第25話 王都召喚
ギルド長室から出て1階に降りていくと、リアナさん、ノエルさん、ミレーヌさんの3人が1つのテーブルに座っていた。冒険者は他に誰もいなくなっているので、みんな祝勝会に行ったのだろう。
階段を降り終わる前に、リアナさんが気付いてこちらに駆けてきた。
「アルくーん、 領主様に呼ばれてたんだってねぇー。大丈夫だったー?」
「はい、やっと解放されました」
「でも凄かったねー。私、遠くからずっとアル君を見てたけど、あれだけ沢山の魔物を一瞬で殲滅しちゃうんだもん。もーびっくりだわよー」
(はい、私もさっきから抱きつかれてびっくりです。手はどうしたらいいんだろう?
てか、ノエルさんとミレーヌさん? 生温かい目で見守らず、リアナさんに何か言ってもらえませんかね)
「あれは、領主様に頼まれたんですよ。王宮から指示されて作った魔道具の試作品を、この場で試したいと。そして、魔道具の扱いに詳しい俺に白羽の矢が当たったんです」
「ふーん、王宮からねぇ……」
(あ、ジト目。このお姉さん、やっぱり勘が鋭い)
「まあ、いっかー! アル君、祝勝会行こう! 今からでもどっか空いてると思うから! ノエルちゃんとミレーヌちゃんも行こうよ!」
「いいわよー、今日はいろいろあったからねー」
「そうと決まったら、あそこ行こぅ。あそこ」
(ノエルさんもミレーヌさんもノリノリだ。こりゃ断る訳にはいかないな)
(魔法の花園亭。孤児院の近くにあるから俺も知っている、女性冒険者しか行かない居酒屋さんだ。中には入ったこと無かったけど、見渡すとやっぱり女性客ばっかりだった。俺だけが場違いな感じで肩身が狭いんですけど)
「アル君何飲む~? もうお酒飲めるんでしょう? 12歳だよねぇ」
そう、この世界では12歳からお酒が飲めるのだ。
俺は、ワインを水で割ったものを注文する事にする。この体がお酒に強いか弱いか、まったく分からないから、どうなるかが怖い。
「じゃ、じゃあワインの水割りで」
「私もそれにするわー」
(ノエルさんも同じのにするのか)
「ノエルはそれ多いよね、私は冷えたエールがいいー」
「私もエールね、じゃあ頼むわよー」
この3人は、ここの常連さんの様だ。迷宮探索の話から、スタンピードの話などで結構盛り上がってしまった。
あの後、倒した魔物の魔石は、冒険者が協力して全て取り出した。冒険者ギルドで集計したのち、参加した冒険者全員に報奨金が支払われたのだ。
今回の魔物の数はとにかく多く、その分多くの報奨金となったので皆、懐が暖かいのだ。
「アルくーん、わらしはね、わかってんらよ」
さっきからリアナさんが絡んでくるので、対応に困っている。
「ほんとうは、アル君がでんぶやったんらよねぇー。れも、おねえさんアル君のみかたらから、らまっててあげるよー」
「こらこら、リアー、あんまりアル君に絡むんじゃないぞー」
リアナさんがここまで酔っぱらう事は、あまりないらしい。
「アル君の初めての迷宮探索に同行出来て、リアも楽しかったんだと思うのー。でもその後のスタンピードで一番活躍したのがアル君なのに、みんなからのアル君の評価が低すぎるんじゃないかって気に入らないらしいのよねー」
「アル君はまだ奉公の身分だから、早めに帰らないといけないでしょ。リアは私たちが何とかするから大丈夫だよ」
俺はリアナさんを二人にお願いして店を出た。支払いもワリカンにしようと提案したが二人から、迷宮デビューのお祝いだからいらないって断られた。リアナさんが「おやすみのキッスは? ねえ、おやすみのキッスしよ!」と言って迫ってくるから、早々にお店出てきたんだけどね。
マルコさんの魔道具屋に戻ると、みんなが温かく迎えてくれた。
「お兄ちゃん、今日は大活躍だったんだってね!」
(俺が帰る前に、ガレットさんが来て、今日の俺の活躍について話をしてくれたらしい。祝勝会に呼ばれると思うから、遅くなっても叱らないで欲しいと念を押されたそうだ。ありがたい)
あの後、ルナ迷宮は暫くの間の閉鎖が決まった。
毎朝の走り込みは続けているが、冒険者ギルドでの鍛錬はここのところ行っていない。迷宮探索が暫くはできなくなったことと、ギルド長のヴァルターさんがとにかく忙しくて、俺への指導も勘弁してほしいとの事だった。
仕方がないので、おれは魔道具の修理を頑張っている。出張修理が出来るようになったことでマルコさんの作業量が増えているのだ。
スタンピードの10日後、俺は冒険者ギルド長より呼び出しを受けた。
マルコさんも同行して欲しいとの事だったので承諾をもらい、一緒に冒険者ギルドに向かう。そう、今日は普通の日なのだ。
「急に呼び出してすまん。実はな、君に国王陛下からの召喚状が届いているのだ」
(とうとう、王様から呼び出しを食らってしまった。校長先生からの呼び出しとは格が違うのだ、命がかかっているのだから。ほら、隣のマルコさんなんか目を丸くして固まっているじゃないか)
「王都へ行くことになるのですね?」
「そうだ。君はまだ成人の儀を終えていないから、親代わりとなるマルコ君と一緒に行くこととなる」
「アル君、君は、な……何をしたんだい?」
マルコさんが少しづつ動き出したように見える。
「ああ、実はな……」
ギルド長からこれまでの事情がマルコさんに説明された。
「……」
マルコさんはコメカミに指をあてて考え込んでいる。いや、落ち込んでいる様にも見える。
「マルコ君、心配はいらないと思う。王宮に同行するのはルノザールの領主で俺の教え子だ。彼がこのアルフレッド君を気に入っていてな、悪いようにはしないはずだぞ」
「そ、そうですか……」
マルコさんが正常に動き出した。
その後ギルド長から、これからの事について話があった。
できれば1週間ほどの間に準備を済ませ、王都に発ってほしいとの事だ。国王陛下をあまり待たせるのは良くないらしい。
王都に発つ前には領主館の方にいつ発つのかを連絡しなければならないが、これは冒険者ギルドから連絡をするとの事。
王都に到着すれば、王都内にあるルノザール伯爵邸を訪ね、国王に面会するまでの間、別途王都に向かった領主様(王都では伯爵様)の指示を受けて行動してほしいとの事。
「王都への交通費はどのようになるのでしょうか」
気になったので聞いてみた。
「王都への馬車代や、宿泊等の費用は全て領主持ちとなる。その辺りも心配は不要だ」
旅費や宿泊費は領主持ちのようだ。出張報告書みたいなのは必要ないだろうか?
◇◆◇
王都へ旅立つ日がやってきた。
「お兄ちゃんたち、いつごろ帰ってくるの?」
(そこは、「お父さんたち」って言ってあげようよティナちゃん)
「王都までは馬車で4日かかる。その往復の8日と、それに謁見の日の調整に4日ほどの余裕をみると、だいたい2週間後くらいかな」
マルコさんは淡々と答えているが、どこか悲しそうだ。
王都までの距離は、約250キタール(250km)。途中、リーゼと言う宿場町で一泊するが他の2日は野営するらしい。
「おみやげ買って来てねー」
(リサちゃんは、「お兄ちゃん」って付けなかった分、お父さん的には点数がアップだね。いや待てよ、これは両方におみやげを強請っているってことかも。そうすると妹の方が強かだな)
「おみやげ買ってくるからねー」
しかし、マルコさんは嬉しそうだ。
ルナの町から王都への定期馬車は運行されていないので、ルノザールから王都へ向かう定期馬車に乗ることになる。
ルナの町からルノザールまでは、短距離の定期馬車が2時間ごとに出ており、俺たちは始発に乗ってルノザールの乗り継ぎ所まで移動することになる。
「気を付けて、行ってらっしゃい」
「「行ってらっしゃいー!」」
マルコさんの家族の見送りを受けて、俺たちは王都を目指して出発した。




