第23話 スタンピード1
「よく、早く知らせてくれた。これはスタンピードが起こる前兆かも知れん。急ぎ準備せねばならんぞ。リリアン君、Eランク以上の冒険者を急ぎ集めてくれ! そしてギルド職員に対しても、スタンピード緊急対応命令の発令を急げ。俺もすぐ向かう」
スタンピード――迷宮の魔物が大量発生し、興奮して外に溢れ出す現象だ。これまでにも数回起きているのだという。最近では、10年ほど前の発生が記憶に新しいらしい。
Eランク冒険者以上というと、俺もその中に入る。しかし、Eランクの俺が前に出るのは、さすがに危ない。なので俺は基本、後方支援だ。食料やポーションなどの供給、ケガ人への対応などがEランクの仕事である。
ギルド長との話を終えて1階に降りると、リアナさんたちが待っていた。自分たちも急ぎ、ここまで帰って来たのだそうだ。
「さっき、ギルドからスタンピード緊急対応の招集がかかったわ。私たちはこのままギルド内で待機、出撃命令がでたら外壁の上に移動するわね」
ルナの町は、外周が高さ5mほどの壁で覆われている。これまで複数ののスタンピードのたびに、外壁が重厚になっていったものらしい。
「アル君は冒険者ランクがEランクだから、冒険者ギルドの指示待ちだね」
ギルド職員からの指示があると、その指示に従って様々な支援を行ってゆくのだ。俺は他の待機組の人たちとギルドのロビーで待機していた。
◇
「アルフレッドさん、いますかー?」
職員のリリアンさんが俺を探しに来た。
「ああ、アルフレッドさん。急いで2階まで来てもらえますか」
何だろう、ヴァルターさんが呼んでいるのか? 俺はリリアンさんについていった。
「ああ、アルフレッド君、先ほど早馬で偵察に出てくれた冒険者が戻って来た。君たちが潜っていた時から更に内部の状況は悪化しているようだ。スタンピードの発生は、まず間違いないだろうという状況になっている」
スタンピードというと、どのくらいの魔物が迷宮から湧き出すのだろう?
「いつ、どのくらいの魔物が迷宮から出てくるのでしょうか?」
「入り口の扉が閉まっているから、ある程度時間稼ぎはできるが、強い魔物になるとその扉を壊して外に出てくる。その時刻はまだ分からないが、入り口に二名の騎士が待機していて魔物が内側から扉をたたき始めたら再度信号を送り、すぐに町へ早馬で戻ることになっている」
やはりあの二人、領主館から派遣された騎士だったらしい。
「騎士らが戻ってからは、恐らく1時間も持つまい。数なんだが、前回の場合は1万を超えていた。しかし、今回も同じかどうかは分からないのだ」
1万匹というと、まったく想像がつかない。そこで、俺には何が出来るのか聞いてみた。
「それで、俺は何をすればいいんでしょうか?」
「おお、そうだった。君には前に作って貰った魔道ライフルのマガジンと言ったかな、これに入れる魔石を配付し、可能であれば詰め替えまでを指導して欲しいのだ」
魔道ライフルを持つことになった冒険者は今回Dランクになったばかりの前衛10名が選ばれ、外壁の左右に5名ずつ配置される。
冒険者ギルドで確保している魔石は最初から配られるが、足りなくなることは十分予想され、魔石加工職人に急遽加工を依頼しているのだという。
「追加で注文している魔石も届き次第、配置場所の二か所に届けるんですね。そして詰め替え指導までを行うと」
「そのとおりだ。理解が速くて助かる」
「あと、私からの提案ですが、今回俺はEランクにランクアップして、今日から自分用の魔道ライフルを持って迷宮で狩りをしていました。俺もそのライフル隊で外壁からの攻撃に加わってもいいですか?」
「まあ、そう言うだろうと思っていたよ。本来君はEランクだから直接攻撃隊で出ることは出来ないのだが、今日のバグベア―の件は聞いている。君が持っている魔道ライフルの火力も、今回は必要な戦力になるだろう」
いい判断をしてくれた。
魔道ライフルの攻撃力は高い。なので1挺でも多い方が良いのだ。
「何があっても無理はしないという条件で私が特別に許可するが、迷宮の深層部の魔物も出てくる可能性がある。そうなった場合には必ず魔術師らと共に退避することを約束してくれ」
「分かりました、約束します」
俺は、門より左側の魔道ライフル隊に加えてもらう事になった。
俺は外壁の上で、他の魔道ライフル隊の人たちに、マガジン内の魔石の詰め替え方法を説明していく。マガジンはライフルから取り外した状態で、6個の魔石の詰め替えが行える。
魔石1個あたり約10発、一つのマガジンで約60発、一人あたり六つのマガジンが供給されるので、だいたい3百60発ほど打つと、すべての魔石が空になってしまう計算だ。
魔道ライフル隊の面々は俺の話を真剣に聞いてくれて、自分で魔石の交換をしてくれるという。おかげで俺は自分専用ライフルでの攻撃に集中できる。
もう片側の魔道ライフル隊に対しても、詰め替えの指導をした。
それが終わって暫くは、何事もない状況が続いた。だが、30分ほど経った時、迷宮の扉が壊れそうである旨の信号が入った。待機している冒険者たちに緊張が走る。
「いよいよか」
「気を引き締めていくぞ!」
「ポーション類の予備はありますかー」
「体力回復剤を1本くれ!」
ここルナの町は、ルナ迷宮とルノザールの街の間に作られている。過去に何度かスタンピードが発生したことがあった時、ルノザールまで被害を受けたこともあるらしい。
外壁を頑丈にしたこの町で食い止めないと、ルノザール市民が危険に晒されてしまう。
そのために、この町でスタンピードを食い止めることは、最重要事項なのだ。
◇
やがて、地響きのようなうねり音が遠くから聞こえてきた。その直後に森の中から姿を現したのはヴォルキノだった。こいつらは動きが敏捷なので、森の中も草木の間も、軽快に走り抜けてくる。
「後衛は、一次ラインが突破され次第、前衛の上から攻撃開始! 前衛は二次ライン手前で待機し、敵と遭遇次第応戦せよ!」
ギルド長のヴァルターさんが指示を出す。一次ラインは門から百m先、二次ラインは30m先で、それぞれに幅3m、深さ5mほどの堀が作ってある。土魔法と風魔法によるものだ。
そうするうちに、ヴォルキノたちが一次ラインに迫ってきた。
「後衛部隊、撃ち方始めー!」
後衛隊の合図とともに、弓隊の弓が一斉に発射される。
先頭が堀に落ち、後続が詰まり、そこで矢と魔法がまとめて刺さる。
それでも、跳べる個体は跳んでくる。
「ライフル隊も続けー!」
それに合わせて我ら魔道ライフル隊もトリガーを引く。
詠唱時間の間をおいて、激しい雷の音とともに魔術師の雷魔法も発動された。
魔道ライフルと弓は先端の魔物を狙い打っている。
我先にと走り来る魔物の群れは、前の方からバタバタと倒れていく。
群れの中央を目掛けては、雷魔法、火魔法、風魔法と攻撃力の高い魔法が撃ち放たれ、魔物の進行スピードは徐々に落ちる。倒れた魔物が“壁”になっていくからだ。
しかしそれでも、ジャンプ力の高いヴォルキノは二次ラインまで迫ってきた。
俺たちは先頭の魔物を狙い撃ちして、前衛の負担をできるだけ減らさなければならない。
「前衛隊は二次ラインで迎撃を開始せよ!」
前衛隊の合図とともに、剣や槍を持った前衛が戦闘を開始した。
現在のところ、前衛の負担はそれほどでもないが、問題はこれがいったいいつまで続くかだ。魔物が出てくる辺りを見ても、森の影が揺れるたび、次の群れが“押し出される”ように現れてくるのである。
暫くはこちらの優位な状態が続いていたが、30分ほど経過した頃から、魔術師の魔力が尽きかけてきた。
皆に魔力回復剤のポーションは配付されているが、魔力は一瞬では回復しない。MP回復量よりも消費量の方が多いのであれば、いつかは魔力が枯渇する。
そして、ライフルのマガジンも、予備が一つだけとなってしまった。
「私たちは、前衛の負担になる大型の魔物に狙いを絞った方がよさそうだ」
魔道ライフル隊の一人がそう提案してきた。
時間が経つにつれて、大型の魔物も現れてきている。
冷静に考えればその通りだ。俺なんか、手当たり次第に撃っていたので、後悔している。
それから少しして、魔道ライフル用の魔石が届いたと連絡があった。俺は急いで下に降り、職員から魔石を受け取って現場に戻る。
「魔石がギルドに届きました。一人あたり20個の支給となります」
魔石の数は、220個が用意されていた。
魔道ライフル隊は俺を含めて11名。一人あたり20個を、魔道ライフル隊の面々に配っていく。
俺も20個を、既に使い終わったマガジン三つに再装填させてもらった。
そして、ひと息つく間もなく、俺は銃口を再び魔物の群れへ向けた。
その時、森の奥――矢も魔法も届かない暗がりで、何かが大きく息を吸う音がした。




