第37話 揺るぎない決意
「君は足が速いなぁ。魔道科の生徒は実習が無いから、体力もスピードも無いのが普通だが……何か、独自の訓練とかをしてるのかい?」
森の中を速足で走破しながら、ライアナ先生が聞いてくる。
「俺はこれでも、冒険者ですから。毎日の走り込みと剣の鍛錬は欠かさずにやっているんです。このくらいのスピードであれば、数時間でも問題ありません」
これくらいのスピードでは、息も上がらない。
「魔道科でも基礎訓練をやっている人間がいるのだな、いい心がけだ」
魔術師は、冒険者や騎士団と一緒に現場へ駆り出されることが多い。
最前線で戦う訳ではないが、現場への移動は強行軍になる場合がある。だから魔術師であっても基礎体力が要るのだという。馬車が通らない道も多いのだ。
「私はさっきから身体強化をさせてもらっていますよ。もう現場で仕事することが少なくなったから、体力がだいぶ落ちていましてね」
魔術科長は、机での仕事が多くなって体を動かす機会が減ってしまった。そのため、体が鈍ってしまったのだとか。
「君の今の冒険者ランクはいくつなんだい?」
「俺のランクは今、Eランクですね」
「じゃあちょうどいい、そのEランクの腕前を見せてもらおうか」
俺たちの進んでいる先には、アースラットが3匹たむろしている。
「魔道ガンで片づけてもいいですよね」
「ああ、もちろんだ。見せてくれ」
俺は出力を2割ほどに絞り、安全装置を外した。
迷宮で学んだ――この程度が、周囲を巻き込まず、強すぎない。
俺は、この研修のために作ったオートガンを両手でしっかり持って狙いを定める。このサイズでは、リコイル反動もそれなりにあるからだ。
俺は3匹のアースラットの頭に狙いをつけて、1匹ずつ丁寧に仕留めていく。
サイレンサー付きの短い破裂音が三度、乾いた森に吸い込まれた。計算通り、アースラットはその場で飛び散らずに倒れてくれた。
「すべて一発で仕留めただと?」
「それも、全部頭に命中していますよ……」
二人の先生は、驚きを隠せずに呆然としている。
(でも急がなきゃ)
「先生、急ぎましょう」
「あ、ああ。そうだな。回収は後だ。いまは救助が最優先だ――行くぞ」
三人は何事もなかったかのように、これまで通りの速足で西へ向かった。
これまで2回魔物と遭遇したが、確かに魔物の数が少ない。それもアースラットばかりで、動きの速い魔物は皆無だ。
「足の速い魔物は、既に逃げているという可能性が高い。おそらくバグベアーがいるために、小さい魔物は逃げてしまっているのだろう」
中央広場を出発して4時間ほど経過した頃に、森の木々が無くなり前方は岩山となった場所に出た。
「先ほどから魔力探知を行っていますが、大型の魔物はこの辺りまでにはいませんでしたね。多分ですが、この岩山を登っていったのだと思われます」
「この岩山を超えればエルフの森が近いな…… とりあえずは頂上まで登ってみよう」
◇
「どうですかサマンサ先生、大型の魔力は感じますか?」
「そうですね。大型の魔力は感じませんが、その残渣らしきものがありますね。そしてその周囲には小さな魔力が沢山取り巻いています」
「エルフ……ですか?」
「多分、そうでしょうね」
この森の中にエルフ族が住んでいるのだろうか? 俺が状況を飲み込めずにきょとんとしていると。
「アルフレッド君は知らないようだね。この山の先の麓にある森はエルフの森と言って、人間に馴染めないエルフ族が集団で暮らしている場所なんだ」
「1班の4人は、彼らに確保されている可能性が高い。先ずは下まで行ってみようか」
俺たち三人は、少しずつ山を下りて行くことにした。そして岩山を半分ほど来たところで、弓を持ったエルフ族の男5人に囲まれた。
「止まれ! お前たちは何者だ?」
「私はグランデール国立魔道学園、魔術科長のサマンサ・アークウッド。こちらは魔術練習所教官、ライアナ・フォークナー、そしてこっちは学園の生徒アルフレッドです。バグベアらしき魔物に襲われた生徒たちを探して、ここまで来たのです」
エルフたちは1か所に集まって相談を始めた。
「そなたの言葉には嘘は感じられない。生徒と思われる4人はこちらで保護している。付いてきなさい」
(良かったー! ここまで逃げてくれていた)
◇
「これが、生徒らをここまで追いかけてきたバグベアだ」
エルフ族の一人が、横たわったバグベアを指さした。
バグベアーは頭部に沢山の弓を受けて、既にこと切れているようだった。
「生徒らは、この岩の割れ目に逃げ込んで、魔術で攻撃したのだろう。その時に発した雷魔法の音と、バグベアーの暴れ狂う音が麓の村まで届いてきたのだ。私たちは20人の戦士を集めてここまで来たが、どうも割れ目の中に人がいるようだったので、二手に分かれて倒した」
なるほど。正面からだと、隙間から入った矢が人に当たる可能性がある。
「一番手前にいた女の子の意識が無くて出すのに苦労した。ケガなどはないようだが、今は麓の村の集会所に運んで安静にさせている」
「集会所まで行ってもよろしいですか?」
「よかろう、付いてきなさい。お主たちが来る前に、もう一人魔道学園の教師と名乗る男が来たが、一緒に集会所で待っておる。お主たちの仲間なのだろう?」
「そうです。彼女らの担当の教師です」
意識がない女の子が、俺は気になっていた。
「名乗るのが遅くなったな、すまぬ。私はこの村の長を務めておるカザムールと申す。この地に移り住んでから150年ほど経つが、人間族と話をしたのは久しぶりなのだ」
若い村長だと思っていたが、150歳を過ぎているとの言葉に驚いた。しかし、早く集会所に向かいたい。
暫く歩く事、20分ほど。やっと麓の村の集落が見えてきた。今では見なくなった茅葺のひと際大きな屋根の建物に俺たちは案内された。ここが村長が言っていた集会所なのだろう。
「4人のうち一人は未だ意識が戻らんので寝せてある。あまり大きな声は出さん方がいいだろう」
村長さんは集会所入る前に、一人の意識がまだ戻らないと言った。4人とも良く知っているから心配だ。
集会所に入ると、体育座りのミラが真っ先に話しかけてきた。
「アル」
「アルさん、来てくれましたのね」
意識が戻らないのは、俺が心配していた通りエミーだった。大丈夫なのだろうか?
「エミーは大丈夫なのか?」
「多分大丈夫。でも、私が話しかけても起きない」
「アルさんが話しかけてみたらどうかしら、ご姉弟だから声が届くかも?」
ミラが微妙な顔をしているが、説明が面倒だからここはスルーしておこうか。俺は眠っているようなエミーの横に座って彼女の手を握った。彼女の手は暖かかった。
「エミー?」
そっと耳元で声をかけると、ピクッと手が反応したように感じた。
「もう大丈夫だよ、エミー」
目尻には枯れた涙が付着している。涙が出るほど怖かったことが想像できる。そう思って見ていると、ふうっと薄目が開いた。
「ア……、アル?」
「そうだよ、エミー」
「アル…アル、アルー! 怖かったよーアルくーーーん。うわーーーーん!」
俺だと分かると、エミーはガバッと起きた。起きたかと思うと、周囲を気にする余裕もなく俺に抱きついてきた。そして大きな声で泣き出した。
「もう大丈夫だよ、エミー、大丈夫……もう大丈夫だ」
俺も彼女を受けとめて、背中を何度も優しく叩いてあげた。
怖い思いをしたんだね。
エミーが怖い思いをするのは、もう見たくない。次は必ず間に合わせる。絶対に守る! そう強く思った。
「羨ましいですわー、姉弟愛っていいですわね。ねえミラさん?」
「……姉弟じゃない」
「え?」(メグが小さく口にした)
今回で、第三章が終わりです。
これまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
何があってもエミリーを守ると決心したアルフレッド。
第四章では、そのために必要な魔道具の開発を試みます。
さて、どうなることでしょうか。
次話も読んでみようと思われたら、ぜひ「いいね」、「評価」をお願いいたします。




