第205話 依頼達成報告
俺は、銀月の誓盟のメンバーたちに、これからアルセリア王国へ招待すると持ちかけた。
「では、これからアルセリア王国に向かいます」
「おめえ、何言ってんだ?」
まあ、フェルが理解できないのも当然だろう。
「商船に乗って来たと言えるように、数日の間アルセリア王国で過ごしてもらいます。魔道転移ドアでアルセリアに行きますが、ちなみにこれも秘匿事項になります」
転移ドアを通っていただくには、盟友の証にて言動を制限させてもらわなければならない。
「魔道転移ドアって何だ?」
「まあ、見てもらうのが一番なんだが、簡単に言えば迷宮の転移スポットみたいなもので、ドアを通ったら一瞬にして遠くの場所に転移するっていう魔道具だな」
「そんなもんがあんのかよ!」
彼らも冒険者であるため、迷宮の転移スポットの例えで理解したようだ。
「じゃあ、体験した方が早いので、早速行きましょう」
「みんなで行くのじゃー」
アルセリアまで行くのにも、当然のようにフィンリアンが付いてくる。もう彼女の中で、アルセリアの王宮は第二の我が家となっているに違いない。
「このドアを通ればいいのですか?」
俺はオルデミアの宿を八日間借りて、内部に転移ドアを設置した。
ドアは宿泊所用の仕様で、普通に開けただけなら、元の部屋の向こう側が見えるだけだ。
「はい、ではまずミラから行こうか」
「うん、行こう?」
「え? は、はい……」
ミラは心配そうにドアの向こうを見ていたトリスタンさんの手を握り、ドアの中に入っていった。でも何でミラはトリスタンさんの手を引っ張っていったんだ?
「消えました!」
「大丈夫ですわよ、一緒に行きましょう」
「え、ええ」
メグはセレスティアさんの手を握って入っていった。これがミラのように、他の男子の手を握って入ったなら嫉妬をしたかもしれない。
「お、おい。大丈夫なのかよ?」
「大丈夫なのじゃ、行くぞ」
「ちょ、お前力つよ……」
リアンは嫌がるフェリックの腰ベルトをひょいと掴んで引っ張っていった。何か言いかけていたが転移してしまえば音が聞こえなくなる。
「さあ、俺たちも行きましょうか」
「ああ」
みんなが転移できるようにと、転移ドアの認証リストに、銀月の誓盟の4人も追加した。この扉からこのメンバーが行けるのは、まだアルセリア王宮のみだ。また逆も然り、オルデミアの宿泊所のみである。
「まず、この王宮で過ごすのに支障が出ないよう、王宮の重臣や職員たちに君たちを紹介する。1時間後に謁見の間で行うから、それまでは客間で待機していてくれ」
王宮の転移室は兵舎の片隅にある。そこから客間までは訓練場の端を通り、奥玄関に入ると階段を上って2階まで上がらなければならない。
当然、客間までの道中では、何人ものメイドや騎士、兵士らと出くわしてしまう。
「アルフレッド陛下、マーガレット殿下、お帰りなさいませ」
「ただいま帰った」
「ミラベル魔術師団長殿、お帰りなさいませ」
「うん」
すれ違う者も、作業中の者も、皆が膝をついて最敬礼する。
「客間に客人を連れて行く。1時間後に、謁見の間で客人の紹介を行うから、宰相にそう伝えてくれ」
「はは、畏まりました」
急な帰還に見えるが、連絡をしていなかったわけではない。前もって魔道宅配便で知らせてあるので、準備はできているだろう。
「あんた、本当に国王だったのか……」
「今になって言うか?」
若干1名は完全に信じていなかったのか、ここに来てまでそんな事を言ってくる。
「いや、その……、あんたの態度があまりにも庶民的でくだけてたからよ。いや、でしたからよ」
「お前が丁寧語を使おうとすると、かえって変になるからやめとけ」
「はん? 俺だって……」
「フェル、頼むからやめてくれ。ここはアルフレッド陛下の宮殿なんだぞ」
「分かったよ」
確かに、王宮内で俺にタメ語を使う奴はいない。ジムだってそこは弁えているところだ。誰だか分からない人物が俺にタメ語で突っかかっているところを王宮騎士にでも見つかれば、不敬罪の現行犯として取り押さえられかねない。
「まあ、王宮内では大人しくしてくれたら嬉しいかな。最悪、不敬罪で捕まるかもしれないから」
「お、はい、分かりました!」
さすがに斬られることはないだろうが、念を押して、問題を起こさないようにしてもらうしかない。
「フォルステンからオルデミアまでの航路は、通常は六日間程度だ。天候によっては遅れることもあるから、七日後にオルデミアに戻って、『今日着きました』って顔で謁見をする事になる」
「オルデミアで7日間を過ごすことはできないのですか?」
「もし謁見までの間に、あなた達をオルデミアで見かけたという人がいたらどうなりますか?」
そうなれば、持ってきた書簡を含むすべてが疑われてしまう事になるだろう。
「そうですね、分かりました」
「アルセリア内だったら、王宮から出てもいいよ」
「そ、そうさせてもらいます」
王宮内に7日間も監禁するのは可哀そうだから、アルセリア市街だけでも自由に散策できるようにしてあげた。
◇
アルセリアの王宮で彼ら銀月の誓盟のメンバー4名は、意外と大人しく7日間を過ごしてくれた。フィンリアンは俺が執務をしている間、エミーのところへ行っては大きくなったお腹を触っている。
途中、エミーにも大陸での海賊討伐や指名依頼などについて詳しく説明すると、エミーは『私も行きたいな~』と羨ましそうだったが、そんな大きなお腹で国外まで足を伸ばすのは無理だと思うんだ。
今は無理をせず、お腹の子の健やかな成長と、初めての出産に向けた体調管理をしっかり行ってほしいものだ。
「じゃあ、気を付けてね」
「ああ、では行ってくるよ」
エミーが転移室まで俺たちを見送りに来たので、手を上げてそれに応える。ちょっと寂しい思いをさせてしまっているかな……と心の中が締め付けられた。
王都オルデミア側に出ると、俺は気持ちを切り替える。
アルセリアの安寧のためには、エルドリアやベルセルクの国王らをこちらの味方につけ、助言して国力を上げてもらわなければならない。それが巡り巡って我が国を守り、エミーやお腹の子の安全にもつながるはずなのだ。
「まずは冒険者ギルドで海賊船の撃沈と捕虜の捕縛について、こちらに連絡が来ているか確認してみようか。謁見についても打診してみよう」
今回の商船の護衛依頼はここの冒険者ギルドから受けた。しかし、報告はベルセルク王国の王都フォルステンにある冒険者ギルドだったので、情報がこちらにちゃんと届いているかも確認が必要だ。
「半月ほど前に、商船の護衛を引き受けた冒険者パーティ銀月の誓盟と……」
「同じく月盟の絆です」
「無事に商船の護衛を完了したことは、こちらに届いていますか?」
海賊船を撃沈したことまでは言及せず、護衛任務の結果について確認をしてみた。
「えっと、そうですね。フォルステン支部から報告が来ていますね。依頼達成の承認と、海賊の討伐……。えっ? 海賊の討伐ですか?! それも、6人もの海賊の捕縛に成功したと書かれていますね。……ちょっと待ってください」
そう言うと、受付嬢は2階へ駆け上がっていった。
◇
戻ってきた受付嬢は、俺たちを2階に案内してくれた。
「以降はギルド長が対応させていただきます。皆さん、こちらへどうぞ」
受付嬢はギルド長室のドアをノックする。
またここでも、ギルド長室に入る羽目になってしまった。
「私はここのギルド長をやっておる、ヘルベルト・アインスバッハだ。この度の依頼は大変ご苦労であった。既にこの依頼の達成内容については国王陛下にも伝えられており、追加の報酬も用意されている。君たちの帰還が確認され次第、登城するように通達が来ているのだ」
ベルセルク王国がそうしたように、エルドリア王国でも報酬が出るようだ。
国家間で競い合っているような気がしないでもないが、こちらとしても悪い話ではない。それに、銀月の誓盟が受けた書簡の配達もあるので都合がいい。
「ギルド長、こちらとしてもベルセルク国王よりエルドリア陛下宛の書簡を預かっております。その書簡の引き渡しも行いたいので都合がいいです」
「なに? 陛下への書簡を預かっているというのか?」
「はい、ベルセルク国王からの勅命依頼という形で依頼を受けております」
それならば直ぐにでも連絡を取らねばと、ギルド長はこの国の宰相閣下に向けた文書を書き始めた。そのためだろうか、俺たちはその日の午後には王宮へ赴く事になったのである。
「ギルド長もご一緒なのですか?」
「勿論だ。ギルド経由の依頼だったからな。ところで……その子は其方らの子か?」
いえ、赤龍の子です……とは言える訳ないじゃないか。
「ええ、まあ」
「陛下はその様な事情には寛大であるが、決して粗相のないようにな」
泣き出したり、駄々をこねたり、子どもにありがちな迷惑な行動をしないようにとの仰せだ。なるほど、子どもも一緒に謁見の間に通してくれるというのは確かに寛大な国王らしいが、この子は既に55歳だから大丈夫だ……と思う。
「勿論でございます」
謁見の間には、必ず手前に控室がある。うちの王宮も一緒だ。謁見の間の準備が整うまでは、暫くこの部屋で待機するのだ。
しかし、俺たちはさほど待たされることなく、謁見の間へと通された。
「アインスバッハ殿、準備が整いましたので謁見の間にお入りください。冒険者の方々はその後に続いて入るように」
ギルド長が最初に謁見の間へ入ると、俺たち冒険者もその後に続いた。よその国の謁見の間はこのような作りになっているのかと、壁や天井を見上げていると……。
「お前、まるでお上りさんじゃねえか」
「うるせえ、田舎もんのフリしてんだよ」
ヒソヒソ声でフェルがバカにするから、つい俺もムキになって反論してしまう。あながち間違っていないところがちょっと悔しい。
「おや? 国王陛下がもう玉座についてるじゃねえか」
「えっ、何で?」
この国では、謁見の間には国王が最後に入場してくると聞いていた。しかし、俺たちより早く国王が席についているのだ。
これは何かある! 俺が息を呑むと、周りの皆も表情を強張らせ、足取りを慎重にした。




