第44話 魔道科の修業旅行
魔道学園では、高等部の生徒を対象に“修業旅行”というものが行われる。
卒業まであと半年を残す時期――収穫の季節に実施される恒例行事だ。
例年、魔道科の生徒はドワーフの森アイアンリッジへ向かう。
一方、魔術科の生徒は迷宮都市マギコーストで実戦訓練を行う。
それぞれ名目は修業旅行だが、実際には腕試しの意味合いが強い。
二つの修業旅行を目前に、俺は両科長の前に呼ばれていた。
「俺がなぜ、魔道科と魔術科、両方の修業旅行に参加することになったんですか?」
俺は魔道科なので、アイアンリッジという魔道科の修業旅行に行くのは分かる。
しかし、なぜ魔術科の修業旅行の行先である、マギコーストに行かねばならないのか?
「ああ、君がなぜ魔術科の修業旅行に参加することになったのか? という質問だがな……先に言っておくと、これは国王陛下の要請だから簡単に断れんぞ。騎士団の仕事である前衛フォロー役を、君にもやってもらいたいというお達しなのだ」
マギコーストは魔術師の冒険者に優位性があって相性がいい迷宮である。しかし、いくら魔術師に優位だとは言っても、さすがに前衛が全くいない訳にはいかない。
そこで、魔道学園の修業旅行には騎士団から新米レベルの騎士が前衛として派遣されるのだ。
「陛下の意図までは分からんが、おそらく君には前衛に求められる接近戦もできるようになってほしいと考えられているのだろう」
「なぜ俺が? 陛下は何を考えて……」
「まあ、お前はそれだけ陛下の目に留まっているという事だ。何事も諦めが肝心だぞ」
陛下の考えは何だ? 諜報員の活動が……というのと関係があるのか?
少し考えていると、サマンサ先生が口を開いた。
「魔術科には前衛がいません。あなたは剣が使えるから安心です」
(そこまで言われるとなあ。ハァ、仕方ないか。でも、エミーと一緒だったら行きたいかも)
「先生! マギコーストにはエミー達と一緒だったら行きたいです」
「フフ、君は正直者だなぁ。安心したまえ、君の参加する班は魔物討伐研修の時の1班だ」
(よし。今度はエミーたちと一緒に行けるな)
ともあれ、修業旅行は魔道科が先に実施されるので、まずはそちらに参加する。
◇
「魔道科の20名は4人ごとの班に分かれて、5班の構成でアイアンリッジの修業旅行に向かう。4人で何をやるかを事前に話し合い、出発する来週までに決めておくように」
この二年半の間に学園で得た知識を駆使して、新しい魔道具を作って発表するというのがこの修業旅行の目的だ。
4人共同で行う、卒業研究といったところだろうか。
「それでは、十日間の修業旅行で共に協力し合う班を発表する。班分けは既にこちらで決めているので、後から文句などは言わないように」
魔道科の生徒は貴族の子がいない。だから班分けで揉めることもまず無い。これは魔術科との大きな違いだろう。
「では、発表する。1班、ジョワン、ゼンナ、オーレン、アルビー。2班、キジー、アルフレッド、キアン、リンデ。3班、……」
うん、俺は2班だな。
俺たちの班の構成員は、キジーが王都魔道具屋の長女、キアンはルノザールにある魔道具屋の二男、リンデはフェリルというマギコーストの近くにある町の魔道具屋の一人娘、俺も含めて皆が魔道具屋の出身だ。
ちなみに、俺はルナの町マルコさんの魔道具屋の従業員という形で学園に来ている。
「2班はこの4人だよね。でさあ、私たち何作る? てか、まず班長を決めないとだよね」
早速、俺たち2班が集まると、赤毛を後ろで束ねた活発そうな女の子――キジーさんが話を仕切ってきた。
「班長だったら、キジーがやりなよ。最後の成果発表なんて、キジーの得意とするところだろう?」
「やだよー。あたしなんて、人前に出ると急に話せなくなるタイプなの。班長は優等生のアルがやんなさいよ。みんなそれでいいでしょ?」
みんなの視線が俺に集まった。
「ぼ、僕はそれでいいよ。君はこれまでにいろんな物作っているから僕らも安心だよ」
「私もアルさんが適任だと思います」
なぜか、他の二人も同意してきた。
「ほらね、この4人に決まった時点で、あんたが班長やるのは決まったようなもんなんだから諦めなさい」
「まあ、皆がそう言うんだったらやるけど、俺で大丈夫かな?」
「大丈夫。ブレーキ役はキアンとリンデに任せるから」
(……最初から決まってたな、これ)
「わかった、じゃあ明日までにどんな魔道具を作りたいか、それぞれの考えを紙に纏めておいてくれ。そして、明日改めて話し合って決めよう」
「分かったわ、じゃあまた明日放課ここに集合ね」
『ここに』というのは俺の研究室だが、建前上、魔道科長であるミレーナ先生の研究室という事になっている。
「ここなら、他に人がいなくて話し合いがしやすいよね」
「ええ、じゃあまた明日ですね」
◇
次の日、俺の研究室に再度2班のメンバーが集まった。
「今日は、それぞれが書いてきた案を皆で検討し、一つの魔道具に絞りたいと思う。まずは、それぞれの案を回し読みしていこう」
「あら、あたしなんて簡単に絵だけしか書いてないわよ」
「絵だけでもいいけど、もし追記説明が必要だったら今のうちに書いといて」
「分かった」
キジーが書いてきたのは、考えた魔道具の外観だけだ。これだけだと、何をするための魔道具か分からない。キアンとリンデは真面目にしっかり書いてきているな。
ちなみに俺が書いてきたのはデジタル時計。
キジーが書いてきたのは、夜の暗い道を照らすための魔道ランタン。
リンデが書いてきたのは、暗くなったら自動的に点灯する街灯。
キアンが書いてきたのは、長距離を歩いたり走ったりしても疲れない魔道靴。
それぞれが考えた魔道具の案は、それなりによく考えられているが、キジーの魔道具は独創性の面で微妙だな。鉱山でも同じようなものが使われていると聞いたことがある。
「それぞれの案を皆が理解したところで、自分の案以外で良いと思うものを一つ挙げて、その理由についても教えて欲しい。まず、キジーはどうかな?」
「えっとねえ、あたしはリンデの街灯がいいと思った。今は人が点けたり消したりして大変だから普及しづらいのだと思うのよ。自動だと手間が要らないし、もっと普及すると暗い夜道が減ると思うわ」
キジーの説明は説得性がある。
「分かった。ではリンデはどうかな?」
「私は……そうですね、キアンの考えた魔道靴がいいと思います。私は体力が無いから、そんな靴があれば遠くまで歩くのが楽になると思うし」
体力は、努力も必要だと思うが、微妙だ。
「キアンはどう?」
「えっと、僕はアルの時計がいいと思った。針式の時計はあるけれど、正確じゃなくて時刻合わせが頻繁で大変。正確な時計を作ることができれば売れると思う」
「分かった。じゃあ俺の意見だけど、リンデの考えた自動街灯の案に賛成だ。暗い夜道が減れば、危険も減って社会に役立つ」
「私の魔道具はダメなのね……」
キジーは肩を落とし、視線を机に落とした。
「ダメって訳じゃない。ただ今回のテーマとしては、既存品と被るのが痛いんだ」
「えっ、そうなの?」
「うん、おそらくアイアンリッジ近くの鉱山で使われているものによく似ているね」
キアン君も知っていたようだ。
「そして、俺の提案した時計は、正確に時を刻むためにかなり工夫する必要がある。それを作るには多分修業旅行の期間内では難しいかもしれないんだ」
精度を高くするには、水晶振動子のような物が必要になる。俺一人でやれば可能だと思うが、メンバー全員で、力を合わせて作る課題には向かない。
「キアンの案もいいと思ったけれど、靴が地面から離れる時の瞬発力を制御するにはこれもまた難しい。なので短期間での開発は厳しいよね」
「実はその通りなんだ、アル君。自分で提案していて申し訳ないけど、どのように制御すればいいのか考えもつかない」
「じゃあ、俺たちの班は暗くなったら自動で点灯し、明るくなったら自動で消灯する街灯って事でいいかな?」
「「異議なし」」
「あ、……ありがとう。私、自信なかったから……」
リンデはほっぺを赤くしている。自分の案がみんなに認められたのが嬉しそうだ。
――こうして、俺たち2班の修業旅行のテーマが決まった。




