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第32話 二人組の末路

 次の日。


「トマス様、例のあいつらがやって来ましたぜ」

「あの弱虫野郎と同じ孤児院から来たっていう奴らだな。あっちの背の高い方は、そこそこましな顔をしてんじゃねえか」

「へへへ、トマス様の召使にでもしてやりますか?」

「それもいいかもしれんな。俺様は心が広いからな」


◇◆◇


 私とミラは午後の授業のために、食堂から教室に戻っていた。そして、魔術科教室のある棟に入ったところで中等部の生徒に声をかけられた。


「おい、お前っ!」

「あ、はい……何でしょうか?」


 ちょっと太っていて感じが悪かったのだけど、先輩なので私達は立ち止まらない訳にはいかなかった。


「お前、孤児院から来たそうだな。孤児のくせして多少の魔力持ちだからって、どこかのお節介焼きがお前たちを学園に押し込んだんだろうが、どうせお金が無いから授業料も払えないんだろうよ。どうだ、俺様の家で召使いとして働かせてやってもいいぞ」

「お前たち。この方はな、デムルの都市を治めるバーリントン子爵様の御曹司であられるぞ。お前たちを召使いに雇ってくださると仰っているんだ。有難く思え」


(何を言ってるんだろう、この人たち。私たちの授業料はルノザールの領主様が支払ってくださっている事をご存じないのかな)


 返答に困っていると、更に気持ちの悪いことを言ってきた。


「俺様がこの魔道学園を首席で卒業したら、王宮魔術院に呼ばれることになるだろう。その時はお前、それからそっちのちっこいのも俺の屋敷で雇ってやってもいい。俺に尽くせばそのうち、俺の妾にしてやってもいいぞ」


「いえ、お断りいたします!」


(気持ち悪いったらありゃしない! ミラなんか、私の後ろに隠れて今にも吐きそうな顔してるし)


「何だと! おまえたちは俺様の好意を断るっていうのか!」


 ちょ、いきなり髪の毛掴まれた。


「ぼ、暴力はやめてください!」

「なに? 人がせっかく親切にしてやろうっていうのに、なんて恩知らずな女だ!」


(痛い痛いよ、髪の毛引っ張るなこのバーリントン息子! アル君助けて!)


 するとそこに、凛凛とした声が横から響いてきた。


「あなたたち、何をしているのです! 早く手を離しなさい!」


「え?」

「これはこれは、マーガレット王女殿下。実は、ここにいる孤児院出の下賤な者どもが、私のいう事を聞きませんもので、ちょっとばかり戒めていたのでございます」

「お黙りなさい! この二人が下賤ですって? この方たちはわたくしの大切なお友達ですのよ!」

「っ!?……」


 マーガレット王女がそう言った途端、彼らは息ができなくなってしまったようだった。そして、みるみる内に顔色が青くなっていった。


「行きましょうエミー、ミラ。このような人たちに関わってはダメですわよ」


 王女様は私たちの手を取って、ズンズンと進んで行った。ラシダさんも二人を睨んでから後ろを付いてくる。


(私たちのために怒ってくれているようだわ)


「ありがとう、メグ」

「ありがとう、助かったわ メ、メグ」


 ミラは何げなく言ってるし、私も勇気を出してマーガレット王女を愛称で呼ぶことにした。王女、いや、お友達のメグは、そう言った途端にパッっと顔が明るくなった。


「まあ嬉しい! 私の事をメグって呼んでくださるのね!」

「さっき私たちを助けてくれた時、あなたは私たちの事を『大切なお友達』って言ってくれたわ。だから私もこれからはメグって呼ばせてもらう」

「同年代のお友達は、あなたがたが初めてですのよ! ずっとお友達でいてくださいね。……ところでエミー、あなた髪を引っ張られていたけれど大丈夫ですの?」

「ああ、うん大丈夫。小さい頃はよく幼馴染のジムってやつに引っ張られていたから慣れてるわ。心配してくれて有難うねメグ」

「髪は女性の命なのに、わたくしはあの二人を絶対に許しませんことよ。今日の事はお父様に報告しておきませんとね」

「あー、うん」


(この人、王女様だよねぇ・・・、お父様って言われるとピンとこないけど、お父様って国王様だよねぇ。大丈夫なの? あの二人)


 次の日から、二人の姿は学園内で一切見なくなった。

 その後、あの二人はどうなったのか気になるけれど、王女様には聞けるはずもなかった。そんな時、食堂でまたアル君と会うことができた。


「アル君、今日は食事早かったんだね」

「うん、魔法陣理論の話をセシリア先生に聞こうとしたら、時間が無いからまた今度ねって言われちゃってさ」

「そうなんだ。アル君ってば、学園に来てからもいっぱい頑張ってるんだね」


「教わることが沢山あるから、とても充実してるよ。話は変わるけどエミー、先日は助けられなくてごめんな。あの二人には俺も絡まれててさぁ、忙しくてあんまり相手にできなかったから、多分矛先がそっちに行ってしまったと思うんだ。ごめん!」


(言葉の最後にアル君は両方の手を顔の前で合わせて『ごめん!』と言ってきた。その手はどういう意味があるの? 魔道科で流行ってる何かの合図なのかな?)


「そういえばさ、その絡んでた二人を最近見なくなったんだけど、アル君何か知ってる?」

「知ってるよ、あの二人は次の日に退学になったんだ。マーガレット王女がその日のうちに国王様に手紙を書いてね、それをラシダさんが王宮に届けたそうだよ。次の日の朝には王宮騎士団から5人の騎士が男子寮を訪れて、あの二人を拘束して連れていくところを裏門の近くで見たよ」

「ええー? そうしたら、その後はどうなるのかなぁ」

「エドワード君の話では、恐らく領地に戻された後に、家からは勘当されることになるだろうなって言ってたよ」


(ええー、私の髪の毛引っ張っただけでそうなっちゃったんだ。怖いよメグちゃん)


「ああ、エミーが心配する必要なんてないぞ。あいつらは俺にだって弱虫野郎だのなんのって暴言を吐いていたし、学園では結構悪い噂があったからね、自業自得だよ」


(アル君にもそんな暴言を吐いてたんだ。それは許せないな)


「それにエミーの奇麗な髪の毛を引っ張ったって聞いてさ、その場にいたら俺は絶対にそいつらに手を上げていただろうね。多分、髪の件が王女殿下の逆鱗に触れたんだと思うよ」


(うっ! まただ。何だか心臓の鼓動が乱れてる。この前も同じような症状になったけど……私、心臓か何かの変な病気じゃないよね)


 それと、アル君によき理解者が出来たのだという。相手はブリストル地方を治めるブリストル辺境伯の息子さんだ。この地方は北のバーン帝国との境界にあり重要な役目を果たしている地方だとか。


(アル君の話によれば、ブリストル辺境伯は国王陛下からも認められていて、重臣であるとか言ってたなあ)


 アル君ってこんなにも偉い人たちと対等に話ができるし、堂々ともしている。

 弟だからって思っていたからか、昔はもっと頼りない感じがしていたんだけど、最近は何だか私よりも大人になったって感じがする。


 そもそも、私たちって姉弟だと言われて育ってきたが、髪の毛も目の色も違うから血は繋がっていないと思うのだ。


(ミラがいつか、あなたたちは体にまとっている色が違うから姉弟じゃない。姉弟じゃないから結婚だってできるって……言ってっ! あれ?)


 またしても、心臓の鼓動がおかしくなった。


(ミラは『それは病気じゃない』って言ってたけれど、私の体は絶対何かおかしいと思う)

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