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第30話 入学式

 魔道学園の入学式は、1年の始まりに実施される。この国での1年の始まりは春なのだ。


 毎年、魔道学園には40名の新入生が入る。魔術科20名と魔道科20名だ。入学式は男子寮と魔道科研究棟との間にある講堂にて行われている。

 俺は魔道科新入生の一人なので、講堂に入り【魔道科新入生】と書いてある席に腰を降ろそうとした。すると、その時。


「アル君? アル君……だよね?」


 奥の新入生の席から懐かしい声がする。視線を向けるとやはりそこには、真新しい制服を着たエミーとミラが驚いた顔をして立っていた。


「エミー! それにミラも! どうして?」

「やっぱりアル君だ。アル君も魔道学園に入ったの?」


 新入生の席に座ろうとしているのだ。誰が見ても新入生だと判るのだが、どちらからも自分が魔道学園に入学するとは伝えていなかった。


「エミーもミラも、魔術の腕前は随分上達したとは聞いていたけど、魔道学園に入学するとは聞いていなかったよ」

「アル君、言ってなくてごめんね。えっとね、私たちが入学できたのは、領主様のおかげなの。領主様から『素質があるから魔道学園に行かないか?』って言われたんだ。そして、費用も心配しなくていいって」


(費用は領主様が出してくれるんだ)


「それでね、入学したら連絡しようって思ってたんだけど……でも、アル君は何で?」


「それについては、入学式が終わったら話すよ。もうすぐ式が始まりそうだし、それに、目立ってるし……」

「あうっ」

「ミラも、頑張ったんだね」


 ミラは、サムズアップで微笑んだ。


 それから上級生も講堂に入り入学式が始まった。この魔道学園の学園長はヴァルガス・グレンコート学園長といって、白髪のナイスミドルだ。


 先ず学園長の挨拶があり、魔術科長であり知的な中年女性のサマンサ・アークウッド女史。そして、先日お会いした魔道科長のミレーナ・アルケイン女史へと挨拶が続く。


「それでは次に、新入生代表のマーガレット王女からご挨拶があります。王女殿下どうぞこちらへ」


「「「!!」」」


 新入生や先輩方からざわめきが起こる。みんな王女殿下がいるとは知らなかったのだろう。

(俺は知っていたけどね)


「親愛なる校長先生、先生方、そして在校生の先輩方……」


 全ての先生方、先輩たちに目配せをし、話し始める王女殿下。


「本日は、この魔道学園に入学する栄誉を受け、そして新しい旅が始まるこの特別な瞬間に、皆様と共にいられることを心から感謝いたします。私、マーガレット・クラーク・グランデールは、新入生代表として、みなさんに心からの感謝と尊敬の念を込めて挨拶を申し上げます」



「最後に、私たち新入生が立派な魔術師や魔道具師になるための努力と成長を先生方、先輩方に見守っていただけることを願っております。これからの3年間、私たち一人ひとりが魔道学園で学び、成長し、夢を追い求める姿を想像し、そしてそれを楽しみにしております」


(実に堂々として落ち着いた挨拶は、流石王女殿下だな)


「本日はまことに有難うございました。これから、どうぞ宜しくお願い致します。

 新入生代表 マーガレット・クラーク・グランデール」


(女殿下の挨拶は、皆が聞きほれて溜め息が出るほど素晴らしい。なのに、なぜ王女殿下は、時折俺の方を見て微笑んだりしたのだろうか。おかげで周囲の男子の視線が非常に痛いじゃないか)


 魔道学園には、それぞれの専門の講義に対して専任の先生がおり、俺たちの魔道科は魔道回路理論などの4名の先生がいる。


 エミーたちの魔術科は、魔法理論などの5名の専任の先生がおり、初等部、中等部、高等部すべてが同じ先生が受け持っている。

 ちなみに、担任の先生はいない。何か問題が有れば各科長が担当するというわけだ。


 入学式が終わったら新入生だけが集まり、それぞれの科長からカリキュラムの説明があった。


 食事は、男子寮と女子寮の中間に位置する食堂で摂る。食堂のテーブルは、生徒120名全員が座れる数が無い為、魔術科と魔道科で時間を30分程ずらしてある。


 入学式の当日まで俺とエミー達がお互いの存在を知らなかったのは、この時間のずれがあったからだと思う。俺の場合、いつも遅れて食堂に来ていたのだ。


 今日の昼食は、エミーとミラとで話をするため、食事の時間帯が重なるように時間を調整した。案の定、彼女らは俺が来るのを1つのテーブルに座って待っていた。。


「やっと詳しい話が出来るわね」

「そうだね…… 午前中の話の続きだけど、聞いてくれるかい」

「うん」

「……」


(ミラは相変わらずだな。頷くだけだけど、聞く気は満々のようだ)


「おれが、ルナの町で起きたスタンピードの時に、魔物の殲滅に大きくかかわったってことは知ってる?」

「大きく関わった、というのは……聞いてない」

「詳しくは言えないけど、俺は魔物の殲滅に大きく関与しているんだ。そして俺は、国王陛下に召喚状をもらい謁見をした」

「っ!?」


「そう、そしてその時に、魔道学園に優待生として入学することが決まったんだ」

「ほんとなの? それって、すごい事なんだよね!」

「だから、この事は秘密にして欲しいんだ。陛下からもお願いされているから」


「同席してもよろしいかしら?」

「「ええっ?!」」

「マーガレット王女殿下、お久しぶりです。よろしいですよ」

「アルフレッドさん、ありがとう。こちらのお二人は、アルフレッドさんのお友達ですの?」

「私もこの二人も、ルナの町にある孤児院の出身なんです。こっちがエミリー、俺たちは“エミー”って呼んでます。同じ籠に入れて捨てられていた姉弟なんです」

「エミリーです。きょ、恐悦至極に……えーっと」

「堅苦しい挨拶は不要ですわよ。わたくしも“エミー”と呼ばせてもらっていいかしら? お友達になりたいですわ」

「ふえっ?」


(エミーの声が、変なところから出ているぞ……)


「エミー、そんなに緊張しなくてもいい、この人は王女様だけど、普通の人間と何も変わらないんだから」

「ええー、だって、人前であんなに立派な挨拶が出来るすっごい人だし、王女様なんだから……」

「アルフレッドさんが言われたように、わたくしも普通の人間なんですのよ。だから普通に接して頂けると嬉しいですわ」

「う゛ーーー、慣れるように努力します、ですわ」


「それから、こっちがミラベル。俺たちは“ミラ”って愛称で呼んでいます」

「初めましてミラベルさん。早速わたしも愛称で呼ばせてもらっても?」

「うん、私は構わない」

「あら嬉しいですわ。わたくしの事も“メグ”と愛称で呼んでくれると嬉しいですわミラさん」

「分かった、メグ……さん」


(さすがミラさん。肝が据わっていらっしゃる。エミーも驚くか、そりゃあね)


「ありがとうミラさん、私の方からも紹介しますわ、後ろにおりますのは、わたくしの護衛も兼ねている付き人のラシダ。私はいつも“ラズ”って呼んでいますのよ、よろしくね」

「アルフレッド殿の事は国王陛下より聞いております。エミリー殿もミラベル殿も、マーガレット様を宜しくお願い致します」


 さすがに王家の人には護衛が付くのか。それは仕方ない事だろうな。と考えていると。


「護衛としての役割を忘れるつもりはありませんが、わたしも魔術科へ試験を受けて、生徒として入学をさせていただいております。ですから、他の生徒と同様に接していただければ有難いです」


(まじかー、王女殿下のためにそこまで頑張ったんだ……)


「はい、分かりました」

「それでは、今後とも宜しくお願い致しますわね」


 女王殿下は食事を摂るのは自分の部屋らしい。今日食堂に現れたのは、どうも俺にコンタクトをとるのが目的だったようだ。


「アル君……、王女様とも知り合いだったの? 暫く見ないうちになんか変わったよねー」

「アルは、前の色と変わってはいない。でも大人っぽくなった」


(色? ミラさん、あなたの目には何が見えてるんですか?)


「俺は、中身は変わっていないけど、背丈はだいぶ伸びたかな。エミーも暫く見ないうちにすごく奇麗になったぞ」

「!?」


(あ、これはやばい。エミーが顔を赤くして俯いてしまった。怒られる前に退散だ)


「よし、飯も食ったし俺は先に行くね」


 俺は、逃げるようにしてその場を立ち去った。

30話まで投稿することが出来ました。

ここまで読んでいただいた方には感謝です!

次話も読んでみようかなと思われましたら、

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