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第22話 第2階層での異変2

「アル君、戻ろう」

「えっと、どうしてですか?」

「この辺りは、せいぜい2匹までなの」


 2匹まで? と意味が分からずにいると、説明をしてくれた。

 2階層に入った所はヴァルキノの数は多くて2匹までなのだという。それが、3匹とかさっきは5匹出てきた。だいたい1階層でヴァルキノが2匹で出てくる例はこれまで無かったそうだ。


(何か、昼過ぎから魔物の出現の感じが少しおかしいらしい)


「何か変な感じがするの。迷宮に何かー、これまでと違ったことが起きている様な気がするわね」


 ノエルさんも何かおかしいと言っている。


 分かりましたと、先ほど倒したばかりの魔物から魔石を取り出していると、2階層の先の方が騒がしくなってきた。


「助けてくれーーー」

「キャーー ファイアボール!」

「バグベアだー、みんな逃げてくれー」


 4人のパーティが、時々簡易詠唱で魔法を放出しながら必死で駆けてきている。時折射出される魔法に少しだけ怯みながらも、冒険者バーティを執拗に追いかけてきているのはクマが更に大きくなった様な魔物だ。


 隣を見るとリアナさんもミレーヌさんも真剣な顔をしてロッドを構えている。迎え撃つ気のようだ。俺も、100%マガジンを取り出して換装した。


 逃げてきた冒険者たちは、リアナさんたちが逃げもせず魔法のロッドを構えている様子を見て、上位の冒険者だと分かったのだろう。俺たちの手前で力尽きて転がってきた。俺一人だけは下位、と言うか本日迷宮探索が初日の超初心者だよ。


 4人を追って来たバグベア―は、対峙する俺たちに気付いたのか急に立ち止り2本の足で立ち上がった。そして俺たちに威嚇をしてきたのだ。これをグリズリーと言わずして何と言おう。かなり昔のアメリカ映画を思い出した。


「ガァーーーー!!!」

「周囲に集いし風の精霊よ・・・」

「天空に踊る各々精霊よ・・・」


 両隣りに構えるお姉さん二人が上位魔法の詠唱を開始し始めたが、俺はバグベア―の額に狙いを定めて引き金を引いた。


 相変わらず頼りない音を立てながらライフルの先端から光弾が発射される。しかし、効果は抜群だった!

 仁王立ちしたクマの化け物は、脳天に穴を開けられ、両手を広げたままの状態で後ろに傾いていき、そして豪快な音をたてて仰向けに倒れた。


「「へっ?」」


 両側のお姉さんたちは、間の抜けた顔をしてこちらを見ている。

 胸も熱いので経験値も半端ないようだ。


「やっぱ、その魔道ライフルってめっちゃ凄いわ」


 リアナさんは先に正気に戻って、好奇の目で魔道ライフルを見ている。ミレーヌさんは、まだ戻ってきていない様子だ。



「「「ありがとうございました!」」」


逃げてきた冒険者パーティが、立ち上がって俺たちにお礼の言葉をかけてくれる。いや、みんな俺の方を見ているようだ。


「えーっと、今のは魔法……? でしょうか?」


 走りながらファイアボールを連発していた魔術師さんが聞いてきた。

 この世界で遠距離攻撃となると、弓や投擲とうてき系の武器もしくはロッドを持った魔法しかないのだ。しかし、俺が持っているライフルはそのどちらにも見えない。


「これはですねー、魔道具なんです」

「「「魔道具?」」」

「はい、魔道具の技術を応用した武器ですね」


「なるほど、そのような武器があることは聞いていた。しかしそれは冒険者ギルドが管理していて、特別な魔物討伐の時とかにしか貸し出しが許されていないはずだ。何でそんな若けーもんが持っているんだよ?」


 やっと息が下がってきたパーティの前衛らしき人が、俺を訝しげに見ながら聞いてくる。見た目もやはり、新米冒険者にしか見えないからだろう。


「あのね! この武器は魔道ライフルって言って、このアル君が自分で作った武器なの!」

「この威力の武器を、お前が作ったっていうのか!」

「私のアル君は天才魔道具師なんだからね!!」

「そ、そうか。それはすまねぇ」


 リアナさんの迫力に押されたようだ。


「しかしー、この魔物が2階層に出てきたのー?」


 ノエルさんは軽傷を負っている人たちに、ヒールの魔法をかけながら疑問を口にする。


「いや、俺たちは3階層でこいつらに出くわしたんだが、こんなこと有りえねーよなぁ、あ、ありがてぇ」


 彼らは3階層でバグベア―2匹と遭遇した。1匹はなんとか倒せたが、味方の持っているポーションが底をついて、これはダメだと逃げ出したところが、2階層まで追いかけてきたらしいのだ。


「やっぱり、おかしいわね」


 この迷宮に限らず、その階層に出る魔物は別の階層にまで移動することはない。階層をまたぐことは異常な事なのだ。そして更に異常な事は、このバグベア―は通常4階層に出てくる魔物なのだ。


「急ぎ、冒険者ギルドに連絡が必要ね」


 俺たちは急いで地上に戻り、受付の騎士風の2人にこれまでの経緯を話した。

 10年ほど前にも同じようなことがあったらしく、二人は慌てて入り口を閉ざし、人がやっと入れるような小さな出入り口を開けた。それから、1つの魔道具を操作する。


 この魔道具はルナの町の冒険者ギルドに、ルナ迷宮の異常を知らせるものだそうだ。

 次の瞬間、俺たちが懐に持っている冒険者カードが振動を始めた。スマホのマナーモードよりは振動が大きいだろうか。迷宮の中にいる冒険者にも、一斉に危険信号を通報することが出来て、今潜っている人が戦闘中でもはっきりわかる程度に振動して帰還を促すのだ。


「皆さん、再度この魔道具のプレートにカードをかざしてください」


 俺たちは順番にカードをかざして、迷宮から出たという記録を残す。お昼ご飯のときにやったから経験済みだ。これで迷宮の中にいる冒険者の数が把握できるらしいのだ。


「あなた達には申し訳ないですが、どなたかルナの町の冒険者ギルドに走り、詳しい状況を伝えてくださいませんか?」


 定期運航の馬車はこの時間は来ていない。走ってギルドに戻り、詳細情報を知らせるしかないのだ。10km程度の距離なら、俺も走って行けるだろう。毎朝日課のジョギングも10kmほど走っているのだから


「俺が行こう」


 一緒に上がって来たパーティのリーダーが手を上げる。前衛をしていて体力がありそうなはこの人だけだ。


「俺も大丈夫です」


 俺も手を上げた。


「アル君も行くんだね、防御魔法をかけとくよ プロテクト」


 ミレーヌさんは二人に防御力アップの魔法をかけてくれた。防御力のアップは疲れにくくなる効果もあるのだという。


「アル君頑張ってね、私たちじゃルナの町まで走るのは辛いから歩いていくよ。ギルドで待っててね」


 出来るだけ早い方がいいからと、俺たちはルナの町に向けて駆け出した。


「俺はカイル、お前は?」

「アルフレッドです、アルって呼んでください」

「おう」


 二人とも走っているから、最低限の話に留めている。


「アル、おめー、何歳なんだよ、おれは、18だけどよ」

「12歳ですよ」

「やっぱりな、まだ成人前かよ」


 この世界は16歳で成人だ。


「しかし、おめー ……速えーな」


(カイルさんは、ちょっときつそうだ。でも一生懸命俺に遅れないようにしている)


「毎朝、10キタールほど走ってますから」

「!!!」


(毎朝そんなに走ってんのかよって、そんな顔だな。苦しそうだから少しだけペースを落としてあげよう)



 40分ほど走っただろうか、俺たちはやっとルナの町の入り口に着いた。迷宮の緊急信号が門番にも届いているのか、俺たちはすぐに通され冒険者ギルドに急げとの事。

 町の中を走るとすぐに冒険者ギルドに着いた。カイルさんが冒険者ギルドのドアを開けると、中にいた人が皆一斉にこちらを振り返った。


「迷宮から走って来たのはお二人ですね、カイルさん、アルフレッドさんこちらへ」


 ドアの内側でせわしく息をしている二人を見て、迷宮から走って来たのだと気づいたリリアンさんは、走り寄って来て2階のギルド長室まで案内してくれた。


「先ずはご苦労、これを飲みなさい」


 リリアンさんによって水が用意されたので、二人とも一気に飲み干す。

 それから、俺たちはギルド長のヴァルターさんに迷宮の中で起こったことを詳しく話した。話している最中から、ヴァルターさんの顔はだんだん険しくなった。

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