第204話 スピードアップ
ワイバーンに速度で後れを取ったため、今後のことも考えてサンドモービルを改良することにした。ワイバーンと遭遇するたびに、戦闘になるのは避けたいからだ。
「リアンたちが空を飛んでいる時には、ワイバーンとは遭遇しないのか?」
「相手が逃げるから遭遇せんのじゃ」
ワイバーンは龍の気配を感じ取ると、大きく迂回して自分たちの身の安全を守るのだという。今回は人化したフィンリアンが、龍だとは気付かずに近寄ってきたわけだ。
龍族が人化した場合のステータスの変化は、以前フィンリアンで確認している。体力と魔力が大幅に下がっているために、フィンリアンのことを龍だと気付けなかったのだろう。
「人化しているリアンでは、龍だと気付けなかったんだな」
「面目ないのじゃ」
「問題無いよ」と、再度リアンの頭を撫でる。
「人化した時と、龍化した時とのギャップがリアンの魅力なんだ」
セラさんが物欲しそうに俺を見るが、お腹空いたのかな?
「それでリアンは、最大ではどの位の速度で飛べるんだ?」
「この前アルを乗せて大陸に移動した時は、アルを落とさないように気を使っておったから、6割くらいのスピードだったのじゃ。本気を出せばもっと速いぞ?」
サンドモービルの飛行速度をアップさせるには、リアンの両翼に刻まれた古代魔法の魔法陣、いわゆる古代魔法プログラムを利用して組み入れればよいと考えている。
彼女の発言から計算すると、リアンの最大時速は250kmにもなる。このスピードが出せれば、ワイバーンなんてあっという間に引き離せるだろう。
俺は、MR内の古代魔法のプログラムを参照しながら、サンドモービルの制御プログラムを構築していく。
そこで、一つだけ奇妙な事に気が付いた。速度の上限パラメータが時速300kmまで設定可能なのだ。フィンリアンの最高速度が時速250kmに対して、あと50kmもの余裕がある。
「であれば……最初から、そのパラメータを最大値まで設定できるようにすればいいんじゃないか?」
「何をごにょごにょ言っておるのじゃ?」
プログラムを組んでいると、考えていることが思わず口に出てしまう。
「なあリアン、お前のお父さんはリアンよりもっと速く飛べたりしないか?」
「そうじゃな、もっと速いな」
やはり、俺の推測は正しかった。父親のヴァルゼグリオス殿は時速300kmほどで飛べるのだと思う。
「そうすると、ここをこう変えて……こうやれば……」
俺はサンドモービルの風魔法による推進プログラムを残したまま、新たに古代魔法の飛行プログラムを追加してゆく。何か問題があっても、すぐに従来の風魔法での推進方法に戻せるようにしているのだ。
「バグがあって、そのまま海に落ちるとか……洒落にならないからな」
「アルさん? いま聞き捨てならない言葉を口にしませんでしたか?」
これはいけない。プログラムに夢中になってしまって、また心の声が漏れていたようだ。
「いや、そうならないように魔法陣を構築しているんだよ」
「構築って……その指をうにょうにょと動かすのが構築なのですの?」
“うにょうにょ”と指を動かしているのはMRのキーボードを叩いているからだ。メグはMRの存在を知っているが、周りには銀月の誓盟の皆もいる。ここは誤魔化しておこう。
「俺は頭の中で魔法陣の構築をしているんだ。構築中に指を動かすと集中できるんだよ」
「そう、アルは頭がいい。他の人が出来ないことができる」
ミラ、ありがとう。ナイスフォローだ。
それから1時間ほど経っただろうか、古代浮遊魔法陣を応用したサンドモービル制御魔法陣がついに完成した。
「あとは、この制御パネルに組み入れれば……よし、これでこの乗り物のスピードアップが出来るようになったはずだ」
「ええーっ、もうですの?」
俺にとって魔法陣の構築は、MR上でプログラムを組む作業に等しい。
「お前、メグさんが言ってたように、本当に魔道具師だったんだな」
「魔術師だと思ってたのか?」
「誰にもできねえような魔法を使ってるじゃねえか」
(誰にもできない魔法? ああ、浮遊魔法のことか)
「俺の魔法は、エセ魔法だからな」
「でも、アルフレッド殿……」
「レイさん。ここでは、アルでお願いします」
真面目なレイサムさんは、恐れ多いと言って畏まった話し方にすぐ戻る。
「えっと、はい。アルさん……私が知っている魔道具師はちょっとした魔法陣でも数日はかかると言っていました」
「そこはほら、集中できると早いんですよ。何なら、今試してみますか?」
確かにそうだ。普通の魔道具師は、ルールに基づいて魔法陣を少しずつ構築していく。それは、かなりの時間を要する作業だ。
「では、わらわと競争しようではないか」
「おお、それは分かりやすいな」
古代魔法で動くサンドモービルは恐らく周囲の質量がゼロに近くなる。それだと加速度を感じないはずだ。
おまけに今は海の上。どのくらいのスピードが出ているか分かりにくい。そこに、フィンリアンからの有難い提案だ。
「リアン、ありがとう。ではいったん止めるから龍化してくれるか」
「分かったのじゃー」
俺は風魔法駆動のサンドモービルのスピードを止めて、駆動回路を古代魔法陣方式へと切り替えた。一瞬ガタっという振動こそあったものの、うまく切り換わったようだ。その間にフィンリアンも龍化を済ませている。
「じゃあ、用意は良いか? リアン、お前の合図でスタートしていいぞ。みんなは念のためだけど何かに捕まっていてくれ」
『分かったのじゃー、では行くのじゃ』
フィンリアンは、楽しそうに一気に加速した。
それがスタートの合図だったとは思わなかった分、俺の反応が少し遅れてしまった。
フィンリアンは先に行ってしまったが、こちらも負けじとスピードを上げる。やはり、加速度が感じられないからスピード感がない。
「えっと、動いているんですのよね?」
「動いているよ。だってリアンから離されなくなっただろう?」
メグだけではなく、同乗者のみんなも動いている感じがないといった顔をしている。俺が初めてリアンの背に乗った時もそうだった。
「じゃあ、もっとスピードを上げるぞ」
俺は握っているスロットルレバーを、更に前方に倒した。すると、遥か前方を飛んでいたフィンリアンの姿がこちらに近づいて来て、……そして一気に追い抜いた。
『うわー、速いのじゃー、追いつけないのじゃー』
時速250kmで全力飛行するフィンリアンを追い越したことになる。
『待ってくれなのじゃー、追いつけんのじゃー! ……アルー!』
フィンリアンの念話が涙声になってきた。可哀そうだから、スピードを緩めてあげよう。
『良かった、追いついたのじゃー。やっぱりアルは凄いのじゃー』
追いついたフィンリアンの体が、突然光り始めた。
「ちょっと、リアン……」
いきなり人化するのはやめてほしい。俺は見えているから大丈夫だが、ほかの人でそれをやると目を瞑ってて見えないからね。受け損ねて落としてしまうぞ。
「あら! ちゃんと服を着てるじゃないですか」
「おっ、着れるようになったんだな! よしよし」
フィンリアンは、今度こそきちんと服を着ている。抱っこしたまま、頭を撫でてやった。
こんな時はちゃんと褒めてやらなければならない。何をやるにしても、褒めることは上達のための基本なのだ。
「くうーっ」
またセラさんが下唇をかんでいるが、虫歯が痛いのだろうか?
「そんなわけで、定員オーバーでもリアンより速く飛べるようになった。これで最高速度が一気に3倍になったから、王都オルデミアまではあと1時間ほどで着くと思う」
「一気に3倍……」
「1時間……」
みんなは俺の宣言に呆気にとられてしまったが、速くなったのだから仕方ない。
王都オルデミアでは、何泊か宿に泊まって時間を潰そうかとも考えたが、知る人に見られたら何故こんなに早くに帰って来たのか疑問視されてしまう。
俺は時間つぶしを兼ねて、銀月の誓盟のメンバーをアルセリアに招待する事にした。もちろん――彼らがまだ知らない移動方法を使っての移動だ。




