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第36話 それぞれの決断

 私たち1班は、先へ進んでも一向に魔物の数が増えないばかりか逆に減った事に落胆して、昼食を食べ終わったら元の狩場へ戻るという決断をしていた。

 昼食と言っても、干し肉や豆などの携帯食をつまむだけの簡素なものだ。


「もっと柔らかいお肉を食べたいものですわねぇ」


 ふと王女様が愚痴をこぼす。


「メグはお嬢様、柔らかい肉しか食べたことない?」

「そ、そうなのですがミラ、このような干し肉でもたくさん噛んでいれば、味わいが出てくるというのもこの研修で分かりましたのよ?」


 そんな、他愛もない話をしていたその時。

 大きな魔物がこちらに向かってきているのが見えた!

 

「ガァーーーー!」

「「「うわっ!!!?」」」

「こんな大きな魔物が出るとは、聞いてないわ!」

「みんな、食べ物をここに捨ててから逃げるといい!」


 食べ物に気を取られているうちに逃げようと提案するミラ。彼女は言葉少ないが、こんな時には機転がきくのだ。


「早く逃げましょう!」


「くそ、こっちは西側だ。これでは中央広場からだんだん離れていくぞ」

「誰か一人だけでも中央広場に向かえればいいのですけれど、ラズ……あなたは迂回して中央広場に向かいなさい」

「嫌でございます、私は何としてでも殿下をお守りしなければなりませんから! たとえこの身を犠牲にしてでも……」

「私たちは方向感覚に自信が無いわ……」


 私もミラも森の中の方向感覚があまりなくて、中央広場まで行き着ける自信がない。


「では、俺が奴の気を引いてから中央広場まで走る。君たちは4人で一緒に行動し、できるだけ奴から離れるよう動いてくれないか。干し肉を食べている今のうちがチャンスだ」

「分かりましたわ、今はそうするのが一番ですわね」


 私たちは大きく回り込んで中央広場を目指そうとも考えたが、相手が最短距離で移動してくるリスクを考えると、魔物の反対方向へ走るしかなかった。


「ハアハアハアハア だいぶ離れましたわね」

「ハアッハア、まだ付いてきてる」

「っ! こっちへ来てるの? ってミラ、分かるの?」

「気配が分かる」


 ミラの勘は昔からよく当たる。あの大きな魔物が、私たちを付けて来ているのは間違いないと思う。


「こういう時、ミラの言う事は昔から当たるの。休んだらダメよ、急ぎましょう」

「そうですか、分かりましたわ。いざとなったら、わたくしが雷魔法で足止めしますから、その間もみなさんは移動を続けてください」

「ダメです殿下、私が風魔法で足止めさせていただきます」

「風魔法じゃ効かないでしょう。とにかく皆で走り続けるしかないわよ」


 私たちは、ひたすらに走り続けた。どれくらい走ったかは覚えていないが、森を出たところで岩山に差し掛かった。これから先は山を登らなければならない。


「ミ、ミラ、どう?」

「……来てる」

「ハアハア、しつこいわねー、……ここを登るしかないのね」


 私たち4人は、岩山を登り始めた。魔道学園のテントがある中央広場からは逆の方向だ。ここまでもほぼ全力で走って来たので、みんな足がクタクタだった。


「この岩の上だったら……、火魔法でも大丈夫だと思いますわよ」

「そうよね、ハアハア。もし魔物が近くまで迫ってきたら、メグとミラとで火魔法を出し、ラズさんの風魔法で炎を操作する。そしてその間、私は雷魔法で魔物の動きを止める。それでいい?」

「分かりましたわ、しかし体力が続く限り逃げましょう。この先に行けば小さな洞窟とか隠れる場所があるかもしれませんから」

「そうね、分かったわ」


 岩山を暫く登ったら、急に視界が広がった。


(多分ここは頂上だわ。魔物はまだ追っかけて来てるのかな?)


「ハアハアハア、ミラ、魔物はまだ来てる?」

「ハアハア、まだ来てる。でもずっと同じ距離で付いて来てる」


(なぜ同じ距離を保っているのだろう、余裕がある? もしかして、私たちを追いかけて遊んでるの? そう思ったら腹が立ってきたわ。でも何とか逃げ切らないと……)


 それから今度は、岩山を降りて行きながら私たちだけが入れるような、小さな洞窟がないか探しながら降りて行った。

 そして再度木々が生い茂った森の中に入る直前で、大人が何人か入れるような岩の割れ目を発見した。


「ハアハアッ、ここは私たちだけが中に入れて、あいつは入れないんじゃないかな? ミラが先に入ってみて?」


 先に体の小さいミラが入ってみると、すんなりと奥まで入って行けた。


「じゃあ次はメグね」

「分かりましたわ」


 最後に入るのは私だろう。この中で一番身長が高いのは私なのだ。


「次はラズさんね」

「私は短剣を持っていますから、私が一番外側のほうが……」

「短剣じゃ危ないからダメ。中から雷魔法を当てた方がいいと思う」


 私も体を横にすると結構奥まで入ることができた。

(入り口までは2マタール以上あるので、これなら大丈夫じゃないかな)


 私たちは水魔法で水を作ってひとまず喉を潤した。私たち4人は全員水魔法が使えるので、自分の分は自分で作り出せる。


「ウォータ」


 それから私たちは何も喋らずに、不安を抱えながら入り口の隙間を見守っていた。


「ガウッ、ガウッガウッ ガァァァ―――――!」

「あっ!……」


 魔物は入り口の隙間に頭を押し付けて暫くこちらを覗いたかと思ったら、いきなり鋭い爪を出したままの腕を隙間に入れてきた!


「いゃぁーー!」


魔物の腕は思ったより長く、大きな爪が私のすぐ傍を通り過ぎていく。


「さ、サンダーボルトを落としてみるわ、みんないい?」

「宜しくてよ」

「分かりました」

「耳ふさぐ」


「天空の力集いて、我が目標に向かって落ちよ サンダーボルト!」


 隙間の中が青白い光に包まれたのと同時に、甲高い雷音が耳を襲撃する。

 魔物は目を上に向けて硬直した。

 動かなくなったと思い、安心したのも束の間、次の瞬間には激しく動き出した。


「グガアアアアーーーー!!!!」


 牙をむき出しにして、魔物が叫びながら体を岩にドンドンとぶつけている。雷魔法が効いていないどころか、酷く怒ったようだ。


「ヒイーーーー!」


血走って殺気がこもった目に睨まれると、私は後ろにいるラズさんの手を握り締めるしかなかった。このまま誰も助けに来なかったら……

不安と恐怖とでいっぱいになり、頭が朦朧としてきた。


「うそっ、サンダーボルトが全く効いてないですわ」

「エミーさん!」


 メグたちの声を遠くに聞きながら、私の意識は……途絶えた。


◇◆◇


 俺たち4班は、森の中央広場に戻った。そして、担当のフォークナー先生に何故ここに戻って来たのかを説明した。


「アルフレッド君、君たちの判断は正しいよ。各班の魔石の数を聞いて、私たち教師も少し不思議だと感じているんだ」


(先生たちも異常に気付いていたんだ)


「特に魔物が少なかったという西側の森は、調査が必要だという事で、現在エリオン先生とガイウス先生の二人が調査に出て行ったところだ」


 良かった、既に男の先生二人が西の森の調査を開始したようだ。


 しかし、安心したのも束の間だった。

 調査に出ていたエリオン先生が、1班のウィリアム君を連れて戻って来た。ウィリアム君はかなり息を切らしている。大急ぎで来たのだろう。

 彼を見た俺は、エミーたちが危険に晒されたという事を肌で悟っていた。


「サマンサ科長、西の森で生徒が大型の魔物に襲われたとの情報です。このウィリアム君が魔物の注意を引きながら回り込んで走り、この広場に戻っている途中で私たちと遭遇しました。他の4人は反対の西の方角に逃げているようです。この情報を聞いてガイウス先生が召喚獣を連れて西へ向かっています」


「ほかの4人は無事なのですか!」

「それはまだ分からないですが、魔物の動きが思ったより遅いようなので多分脱げきれるんじゃないかと言っています」

「魔物の種類は分かるか?」

「彼の話を聞く限りでは、おそらくバグベア―ではないかと」


 バグベアーといえば、ルナ迷宮で遭遇したクマを大きくした様な魔物だ。俺の持っている武器で、何とか仕留められるのではないかと思えた。


「ライラ先生はこの広場の警護、エリオン先生とクレア先生は2班と3班にそれそれ帰還命令を出して帰還後、広場の警護に当たってください。私とライアナ先生はすぐに西の森に救助に出ます」


 魔法の腕が確かな魔術科長とライアナ先生が追いかけるようだ。


(しかし、エミーたちが心配で胸が締め付けられる。俺も一緒に行かなければ!)


「サマンサ先生、俺も一緒に連れて行ってください」


 サマンサ魔術科長は一瞬考えたが、すぐに返事をしてくれた。


「あなたの強さと実績は、学園長から聞いています。問題無いでしょう。ついて来てくれますか?」

「はい! 是非お願いします!」

「武器に使用する魔石は十分に予備を持っていますか?」


 聞かれたので、俺は魔道ガンに装着する予備のマガジンを見せる。


「予備はこれです。このマガ……、入れ替えの容器も予備があと5個あります」

「十分そうですね、分かりました。武器の性能は私もよく知りませんが、あなたを信頼しましょう」


 俺は、サマンサ・アークウッド魔道科長と、ライアナ・フォークナー先生との3人で西の森に入って行った。

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