第43話 魔石への魔力チャージ
自分の研究室に戻った俺は、集めてきた白い石を机いっぱいに広げ、太陽電池の製作に取りかかった。
白い石ころから生成されるシリコンは、太陽電池に欠かせないものだ。
火魔法と水魔法の魔力を干渉させてシリコンだけを精製し、太陽電池のもとになる半導体を作り出す。
更にこれらを薄く延ばして2枚を重ね合わせれば太陽電池の出来上がりだ。
説明するのは簡単だが、材料の精製には予想以上の時間がかかった。特にシリコンの生成工程が難しかったのだ。
「これに太陽の光を当てると電気が発生するはずなのだが」
魔力が空になった無色の魔石を装置に取り付けてみた。
「さあ、これでどうだ?」
早速、研究室の南側の窓辺に持って行き、日光を当ててみる。
(うーん、何も変化がないけれど、ちゃんとチャージされているのだろうか?)
「チャージ量が分かるような表示が必要だな」
俺は、魔道具のプログラムを修正して、魔石の容量とチャージされた魔力量の割合をMR装置にリンクさせて確認できるようにした。
「少しずつ増えているか」
5分ほどで、若干だが魔力量が増えている。実験としては大成功である。
次の日、午前中の授業が終わった後に研究室のチャージ中の魔石を見に来た。
無色だった魔石は、ルビーの様な赤い色に変わっていた。
「色が戻るんだ」
魔力量の表示はまだ半分ほどだ。明日までこのまま継続することとした。
あとは、チャージと放出を同時に可能とすることで、大きな魔力を消費する装置にも応用ができそうだ。
◇
「ミレーナ先生、魔石の魔力チャージに成功しました」
「何を言ってるのかな? 君は」
この国では、使い切った魔石に再度魔力をチャージするといった概念がない。俺の唐突な発言に、ミレーナ先生は当たり前の反応だ。
「えっとですね、使い古しの無色になった魔石を、元の状態に復活する方法を発見しました」
「何だと! それは本当か?」
ミレーナ先生は、急に立ち上がった。
「はい、これが復活した魔石です」
ルビー色をした、チャージ済みの魔石を手渡す。
「どれ、これは新品の魔石ではないのか?」
「一度、使い切ったものです」
「でも……どうやって?」
俺はミレーナ先生を、自分の研究室に連れて行った。
「これが、魔力を復活させる魔道具なのか?」
「そうですね、『魔道チャージ器』と名付けました」
「どういう原理で魔力を復活させるんだ?」
太陽の光を魔力に変換して、使い古した魔石に溜めるものだが、まだ最初の実験に成功した段階だと説明する。
「君はとんでもない奴だな。これが完成したら大きな社会問題になるぞ」
「社会問題……ですか?」
「あのなあ、魔石はどこから供給されていると思う?」
(新しい魔石の需要が無くなってしまう。それで問題になるといえば……)
「魔物を狩って得られる魔石の需要が減るし、魔物を狩っている冒険者の仕事も無くなる。しかし、もっと大きな問題は、魔物が増えてしまうって事ですよね」
「なんだ、分かってるじゃないか」
「だから、これは一般には普及させませんよ。俺も、一応は冒険者ですからね」
「じゃあ、何故こんなものを作ったんだ?」
「自分の魔石が無くなったから……というのが正直なところ発端ですが、いろいろ考えているうちに、この前に作った魔道レーダーの出力をもっと大きくできれば、より広範囲のサーチができるようになる。これは、この国全体の安全のために必要だと思ったんです」
この前王宮を訪ねた時、陛下は「他国の諜報活動が俄かに活発化しているようだ」みたいな話をしていた。
「ほう、どのくらいの範囲をサーチできるようになるんだい?」
「そうですね、半径300キタール程度までは増やせると思うんですが、やってみなければ分からないです」
「仮に300キタールだとしても、この王国のほぼ全域と国外までがカバーできそうじゃないか! 実験がうまく行けば、速やかに改良が実施できるように、陛下にも伝えておいた方がよいな」
「あと、高い山に阻まれた国外までのサーチは無理がありますね。それから、この太陽電池は屋根に取り付ける事になるので、設置場所は固定になります」
「なるほど、サーチ魔法も山は越えられないからな。……設置場所は『王宮騎士団の中』とすることにして、具体的な場所の決定はレオノールに任せよう」
「では俺は、さっそく魔道チャージ器の改良に取り掛かります」
「ああ、任せた」
◇
そして、改良した魔道チャージ器は“魔道インバーター”という名前に変わった。
魔道インバーターを組み込んだ魔道レーダーは、騎士団の本部事務所内に置かれ、監視活動を本格化させることになった。
専任の監視員を配置し、昼夜監視を継続するという熱の入れようで、王国として重要視していることが伺える。
「魔道レーダーは探索できる最大半径がこれまでの3倍以上に増えました。そのため、範囲選択ボタンを一つ増やしています」
サーチ可能半径は350キタール迄に増強された。
そして、管制塔のレーダーを真似て、表面にうっすらと地図が映し出されるように改良を施している。
「一緒に地図が表示されると、とても分かり易い。先日、魔道学園の北の方で魔力反応が続いたんだが、場所を特定できなくて困ったよ」
これまでは地図を横に置いて、照らし合わせて確認していたそうだ。
(魔道学園の北のほう? ……もしかして、俺じゃないか? やっば! 魔道レーダーの事を考えてなかった)
「ここまで範囲が広くなると、バーン帝国の一部やカルトール公国の首都ハルスも範囲に入ると思います。しかし、そのあたりには何も表示されていません。なぜでしょうか?」
専任の監視員の方から指摘が入る。想定された質問だ。
「それぞれ、国境には高い山が存在しています。これらの山々でサーチ波が跳ねられてしまうのです」
「なるほど。そうすると、洞窟や地下などもサーチできないというわけですね?」
土の中は、魔道波がまったく通らないわけではないが、かなり減衰してしまう。
「そうなりますね。頑丈な石でできた建物や、小高い山の向こう側にもサーチできない可能性があります。この辺りは今後の改良課題ですね」
今回の改良では、指先の操作だけで局所的な拡大と表示箇所の移動、全体表示などが即座にできるようになった。
月見里の知識であるタッチスクリーンの構成技術が、そのまま魔道レーダーにも応用できたわけである。
だが――この魔道レーダーの性能アップが、後の人生に大きく関わることになることを、俺はまだ知る由もなかった。




