第33話 学園での魔道具研究
季節はあっという間に過ぎてゆき、夏はもうすぐ終わりつつあった。
俺は、魔道具に回転力を発生させる何かが欲しいと考え、魔道学園の図書館で魔道回路理論の本を読み漁っていた。
そしてついに、1つの重要なことが書いている本に行き着いたのだ。
それにはこう書いてある。
『魔道回路に強力な魔力を流したとき、その周囲に置いた鉄の棒に不思議な力が備わることがある。その金属棒の中央を糸で結んで上から垂らすと、必ず同じ方向を向いて止まる』と。
「これだ!」
思わず俺は叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
それはまさしく、地球の知識として得ている“アンペールの法則”によく似ている現象が、この世界にもあることを示している。
磁界や磁石が作れるのであれば、引力と反発力とを利用してモーターが作れる!
俺は魔道具工房のヘッセン先生に、大きな魔力を一気に流せる魔道伝送路の製作をしたいと相談した。その結果は、“超魔道伝送路”が構成できれば可能とのこと。
(それって、超電導と同じじゃないか?)
そう思っていたら……やはり、魔道伝送路を究極の温度まで冷やすのだそうだ。冷却の魔法で。
しかし、理論的には可能だが、局所的に超低温を発生させる魔法陣がまだ開発できていならしい。
無いものは作るしかない。日本の研究者魂に火がついた。
何度も試行錯誤を繰り返した。
最初は冷却能力が足りず、次は魔力の消費が大きすぎた。
失敗と改良を重ね、完成した冷却プログラムを魔法陣に変換すると、ついに極限の冷却が可能となった。
そうして出来上がった物が、強力な磁力を持つ魔鉱石。そしてそれを応用して出来上がったのが、この魔道モーターだ。
夏休みの大半が研究で吹き飛んだが、これがあればこの世界の技術は格段に進歩する。
俺は、モーターの試作品を、発明権に詳しいオズリック先生にも見せることにした。
モーターの発明は基本的な発明なので、それを応用するすべての魔道具に発明権が適用されるはずだからだ。
これから開発を考えている魔道扇風機、魔道ポンプ、魔道掃除機、魔道洗濯機、魔道ドライヤー、魔道ミキサー、魔道ミシン、魔道自転車、ざっと思いつくだけでもこんなにある。
これらは全て、この世界ではまだ実現されていない魔道具だ。だから、これからの普及を考えれば、基本特許……いや、基本発明権として抑えておかなければならない。
◇
「回っているのか!」
俺はモーターにプロペラのような羽を付けて、スイッチで入り切りして見せた。
「おお、止まった! また回った!」
「先生、この回っている羽の先のほうに手をかざしてみてください」
オズリック先生の反応はおもしろい。
「なんと! 風魔法が発動しているのか?」
「いえ、先生、これは魔力の流れを回転力に変えることができる、魔道モーターと名付けた発明品です。魔力を流し続ける限り回転しますし、魔力の流れを止めれば停止します」
先生方には、魔道回路と磁力の関係について、黒板を使って回転する原理を詳しく説明した。
「これをもっと大きくすれば、回転する力を大きくできます。暑い時に、体の温度を下げて快適に過ごせるようにできると思いますし、井戸の水をモーターを使って汲み上げる……そんなことも出来るでしょう」
俺はこのモーターを使って実現できる、地球の様々な電気製品を思い浮かべながら先生に説明していった。
「掃除や洗濯にも使えますし、髪の毛を洗った後すぐに乾かしたり、髪の形を整えたりする事も出来るんじゃないかって思っているんです」
「言っていることが、いまいちよく分からんのだが、要は、これから作ろうと考えている色んな魔道具に、この“魔道モーター”という発明品が応用可能だということだね。それならば、その様に魔道学園からの発明権申請をしよう」
魔道学園内で発明された発明権の申請は、学園を介して商業ギルドに申請することになっている。
発明者が誰なのかを秘匿する必要があるので、オズリック先生がすべての申請を請け負ってくれることになった。
更に季節は巡り、魔道学園に入学して一年間の間に、俺は井戸から水を汲み上げる“魔道ポンプ”、もう寒くなってしまったが“魔道扇風機”、火魔法と組み合わせた“魔道ドライヤー”を開発した。
トラビンさんは、小さな物から大きな物まで様々な形状の部品を作ってくれた。そのおかげで、この一年間にこれだけ多くの魔道具開発を行うことができたのだ。
(細かい要望に応えてくれた、トラビンさんにも感謝・感激だ!)
魔道学園の中では、井戸に試作品のポンプを取り付けたことによって、バケツを使って滑車で水を汲み上げていたナジャおばさんから大そう有難がられた。
これまでは井戸と水桶までをバケツを持って何回も往復していたのが、蛇口をひねるだけで「シャーーー」と勢いよく水が出てくる。それが、とても嬉しいようだ。
「これでとっても楽になったわよー、もうね、凄いよあんた。もう朝からバケツに水入れて井戸から何往復もしなくていいんだもの。あんた、私に楽をさせてもっと太らせようって魂胆じゃないのかい?」
興奮しながら、そう言われるほどだ。
色々と作った中では、この魔道ポンプと、魔道ドライヤーの売れ行きがいい。この2つの魔道具は一家に1台というペースで売れているのではないだろうか。
おかげで俺の商業ギルドカードの中身は結構ホクホクの状態になってきた。
◇
初等部の授業も終盤に入ってきた。
そして、あと数週間もすると進級試験がある。試験に合格してはじめて中等部に進級できるのである。
魔術科の生徒は、無事に中等部に進級できれば、授業の一環である“魔物討伐研修”に全員が参加することになる。
この研修に参加できるのは、魔術科の生徒だけで魔道科の生徒は対象外だ。
しかし、魔道ビームライフルを開発してスタンピードを撃退するという実績を残した俺には、学園長から内々に参加命令が下されたのだった。
「いやー、アルフレッド君、大変申し訳ないのだが、次の魔物討伐研修には君にも参加してもらいたいんだ」
「私は魔術科の生徒の様に魔術は出来ませんし、訓練も受けておりませんが……」
魔術科の生徒の中に、魔道科の生徒が混じるのはさすがにマズいだろう。
「実はここだけの話だが、君の研修参加については国王陛下からの指示が来ておるのだ。陛下は魔道ライフルなどの新しい武器と、その開発者である君のことを重視されていてね。魔術科の生徒と同じように、君を研修に参加させなさいと言うのだ」
(うーん、まいったな)
何となく陛下の意図が、かいま見える……しかし、今は言われるがままにしておく方が良さそうだ。
「魔物討伐研修の件は分かりました。それで、私はどのような形で参加すればよいのでしょうか?」
「それについては、私から説明しよう」
魔道科長が説明を引き継いだ。
「魔術科の生徒数は、一名が家庭の事業で退学したため現在19人だ。毎年4班にグループ分けするため、一組だけ4名のグループが発生する。アルフレッド君は、この4名のグループである第4班の中に入り、魔術科の生徒をサポートして欲しいのだ」
サポートと言っても、俺には魔法ができない。
「具体的には、どのようなサポートなのですか?」
「君の専用の魔道ライフルを持参し、彼ら4人で対応できないときに力を貸して欲しい。なに、北の森には強いモンスターはいないから、4人でも十分に対応できる。保険のために君がいると考えて欲しい」
(魔道ライフルか。少し短くは出来たけれど、いっそうのこともっと短くしてしまおうかな?)
「ミレーナ先生」
「何だ」
「現在の魔道ライフルは森の中で使用するには長すぎて機動性が悪いです。もっと全体の長さを短く作り変えて機動性を良くしたいのですが、良いですか?」
(森とは言っても、この付近の森はまだ木々が若く、小さな雑木が沢山あるから構えにくいと思うんだ)
「確かに、森の中では長い武器は機動性が悪くて不利になるな。良いだろう。中等部に進級して5週目が研修の時期にあたる。それまでに準備が可能か?」
「はい、何とか準備できると思います」
俺は、銃身を詰め、片手でも持てる短銃型の魔道ガンを作ることにし、本体の製作をルナの町のガレットさんに依頼することにした。
しかし、進級……はたして問題無く進級できるだろうか?
初めての進級試験に、不安が過るのだった。




