークが必要だし、みんなで話し合いながら効率的に進んだ方がいいよね」


 ここマギコーストの魔物は、1階層に出てくるのがカニや虫型の魔物だ。大きさはさほど大きくないので初心者には丁度いい。


「カニは動きが遅いけど、虫系は動きが速いから要注意だな。足が多い生き物が苦手な人はいる?」


 ジムがみんなに訪ねると、二人から手が上がった。エミーと王女殿下である。

 足が6本以上あるというだけで苦手意識を持つ人は結構いるものだ。


 カニの魔物は地球のカニを大きくした様なものだから、タラバガニだと思えばなんて事はないし動きも遅い。


「苦手な人もいるみたいだから、離れて魔法を撃ってもらっても構わない。こいつらは動きが遅いから、最悪当たらなくても俺たちで対処できると思う。だから、練習だと思ってバンバンやってくれ」

「ちなみに、弱点は火魔法と雷魔法ね」


 ジムの説明で足りなかった魔法の弱点部分を俺がフォローする。

 1階層ではそこら中に魔物がいるが、向こうから襲ってくることは無い。


(さあ、パーティでの迷宮攻略をスタートしようか)

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