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第21話 第2階層での異変1

(楽勝かも、って思っていた時もありました。はい、ついさっきまで)


 今俺は、オオカミ型の魔物と向かい合っている。名前をヴォルキノというらしい。

 見るからに狂暴そうなやつで、歯はむき出しで涎を垂らしながら隙を覗っている。


「アル君頑張れー。私たちが倒したらアル君に経験値が入らないからねー。危なくなったら助けるからぁ」


 そっと横目でみると、3人は岩壁から顔だけ出してこっちを見ている。ここは覚悟を決めるしかないか。俺は相手に向かってにじり寄る。


『ガルーッ!』


 ヴォルキノは摺り足で距離を詰めてくる。俺の腕を狙っている様にも見える。

 俺は姿勢を低くして左足を引くと同時に、両手剣を逆手に持ち替える。そして、相手が飛びかかってきた瞬間に剣を振りぬいた。


 「ギュン」と音を立てて、剣先が喉笛を下段から切り上げる。その刹那、ヴォルキノの頭部が宙を舞った。


 胸の辺りが熱くなったと同時に、体重を乗せていた左足が軽快に動かせるようになっている。これで3回目、多分レベルアップだ。前の2回でも確実に剣術の腕前も上がったのが実感できている。


「やったねーアル君。楽勝だねー」


(いやいや、楽勝ではなかったのですよ)



 その後も狩りを重ね、4回目のレベルアップが感じられたあと、リアナさんが昼食の提案をしてきた。


「お腹すいてきたから、昼食にしようよー」


 俺は、魔道具屋のエレノアさんにお願いをして、簡単な携帯食を持参していた。しかし。


「リアがさー、今日はアル君と一緒に迷宮に潜るからいっぱい作って行きたいって、私たちも朝早くから駆り出されて作ったんだぁ」


 3人でリアナさんのアパートに集まって、お昼ご飯を作ったのだという。


「今日はお天気が良かったから、迷宮の外で食べない? 気持ちいいと思うわー」


 迷宮の中にもいくつかの安全地帯があって、皆そこで携帯食を食べるのか普通なのだが、ノエルさんの提案に、他の二人も賛同している。何だかピクニック気分の3人に、俺は黙って付いて行くしかなかった。


「ここがいいわねー」

「うん、ここにしよう!」


 リアナさんはブルーシートのような布を敷いている。普通の布にスライムの体液を塗って乾燥させた物だそうだ。水を通さないらしい。


 3人が作ったという昼食を真ん中に並べて、その周りに4人で座る。完全にピクニックスタイルじゃないか。定番のサンドイッチに肉料理、サラダやフルーツ類が所狭しと並べられている。誰がこんな沢山の昼食を持ち歩いていたのか気になったが、3人で分担して持ってきたのだという。


「はい、あーん」


(右側に座っているリアナさんが、ミートボールの様な物をフォークに刺して、俺の方に差し出している。なんか、恥ずかしいぞ)


「リアナさん、ちょっとそれは……」

「あーん」


(リアナさんは、もっとフォークの先を近づけてくる。ほかの二人も微笑ましくこっちの様子を伺っているようだ。しょうがないな)


「あーむ、もぐもぐ」

「わー、アル君赤くなってるー、かわいいー」

「私も、私もー」


 地球時代の記憶の中にも、このような体験はないのだ。3人から遊ばれている感は否めないが、初めての経験で俺の心臓の鼓動はテンポが速い。


(この日、俺は3人のお姉さんからの『あーん』攻撃で精神力にかなりのダメージを受けてしまった。あ、エレノアさんが用意してくれた携帯食もちゃんと食べましたよ。もう、お腹パンパン!)


「そういえば、倒した魔物はそのまま放置してきましたけど、どうなるんですか?」


 俺は気になっていたことを聞いてみた。


「迷宮の中で死んだ生き物は、その内に迷宮の中に取り込まれていくわね」


 暫くすると、迷宮の中に取り込まれ骨も残らないのだそうだ。冒険者が亡くなる場合もあるが、その時は服や持ち物、武器などがその場に残るので、それらを発見した冒険者はギルドに届ける必要があるようだ。

 迷宮にこもっている最中での生理現象は、みんな岩陰で用を足しているが、大きい方でも10分ほどで地面の中に取り込まれるそうだ。


「昼食の後からは、この魔道ライフルの方で戦ってみますね」


 俺はマガジン内に書かれている魔法陣の書き換えを試みていた。ルメリウムの樹液を携帯型のフエルトペンタイプにしてから、出張修理が可能になったのだ。これにはマルコさんにもたいそう喜ばれた。


「威力が強すぎたけど、大丈夫?」

「それは、この取り外せる部分の魔法陣の一部を書き替えてやれば、出来ると思います」


 魔法陣の一部を専用のイレーサで消して書き替える。今回持ってきたマガジン6本のうち、3本を出力50%に制限するよう書き替えた。


「アル君はすごいわねー、こんなに複雑な魔法陣の意味を理解してて一瞬で書き替えちゃうんだから、将来は王宮魔道具師にもなれそうだわねー」

「アル君は優秀なんだから、ノエルには渡さないんだぞー」


 魔道学園を優秀な成績で卒業出来れば、王国が運営する王宮魔道具院に入ることも可能だ。そこで働く人は王宮魔道具師と呼ばれていて、特殊魔道具の研究や製作に携わることが出来る。


(左手をノエルさんに掴まれ、右手をリアナさんが引っ張っているが、ノエルさんのおっきな胸の感覚がさっきから……)


「あらー、ちょっとぐらいいいじゃない」

「ダメ―、アル君は私のものなの!」


(あれ? 俺はいつリアナさんのものになったんだろう? お二人とも、そろそろ迷宮に戻りませんと)



 1階層の最奥部は、オオカミ型の魔物であるヴォルキノが単独で出現するエリアだ。出力50%のマガジンを専用魔道ライフルに装填する。これでヴォルキノが飛び散るという事は無いと思う。


「いましたね、ヴォルキノです」


 俺は魔道ライフルをスタンディングスタイルで構え、こちらに気付いていないヴォルキノに狙いを定め、意を決してトリガーを引いた。


 微かに鈍い音をたててヴァルキノの脳天を打ち抜いた弾(この場合ファイアボールだが)は、頭を弾けさせているわけではなく、魔物はそのままの姿で横倒した。近くに寄ってみると、舌を出した状態で完全に息の根が止まっているようだ。


 これまでの様に小物入れからナイフを出して、魔石を取り出す。最初の頃は魔物といえ心臓の辺りにナイフを刺して魔石を取り出すのには躊躇ったが、やっとこの作業にも慣れてきたところだ。魔石を集めるのが目的だからね。


「このまま行きます」


 俺は構えたまま進んで行き。現れたヴァルキノを片っ端から屠ってゆく。


 数匹を倒したところで2匹組のヴォルキノが現れ、これも連射でとどめを刺す。ここら辺からは2匹組と出くわすことが多くなったが、初発が遠くから狙えているし、2匹目も連射で難なく倒せている。


(しかし、リアナさんたちは顔を見合わせている。2匹だと普通はもっと苦労するのだろうか?)


 それから少し進んだところで、下に行く階段が見つかった。2階層に進む階段だという事だ。


「俺は大丈夫だと思うので、2階層に進んでみましょうよ」

「そ、そうね」


 リアナさんはちょっと躊躇いがちに返事をした。


「無理だと思ったら、すぐに引き返しますから」


 リアナさんたちをそう説得して、下に進むことにした。



 2階層になると、ヴァルキノの出現率がアップした。1回で遭遇する数も増えている。今回は5匹が一緒にたむろしているが、魔道ライフルの連射機能でこちらに近づく前になんとかすべてを倒すことが出来た。剣だったらとても無理だっただろう。


 まだまだ大丈夫そうですよ、と言おうと思って女性陣を見ると、リアナさんとミレーヌさんは真剣な顔で魔術師のロッドを手に構えている。


「えっと?」


 俺は少し調子に乗ってしまったのだろうかと思い、反省の言葉を口に出そうとしたが、二人は無言で頷き合っていた。

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