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第31話 学園生活

 俺は学園生活を満喫していた。

 しかし、入学式から二週間が過ぎ、そろそろ新生活に慣れてきたころ――それは当然のように起こった。


「お前、ちょっと態度がデカいんじゃないか?」

「そうだぞ! お前、孤児のくせして、俺様たち貴族と対等に喋ろうなんて自惚れすぎなんだよ」


 えーっと、俺の記憶では最初に喋った方が、デムルの代官バーリントン子爵の三男トマス、後から喋った方が、チェリ代官のアスター男爵の二男ウィリアムだったかな。


(……なるほど。これが学園の“通過儀礼”ってやつか。笑えるくらい、教科書通りだ)


 喧嘩しても負ける気がしないので、客観的に観察ができる。


「すみません、俺……私は、貴族の皆様と対等になんて思ってもいなかったのですが、大変申し訳ございません。以後は気を付けますので、どうか許してください」


(面倒な連中だな。ここで張り合っても得はない)


 ここは――気弱なタイプと認識させて、なんとかご退場頂こう。


「チェ! こいつ、とんでもない弱虫だぜ」

「ああ、相手にするだけ無駄だな。今後は俺たちの言う事をしっかり聞いとけよ、この弱虫野郎!」


(ちょっと、ムカッとするけど、ここは我慢だな)



 まあ、そのような事は他愛もないことだ。俺には魔道学園に来て、いろんな魔道具を開発する目的がある。


     ◇


「……という訳で、新しい魔道具を開発した場合、その発明権の申請方法、公開のしかた、発明権料の分配などについて、どのようにしたら良いのか教えて欲しいのです」


 魔道具の開発で、分らない事をミレーナ魔道科長に聞くことにした。


「もう新しい魔道具を開発しようと思っているのかい? 気が早いなぁ。まだ二週間しか経っていないんだぞ。……うーんそうだな、そのあたりは魔道具工房のオズリック先生に相談してみるといい。私からも話をしておこう」


「それから、鍛冶屋のトラビンさんを探そうと思っています。ご存じじゃないですか?」

「ああ、もちろん知っているよ。うちの工房でもお世話になっているんだ。トラビンさんの鍛冶工房は、王都の西の方にあって、歩いていけない距離ではないが、時間がかかるから定期馬車で行くといい」


 ご丁寧に、簡単な地図まで書いてくれた。トラビンさんの鍛冶工房は、王都の西側にある職人街の中にあるようだ。

 授業にも慣れてきた頃、次の休日に訪ねてみた。


「こんにちはー! こちらはトラビンさんの工房でしょうか?」


 魔道科長の地図のおかげで、トラビンさんの工房はすぐに見つけることができた。


「おうよ、わしがトラビンじゃが、なんか用かい?」


 ガレットさんと同じような顔の、ドワーフらしきおじさんが奥の部屋から出てくる。

 いや、まったく同じ顔じゃないようだ……似てるけど。


「今年から魔道学園に入ったアルフレッドといいます。ルナの町から来たんですが、鍛冶屋のガレットさんの紹介で、今後はこちらにお世話になるようにと聞いてきました」


 俺はこれまでガレットさんにお願いした、魔道コンロや魔道冷蔵庫の図面を見せた。今後はトラビンさんにも、このような新しい魔道具のケースなどを作って欲しいとお願いをするためだ。


「ふむ、これらのケースは作っておるぞ、しかし、この図面はお主が書いたものだったのか。……協力してやっても良いが、それなりに報酬はもらうことになろうの」

「はい、そこはしっかりお支払いしますし、商業ギルドに発明権の登録ができれば、発明権料についても考慮することが出来ると思います」

「ほう、そりゃ楽しみじゃのう」


 トラビンさんは快く了承してくれた。魔道具のケースに関しては、おそらく困らないだろう。


     ◇


 次の日、俺は魔道具工房にオズリック先生を訪ねた。この先生は、魔道具工房の準備室によく居るという噂があったので、準備室のドアを3回ノックする。


「オズリック先生はいらっしゃいますか?」

「……誰だい?」

「魔道科初等部のアルフレッドです」

「カギはかかっていないから、入っていいぞ」

「入ります」


 俺は、オズリック先生に、魔道具の発明権について、これまでの事を含めて相談した。


「ミレーナ科長が言っていたことは、本当だったんだねぇ」


 魔道科長との情報共有がしっかりされているようだ。

 話を聞くと、学園内で新しく開発した魔道具の発明権は、商業ギルドではなくて学園に申請書を提出することになっている。

 そして学園から商業ギルドに申請が行われるが、利益の1割は商業ギルドではなく学園が仲介料をもらうのだという。


「魔道学園は、1割の仲介料をもらうんだけれど、その代わり発明者の名前を秘匿することが可能になる」


 ……俺の場合、名前が秘匿できるなら絶対その方がいい。余計な火種は増やしたくない。


 世の中には悪いことを考える人がいて、発明者が公開されているとその情報をもとに強請ゆすりを仕掛けてくることがある。時には命を狙われる事もあるくらいだという。


「学生の身分では、名前を秘匿しておいた方がいいと思うぞ」

「そうします。有難うございました」


 俺は、今後の協力をお願いをし、魔道具工房の準備室を後にした。


     ◇


 いつもより少し早くなったが、ナジャおばさんが作ってくれた昼飯を食堂で食べていると、例の二人組がこちらに寄って来た。


「おい、そこの弱虫野郎! その席は俺様の席だ、どこかに失せろ」

「そうだぞ、ここはいつもトマス様が座られる席だ。早くどけよ!」


(うおっ、こいつ足を蹴ってきやがった。ちょっとムカついてきた)


 しかし……貴族を殴ったら多分、終わりだ。ここは暴力で“勝つ”場面じゃないのに、拳が震えている。


「……」


 相手を睨みながら無言で立ち上がったその時、後ろから声がした。


「君たち、弱い立場の者を虐めるのはやめたまえ!」


(えっ?)


 そう思い、後ろを振り返る。そこにいたのは確かブリストル辺境伯の長男、エドワード・ブリストル君だ。


「トマス様、こいつはブリストル辺境伯の息子ですぜ」


 アスター男爵家のウィリアムが、バーリントン子爵家のトマスに耳打ちしている。


「ちっ、格上かよ……」


 二人組は舌打ちして俺を睨みながら、離れていった。


「君はアルフレッド君だよね、私は魔道科初等部のエドワード・ブリストル。あの二人組は皆から評判が悪いんだけど、手を出したら良くないよ。君、相手に手を出す寸前だっただろう?」


(あれ? 分かっていましたか)


「ちょっと頭にきたもんで……」

「君が弱い人間じゃない事は知ってるけど、すまなかった。でもあの場ではそう言っておかなければ収まらないって思ったからね。もしよろしければ同席しても?」

「ああ、どうぞ」


 俺は、手招きをして、自分の椅子に座り直した。


「実は、君の事はちょっと調べさせてもらったよ。なので、ある程度は知っているんだ。私の父が言っていたけど、君は国王陛下に謁見した時に堂々としていたとね。そして毎朝講堂の裏の空き地で剣の鍛錬をしてるだろ。私は君が結構な腕前だと睨んでいるんだ」


 辺境伯家の息子さんがなぜ?


「えっと、調べたって、ブリストル……さん?」


「エドワードでいいよ。敬語も要らないし、できれば“エド”って呼んでもらった方が嬉しいかな」

「分かった。じゃ、じゃあエド君、俺の事はどのくらい知ってるの?」

「えっとね、君が魔道ビームライフルってものを陛下に献上した時、父は騎士団長の試し撃ちを間近で見てとても驚いたそうだよ」


 そうか、ブリストル辺境伯があの場にいたのか。でも、その後に陛下からはあの武器に関して箝口令が敷かれたと思ったけれど……?


「もちろん、父から話を聞き出すのには苦労したさ。でも、実は入学式の時から君のことが気になっていたんだ。王女殿下が目を向ける相手が、ただの平民で済むわけがない。父はそういう話になると、途端に口が重くなるんだ。陛下からの命令だから、何も言えないって一点張りでねぇ」

「じゃあ、どうやって?」


 箝口令はちゃんと機能はしていたようだが。


「君には事後になって悪かったけど、必ず君と仲良くなって、いつかブリストルへ連れてくるから、君の事を教えて欲しいと頼み込んだんだ。絶対に本人以外には話さないからという条件でね」


 ブリストル家に対して、俺を協力者にしてみせると頼んだのか。父上もその方がいいと判断されたのだろう。

 しかし、それだけのために早馬に乗って領地まで駆け抜けたのだという。何日もかけてだ。

 エドワード君は、計算尽くめで俺に話しかけたのかもしれないけれど、人間性については好感が持てる。


 貴族とお友達になるのは嬉しいけれど、どうやら、学園では“ただの学生”ではいられそうにないな。

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