第24話 スタンピード2
「魔術師の魔力がもう持ちません!」
魔術師の中で攻撃魔法の使い手は俺たちと同じ外壁の上から攻撃をしているが、若い魔術師は顔色が悪く座り込んでいる人もいるようだ。
魔術師の魔法攻撃頻度が少なくなってきたため、押し寄せる魔物に前衛が対応できなくなってきている。これは不味いんじゃないかと思いながら大型の魔物を攻撃していると、俺たちの後方から金属の擦れる音と大勢の足音が聞こえてきた。
「ルノザールから、騎士の応援が来たぞ!」
「これで、持ち直せるぞ!」
魔物スタンピードの予兆がみられた時点で、冒険者ギルドから領主館の方に連絡が行っている。
領主館の方ではこの様な非常事態の場合に備えて、常駐の騎士を派遣することになっているが、これに対し領主様が60名ほどの騎士を引き連れてここまで応援に駆けつけて来てくれているのだ。
領主様も馬から降り、騎士の一人に手綱を預けて外壁のほうに登ってきた。
「状況はどうですか」
領主様が、ギルド長のヴァルターさんに話しかけている。
「魔物の数が多くて苦戦している。2万を超えるかも知れん」
「2万ですか! 前回、父が負傷した時でさえ1万と聞いてます」
領主様は、到着した騎士団長に指示をして、騎士たちを直ちに配置に就かせた。
暫く膠着状態が続いていたが、ここにきて魔道ライフルの魔石も尽きてきた。
俺たちの間引きが少なくなってしまったため、その分前衛や騎士たちの負担は増えてくる。冒険者たちはもう1時間ほども休みなく魔物たちと戦っているのだ。息も上がりきっているし、ケガ人も増え始めている。
「ケガ人を運べ!」
外壁の内側も慌ただしくなってきた。これからはノエルさんたち治癒魔法の使い手の出番である。
「力と癒しの源よ、わが手に宿りて負傷者の傷を癒したまえ ヒール!」
ノエルさんも外壁の内側で治癒魔法の詠唱を行っている。治癒魔法は、緊急時には短縮詠唱をするが、ちゃんと詠唱をした方が魔力の消耗が少ないと言っていた。出来るだけたくさんの人を助けるためには、魔力の節約が必要なのだろう。
そんな事を考えているうちに、騎士たちのほうも徐々に後退してきている。
「……まずいな、どうする?」
ギルド長のヴァルターさんは、苦虫をつぶしたような顔をしている。
「ギルド長、ちょっといいですか」
「何だ」
俺は、少し前から考えていたことを、ギルド長に提案してみる。
「この際ですから、あの武器の封印を解きませんか?」
その瞬間、ヴァルターさんの目が見開いた。
「確かに今なら、領主のルノザール伯爵がこの場にいる。彼が後ろ盾になってくれるやもしれん。俺は領主であるシャールに話を付ける。その間に君はこの鍵で宝物庫を開けてもらい、例の武器を急ぎ持ってくるのだ」
『ギルドの職員にこの指示札を渡せ』と言われて手渡された指示札と鍵を持って、ギルドまで全力で走る。そして俺は、魔道ビームライフルを外壁まで無事に持ち帰った。
「君が、そのアルフレッド君だね。話はギルド長から聞いたよ。その威力については私も見ていないから分からないが、ギルド長が言うような物なら、私が作らせたテスト段階の武器だという事にしよう」
(あれをこの場でぶっ放せば色々と問題もあるだろうが、領主様がその問題を背負ってくれるという事のようだ。『何でもっと早く使わなかったんだー』とか、考える人もいるからね)
「使い方は誰も分からないから、君が使用するという事でいいかい?」
「はい、大丈夫です」
「分かった、それでは私が皆に話をする」
領主様は、外壁の上に立って騎士や冒険者の前衛に対し、徐々に後退して門の中に入るように指示を出した。
その上で、これから高火力の武器の試作品を試してみるとの事、初めての使用であるため、前衛をすべて退避させる事、そして、この武器を使った後にはまた門の外に出て魔物との交戦を再開してもらう事を説明してくれた。
その話を聞いた前衛の冒険者たち、騎士の人たちは徐々に門に近い方から門内に入り始めた。俺は魔道レーザーライフルを持って外壁のほぼ中央の門の上に移動し、膝立ちスタイルで構えをとった。
「準備はできました。いつでもOKです」
「よし、最後の一人も中に入って今門が閉まった。やってみてくれないか」
領主様とギルド長は斜め後ろに待機している。他の後方支援の面々も、期待を込めた表情でこちらを見ている。
(ああ……緊張するな。)
俺は一度深呼吸をしてから、一気にトリガーを引いた。
「ブーン」という電気音がした後、紫白の電磁光線が一直線に解き放たれた。
放たれた電磁光線は、ほぼ同時に魔物までと飛んでいく。強力な電磁気を前にしては、魔物たちが「バリバリ」と音をたてながら、丸焦げの塊を作り出してゆく。
そして更に、そのまま後方までをなぎ倒していった。
俺はそのまま銃口を左右にゆっくり振って、魔物の群れ全体に満遍なくビームを当てていく。
圧倒的な経験値流入の嵐で、胸が張り裂けそうになる。同時に俺の体はレベルアップにより、これまでの疲労感がスッキリと皆無になった。
魔道ビームライフルの魔石が尽きたところで光の束は収束し、やがて静かになった。撃ち終わっても倒れずに残った魔物は、外壁の前にいる魔物と光線が当たらなかった所にいる僅かな魔物だけで、辺り一面は屍の海と化している。
さすがに、みんな唖然としていた。自分の口が開いている事に、誰も気が付いていないようだ。
暫くの沈黙の後、外壁の上から割れんばかりの歓喜の声が沸き上がる。
門内に退避していた前衛たちは、外が見えていないので何が起こったのか全く理解できていない。恐る恐る門を開けてみると、門の近くにいた魔物たちが、一斉に南の森の方へと逃げている最中だった。
◇◆◇
という訳で、俺は難しい顔をした領主様とギルド長との3人で、冒険者ギルドのギルド長室にいる。町では至る所で祝勝会が開かれて大騒ぎなのに、何で俺だけ?
「ここまでの威力だとは思わなかったよ、ヴァルターさん」
「私もここまでの威力だとは……」
「この様な武器であったなら、是非に私の方に報告が欲しかったよ」
「陛下にも報告せねばなりませんな……」
(国王様にも報告? スタンピードは大事だけれど、そうじゃなくて俺の武器の事だよね、多分)
俺は恐る恐る聞いてみた。
「そんな大きな問題になるのですか?」
「「問題だよ」」
二人からは、全力で肯定されてしまった。
「今回は魔物だったが、あの威力が国と国との戦争に使われたらどうなると思う?」
「いや、あれは人に向けたら発射出来ないですよ?」
「それでもだ、万一他国に盗まれたりでもすると、解析され改変されて人に向けられる様になるかもしれないだろう? 他国は必ず君を探し出し、誘拐でも何でもして取り込もうとするだろう」
(そうか、他国でも王宮魔道具院みたいな研究機関が有るかもしれないし、人に向けて発射できない安全機構は解除できるかもしれない。それよりも何よりも、誘拐されるとか絶対に嫌なんですけど)
「陛下には、ありのままを伝えるしかないでしょうね」
「うむ、その上でアルフレッド君が開発者であることは、秘匿してもらうしかないだろな」
「アルフレッド君には、一度陛下に会ってもらう事になるだろうね」
「えっ、陛下に会うって、国王様に会うってことですよね」
「そうだ、……そのうちに王都に行くことになるだろう」
「陛下が先ず君の事を見て、信頼のおける人間であるかを判断されるんだ。そうでないと、君が開発者であることを、陛下によって秘匿させるってところができない。逆に君の方も陛下を信用しなければいけないけどね」
(お互いに信頼し合ってこそウインウインって、そんな単純な事ではないですよね? 信頼されなければどうなる? 首チョッキーンて事ですかっ? ……嫌だ、こわ!)
「先ずは、今回の処理についてだけど、この町でもアルフレッド君が単独であれを開発したって事にはせず、私が王宮からの指示を受けて作った試作品を魔物に試した、という事にするよ。アルフレッド君はそれを使用するための知識があったから、私とギルド長の指示で使用してもらったと。ヴァルターさん、それでいいかな?」
「私もそれでいい。アルフレッド君、暮々も間違えないように頼むぞ」
「は、はい、分かりました」
(首が飛ぶのは嫌だからね)
話がまとまった所で、おれはやっとギルド長室から解放された。
(ああ、もう早く帰って寝たい気分だわ)




