第206話 エルドリアの依頼
俺たちより先に、国王陛下がこの謁見の間に入っており、既に席についているということは……もしかして、俺の身分がバレてしまっているのか?
「皆の者、頭を上げられよ。其方たちが不思議そうな顔をしておる理由も理解しておる。なぜ我が其方たちより先に来て、客人を迎える様な素振りを見せているのかという事であろう?」
やはりだ。嫌な予感が確信に変わりつつある。
「実はな、そこに居られるお方は、赤龍の里から参られたヴァルゼグリオス殿の長女、フィンリアン殿であると心得ているのだ」
俺じゃなかった! 安心はしたが……俺の身分を聞かれたらどう胡麻化そうかと、真剣に考えていたのが損した気分になる。
しかし、フィンリアンをなぜ知っているのだろうか?
「いや、我はフィンリアン殿とは初めてお会いするのだが、ヴァルゼグリオス殿から話を聞いておるのだ。月盟の絆という冒険者パーティと一緒に行動している娘が、そのうち王宮を訪ねてくるだろうとな。まだ小さな子どもだから良しなに頼むと」
赤龍の里から龍族も人化して、王都やフェルデンの街に足を運んでいる。それならば、この国王自身もヴァルゼグリオス殿と昔から交流があるということだ。
「さて、この度は我が国を悩ませておった海賊の討伐、誠にご苦労であった。やはり、フィンリアン殿が海賊船ごと掃滅してくれたのであろう?」
フィンリアンが赤龍だからそう思うのは当然だろう。はて、どうしたものか。
「いや、海賊船を撃破したのはアルなのじゃ。わらわはスタンをかけただけなのじゃ」
「ほう?」
リアンは正直者である。「わらわがやったのじゃ―」とでも言っておけばいいものを。まあ、そんな正直な性分が気に入って、いろいろと連れ回しているのではあるが。
「どなたが、アルと申すものか?」
「はい。私がアル……ルフレッドでございます」
「ふむ、して、どの様にして海賊船ごと撃破したのであるかな?」
「はっ、魔術にて撃破致しました」
これは、突き詰められる流れかな。
「そなたは魔術師なのか? 見た感じ、剣士の様な出で立ちであろう?」
「……魔術も嗜みますが、元は剣士にございます」
「まあ良い、あまり詮索はしないでおこう。さてここからが本題であるが、一応フォルステンの冒険者ギルド経由で報酬は得ていると思う。しかし、其方らが捕縛した6人の証言から、その背後にはフィンラーデン帝国が付いていることが証明された」
睨んではいたが、確証が得られたということだ。
「相手がフィンラーデン帝国であると判明したことから、こちらとしては帝国に対して毅然とした態度をとることが可能となった。まずは礼だ。追加の報奨を用意させた。受け取ってもらいたい」
「「ははっ、有難き幸せに存じます」」
レイサムさんと俺が同時に発した言葉は、報酬を受け取る際の決まり文句だ。まあ、用意してあるのは見えていたので予想はしていたが。中に入っているのは金貨100枚ってところかな。
「さてそこでだ、我が国とベルセルク王国、ランヴェルド王国の三国は同じく帝国と対峙している境遇は同じであるが、これまでに同盟を結んでいるという訳ではないのだ」
エルドリア国王の話は続く。
「本日、ベルセルク国王からの書簡を見せてもらったが、あちらも同様の考えであるらしい。あとはランヴェルド王国がどのように考えるかだが、我らに同意するのは、まず間違いあるまい」
まだランヴェルド王国には行ったことがないが、ベルセルクの国王が俺に託してランヴェルド王国への書簡を送ることから考えても、三国の考え方は同じ方向性なのだろう。
「我は、この三国が手を取り合って、フィンラーデン帝国に対抗する必要があると思っているのだ。そして更には、海を隔てたグランデール王国やアルセリア王国とも同盟関係を結びたいと考えている」
おっと、俺の国の名前が出てきたので一瞬びくっとしたが、敵対ではなくて同盟関係を結びたいとの発言だったから安心した。
「其方は、アルセリア王国の出身であると聞いたぞ?」
「はい、そうでございます」
「あの国の王は我も良くは知らぬのだが、若くして国王の座まで上り詰めたかなりの切れ者だと聞く。そしてグランデール王国は高速移動が可能な最強の軍艦と、その高度な造船技術を手に入れたと聞く。この二国とは絶対に敵対することが無いようにせねばならん」
この場で「そうしましょう」と言いたいが、そういう訳にもいかない。
「アルフレッド、其方らの高徳な冒険者魂に便乗して、グランデール国王とアルセリア国王への使いを頼みたい」
「はっ、謹んで承ります」
この日、エルドリア国王からグランデール国王とアルセリア国王へ向けられた書簡配達依頼を、冒険者ギルド経由の勅命依頼という形で受け取った。
「レイサムさん、俺たちは国王からの勅命依頼をよく受けるようになってしまったのですが、国としてこんなに重要な文書を、俺たちの様な冒険者に頼んで本当に大丈夫だと思われているんでしょうか?」
国と国との大事な文書を、初めて会った冒険者に託すなんて大丈夫か? 俺は素朴な疑問をレイサムさんにぶつけてみた。
「それだけ俺たちが実績を積んで、認知度と信頼性が上がった証拠なのだと思います。それに――フィンリアンさんの存在は大きいと思いますよ」
海賊の討伐から始まって、ベルセルク王からの書簡配達依頼を卒なくこなしたこと。それらがもとで、俺たちを信頼するに値すると評価されているのだという。
それに、フィンリアン、ひいてはヴァルゼグリオス殿の後ろ盾が大きいということだ。
次の書簡の届け先、ランヴェルド王国の王都ヴァイレンまでは、船で8日はかかる。
俺たち月盟の絆は、この後王都ヴァイレンまで行ってランヴェルド国王に書簡を届け、グランデール王国でお義父さんに会って書簡を渡し、冒険者ギルドへ戻って配達達成の文書を提する必要があり、まだまだ行程は長い。
対して銀月の誓盟さんたちは、これで全ての依頼を達成したことになる。
「レイサムさんたちはこれからどうしますか?」
「これで一通りの依頼は終える事が出来て、手持ちもかなり増えたからどうしようかと相談しているところです」
2つの勅命依頼をこなしたことで懐も温まり、すぐには次の依頼を受ける必要も無さそうだという。
「それならば、これからも俺たちと一緒に行動しませんか?」
「それは他のメンバーも喜びます。セラはあなた達が作る未来の姿を、すぐ近くで見届けたいとまで言ってるし、フェルなんかはまだまだ驚く要素が増えそうで楽しみだとも言ってますよ」
それはいいことを聞いた。フェルは驚かされて快感を覚えるタイプの人間だ。
俺はレイサムさんに他のメンバーの意向を聞いた後、フェル達へお誘いの言葉をかける事にした。俺もこの人たちとは、もっと長い付き合いをしたいと思っていたのだ。
「フェル達も一緒にヴァイレンに行くか?」
「お? おうよ。おめえたちと一緒だと楽しいから行ってやるよ」
「リアンちゃんと一緒なら、どこへでも行きたいわ」
「俺もできれば、一緒に行きたいです」
みんな俺たちと行動を共にしたいと言ってくれた。
ここからランヴェルド王国の王都ヴァイレンまで行くためには、魔道転移ドアでイーグレーンの谷まで行き、そこからサンドモービルを北東方向へと走らせるのが最短である。
イーグレーンの谷にある赤龍の里に着いた時、銀月の誓盟の4人は珍しく凍り付かなかった。もう、驚くことに慣れてしまったのだろうか。
さて、次は俺にとって初めての地、ランヴェルド王国だ。どんな人々が俺を待っているのか。
特殊な魔法を無意識に使う人物と出会うことになるのである。




