第47話 魔術科の修業旅行
魔道科の修業旅行を無事に終えた俺は、魔術科の修業旅行に駆り出されるまでの間に馬車の改良を行う事にした。
アイアンリッジのガルッグ親方に頼んで、作って貰った板ばねの取り付けだ。
馬車の改造をするには、魔道学園の学園長に許可を貰わなければならないと思っていたが、ミレーナ先生に相談したら『すぐに取り掛かってくれ』との事だった。
先に学園長には話をしてくれていたようだ。ちなみに、改造費用も学園が出してくれるとの事でなんだか申し訳ない。
帰還した次の日に、王都で世話になっているトラビンさんの工房に相談に行った後、そのままトラビンさんを連れて学園の馬車の格納庫を訪ねた。
「そうすると、車軸を真ん中のこの部分に固定して、バネの両側を荷台にしっかりと固定すれば良い訳かのう」
「そうです、車軸の方は結構振動をするので強度が必要かもしれません。魔術科の修業旅行にこれを取り付けて移動できればとは思っているのですが、取り付け作業にはどのくらいかかるでしょうか?」
魔術科の修業旅行に間に合うかどうか、
「荷台の4か所に、固定用の軸を取り付ける作業には結構面倒じゃからの、5台の馬車にこいつを取り付けるんは…… そうさな、4日ぐらいあればできるじゃろう」
同じ金属同士を固定する為に、この世界では溶接技術が結構発達している。
地球でのガス溶接に近い溶接方法だ。
「出発は1週間後だから、大変助かります! では、早速ですがお願いします。」
魔術科の出発まであまり期間が無かったのでちょっと心配していたが、何とかなりそうなので安堵した。
魔術科の修業旅行は、王都から南西の方角に300kmほど行ったフィリルという冒険者の町を拠点にして、そこからマギコーストという迷宮に3日間潜る。
これまで学園で習得した魔術の実践的な使い方に慣れさせると共に、生徒に経験値も積ませようというのが目的だ。
地球の学校で言うと、修学旅行とインターン制度を足して2で割ったようなものだろうか。
そして、魔道学園の生徒は全て魔術師である後衛だから、当然前衛が必要になる。
この前衛を担当してくれるのは、依頼によって来てくれる王宮騎士団の若手騎士なのだ。
◇◆◇
魔術科の修業旅行の出発の日、その当日となった。
魔道学園の魔術練習所で、俺たちは魔術科長のサマンサ先生から説明を受ける。
「今日から16日間の日程で魔術科の修業旅行を行います。最初の6日間を目的地フィリルへの移動に当て、次の3日間でマギコースト迷宮での魔術訓練、1日の休養を挟んで後の6日間を王都への帰還に当てます」
移動の6日間で宿泊施設があるのは2つの町のみで、その他の宿泊は野営だ。
この野営も授業の一環となっている。これは魔道科も魔術科も同じだ。
「フィリルからマギコースト迷宮までは6キタールほどの距離があります。片道で1時間ほどを要しますが、魔術訓練中の3日間はどの班もフィリルの宿に戻って寝泊まりをしてください」
一般の冒険者は、迷宮内や迷宮の入り口付近で野営することも多いが、魔道学園の生徒は野営が許可されていない。
「そして、王宮騎士団の若手騎士2名に、あなた達の前衛を務めてもらいます。2班だけは騎士1名と魔道科の生徒であり、Eランク冒険者でもあるアルフレッド君に前衛を努めてもらいます。アルフレッド君、宜しくたのみますね」
「あ、はい。宜しくお願いします」
俺は剣も持って、前衛として参加をする予定だ。
「そして、マギコースト迷宮は全50階層の迷宮ですが、魔道学園の生徒が行けるのは5階層までと決まっています。これが守れない様であれば、即刻全生徒共に訓練中止して王都へ帰還となりますので、くれぐれも違反しないようにお願いしますね」
各班には、魔道学園の先生が1名同伴して潜る。
生徒が危険ではないか、そして規則を守っているかどうかを先生が離れて監視するようだ。
「あと、迷宮に潜る前には、フィリルにある冒険者ギルドで仮の冒険者登録を行い、騎士のお二人と共にパーティ登録をしていただきます」
パーティ登録をすることによって、なぜか魔物を倒した時の経験値がパーティ全員に均等割り、後ろの方で見ているだけでも経験値が上がっていく。
”ヒール”に代表されるような補助系の魔法を得意とする生徒もいるので、彼らにも経験値が入るようにパーティ形式にするようだ。
魔術科の生徒は高等部になって17名に減っている。班は5名の班と4名の班があって俺たちの2班だけ魔術科の生徒5名に、俺と前衛騎士の合計7名だ。
馬車の中は6人乗りなので担当のライアナ先生も中に入ると、俺と騎士さんは2人で御者台に座らなければならない。
(道中、色々と話す事になるだろうから、話し易い騎士さんだったらいいな)
「では、表門の前で待機している馬車に乗り込みます。皆さん忘れ物が無いようにするのですよ」
「アル君、今度は一緒に行動ができるね」
魔術訓練所から表門へ向かう時に、エミーが嬉しそうに話しかけてくる。『今度は』と言うのは、昨年の魔物討伐訓練のことがあるんだろう。
「俺が魔術科の修業旅行に参加するとき、エミーたちと一緒に行かせて欲しいって言ったんだよ。でも先生たちは既に決めていたようだけどね」
一緒に行かせてくれって言ったのは本当だ。
「そうなの? でもうれしいー!」
「エミーったら、ずっとアルさんと一緒に行けたらいいのになって言ってましたのよ」
「メグ!」
「エミーは寝言でも言ってた」
「ミラ!」
この班で唯一の男子のウィルは、赤くなってほっぺを膨らましてしまったエミーを見て苦笑している。俺は見なかったことにしておこう。
「2班の馬車はあれだね、騎士さんに挨拶してから乗り込もうか」
俺は、2班という旗が付いている馬車の横に行き、御者台にて待機していた騎士さんに向かって挨拶をした。
「騎士さん、これから2週間の間宜しくお願いします」
「「「お願いします」」」
兜を付け前を向いたままの騎士さんは、「おう」と一言だけで、そのあと何も喋らない。
(……何か感じが悪いな)
「あ、あの……隣に座りますね」
そう言っても、
「おう」
とだけ言って、前を向いている。
(ああ、何だか先が思いやられてきたぞ。めっちゃ人付き合いが悪そうな人じゃん)
エミーたちも少し戸惑いながら、後ろの荷台に入っていった。
馬車が隊列を組んで走り出したとき、俺が隣で手持無沙汰でソワソワしていると、隣の騎士さんのほうから何だか異様な声が聞こえてきた。
「クッ、ク、クッ、ク」
(!? この騎士の人、鳥人間じゃないよね! それとも変質者か?)
俺が身構えると隣の騎士さんは、徐に兜を脱ぎ始めた。そして俺は目を疑ってしまった。
「ぷふっ、アルーーーー! 久しぶりーーー!」
「ジ、ジムじゃないか!」
「アハハハハハ、おっかしーーーー!」
「おま、何で知らん振りをしてたんだよ!」
「いやな、アルってば俺だってこと気付かずに、素っ気ない態度だったからさぁ、可笑しくて可笑しくて。笑いを堪えるのが必死だったんだよ!」
その途端、「バタン!」と御者台の後ろの窓が、今にも外れそうな勢いで開かれた。エミーである。
「ジムなの! ねえ、あんたジムなの?」
「エミー、久しぶり!」
ジムはエミーの驚いた声に応えるように、後ろを向いて返事をした。
「なんでジムが御者してんのよ!」
「みんな元気してた?」
「元気してたも何も、みんな元気よって、あんた王宮騎士団に入ってたのよ?」
エミーが興奮して、言葉が変になっている。
「俺もあれから頑張ってよぉ、今年から何と王宮騎士団に入ることが出来たのさ。そんでもって、魔道学園の修業旅行に駆り出されたってわけよ」
「もう! あんたが何も言わないから、変な人が一緒だなーって中で暗くなってたじゃない。ねえ、ミラ」
「私は何となく分かってた」
「え、そうなの? ……やっぱりあれ?」
「色が昔のジムと一緒だった。でも同じ色は他にもいる。確証は持てなかった」
(やっぱりミラさんのその特殊能力、何気に凄いんですけど)
「じゃあ、じゃあさ、ジムも同じパーティで一緒に迷宮に潜れるって事よね」
「そうなるね、みんな宜しくな」
「私たちの騎士様は、アルさんたちとお知り合いだったのですわね?」
「そうだよメグ、このジムは私たちの幼馴染で同じ孤児院の出身なの」
「初めましてメグさん、俺はジェームスって言います。あ、ジムって呼んでいからね。これから16日間一緒だけど宜しくお願いするよ」
(ジムは気安く喋ってるけど、相手が王女殿下だって知っているのかな?)
「初めまして、わたくしはマーガレット・クラーク・グランデールと申します。こちらこそよろしくお願い致しますわね、ジムさん」
「グ、グランデール……?」
あ、ジムが固まった。




