第201話 活動拠点
「そして、これからは次の話になるのだが、国王からの依頼として君たちに指名依頼を出したいとの仰せなのだ」
報酬を受け取った後、バーデンベルク宰相から、冒険者ギルドを通じて国王の指名依頼を出したいとの打診があった。
「それは……依頼の内容にもよりますが」
「そうであろうな。まず、銀月の誓盟にはエルドリア国王への書簡を王都オルデミアまで届けてほしい。そして、月盟の絆には、ランヴェルド国王への書簡の配達を頼みたい。それで……貴殿らはアルセリア王国の出身だったであろう?」
俺たちの出身地は、冒険者ギルドで確認済なのだろう。
「はい、そうでございます」
「であれば、アルセリア国王宛ての書簡も頼みたい。なに、アルセリア王国は海を隔ててかなり遠い。ひと月ほどかかるのは承知の上だ」
なんと俺に対しての書簡もあるとのこと。
俺なら転移ドアを使って一日で往復できる。それにしても、先方が想定している依頼期間は長い。
「それならば、お受けできます」
「良かった。では、其方たちに任せるとしよう。この街の冒険者ギルドで、明日の朝には指名依頼を出すからそのつもりでお願いしたい」
「「承知致しました!」」
◇
「さてと……明日、正式に依頼を受けるまでは何もすることがないから、俺はこの町にあるアルセリア製品の直売店に行ってみようと思う。メグたちはどうする?」
この町には、ベンノ達が設置を完了している我が国の活動拠点がある。直売店と言えば聞こえはいいが、要するに情報収集拠点だ。
「わたくし、アルさんと一緒に行きたいですわ」
「あたしは……リアンと一緒」
ミラ……どこに行って、何をするのかまで言ってくれなきゃよく分からんじゃないか。
「ミラは、わらわと一緒に浮遊魔法の練習をするのじゃ」
「リアンと?」
「そうなのじゃ」
ミラは何にでも興味を持つから面白いけど、どうやって練習するんだろう? リアンは龍の姿でなければ、飛行魔法の手本を見せられないというのに。
「まさかそれって、リアンが龍になって一緒にやるって事?」
「うん」
嬉しそうに「うん」って言うけれど、どこで龍になるつもりなのだろうか?
「まてまて、街の中で龍化なんてしないよね?」
「まさかそんな事はせんのじゃ、わらわ達の里へ行くのじゃ」
「アル、ドア出して」
そうきたか、でもあれは何処もかしこも設置する事はできないぞ。
「そんなら、俺たちと一緒に直売店に行くか? そこからなら赤龍の里に転移する事ができるぞ」
「うん、行く」
「じゃあ、ちょっと待ってな。ベンノに連絡をとってみるから」
王都フォルステン――ベルセルク王国最大の都市。
この街にある我が国の活動拠点は、ベンノとその部下たちが商人に扮して店舗を構えている。現在はベンノもこの街に滞在しているはずだ。
「魔道宅配便と、書簡箱を取り出してと」
そう――国王になってからは、魔道宅配便で文書や手紙を送る場合、特殊な書簡箱に入れて文書を送るのが必須のルールとなっている。
そこへ、突然部屋の扉が開く。
「主様!」
「おわっ!」
ベンノが宿の部屋を訪ねてきた。
「驚かせて申し訳ないです」
「どうしてここが分かったの?」
絶妙に良いタイミングだが、宿泊所をどこにするかまでは連絡してはいなかったはずだ。
「それくらい、すぐ分かりますって」
「そうなのか?」
もしかして、冒険者ギルドと繋がりがあるのだろうか? 宿で普通に聞いても、教えてくれないはずだぞ?
「まあいいや、魔道宅配便を送る手間が省けた。これから拠点へ行けるかな?」
「宜しいんですか? 主様は見張られてますぜ?」
その言葉を聞いた瞬間、背中に冷たいものが走った。
「えっ? 何で? 誰に?」
まさか、フィンラーデン帝国からの間諜か?
携帯型の魔道レーダーを起動すると、向かいの建物の陰に“影”が映った。
窓越しにそっと目を向けると――あっ! 目が合った。次の瞬間、不審者の姿が消える。
……レーダーの反応は黄色。襲ってくる気配や殺意はない。監視だけか?
俺たちは気を取り直し、ベンノと一緒に、彼らが経営している商会へと向かうことにした。
一応の対策のため、メグとミラにはロッドを手に持ちローブの下に隠させている。フィンリアンは「わらわが燃やしてやるのじゃ」と拳を上げて言うが、君が街中で火を出したら建物まで燃えてしまうじゃないか。
やはり、俺たちの見張りは一人ではあるが、完全に気配を消し、付かず離れずの距離を保って尾行してくる。
普通の人間なら、まず気付けない。
「俺と同じ匂いがしますな。動きがとてもいい」
「尾行ときたか。それって、どこかの国の諜報員?」
ベンノが「俺と同じ匂い」と表現するって事は、諜報活動を専門に行っている部隊の人間という事だろう。
「まあ、お察しのとおりでしょうな」
すぐには襲ってこないにしても、路地裏などに入れば何が起こるか分からない。このまま、市街地を進むべきだ。
「なあベンノ、直売店の場所は路地裏だったりする?」
「まさか、人通りの多い商店街ですよ。路地裏なんかに店を構えたって、売れやしませんって」
確かに彼の言うとおりだが、俺は無意識に歩調が速くなる。メグやミラに危害が及ぶ可能性は少しでも排除しなければならないからな。いや、それよりもフィンリアンが街を燃やす可能性こそ、全力で排除しなければならない。
ベンノ達が立ち上げた商会の直売店までは歩いて10分ほど。中に入るとそこは普通のお店だった。いや、普通のお店に見えるように偽装されている拠点だった。
「一応、商船の切符を販売しておきましょうかね」
「そうだな、オルデミア発のベルモント行きで頼む」
店の棚には、アルセリア王国の特産品がところ狭しと並んでいる。俺の開発した製品も並んでいるのは嬉しい限りだ。
監視されていることもあって、外に気を配りながら商船の切符を購入する。これは尾行者に対するカモフラージュだ。
「ところで、ドアはどこに設置してるんだ?」
「2階でございます」
ベンノは俺たちを2階に連れて行った。
2階は事務所になっており、いちばん奥の商会長室に入ると“休憩室”と書かれたドアが中にある。なるほど、普通のドアを魔道ドアに入れ替えたのか。
「これならば賊に踏み込まれたとしても、普通のドアにしか見えないな」
「こじ開けられたとしても、中にはベッドが1つあるだけですわ」
「どの拠点もこんな感じか?」
「そうですね、まあ大体こんな感じですよ」
セキュリティ機能をどうするか迷った結果、ドアノブの上部には指紋認証を付けている。登録されていない者には、ドアが開かないようにしているのだ。早速、俺の権限でミラとフィンリアンを登録する。
「行ってくる」
「行ってくるのじゃー」
さすがにミラでも、古代魔法を1日でマスターするとは思えないけど、まさかな。
「夕方までには帰ってくるんだぞ」
「うん」
「分かったー」
まるで子供を遊びに出すときの親子の会話だ。あれで二人の合計年齢が70を超えていると、誰が信じるだろうか。
「さっきさ、『大体こんな感じ』って言ってたけど、大体ってどういう意味?」
「気づきましたか。ええ、勿論フィンラーデン帝国ですよ。あの国は一つの商会を立ち上げるだけでも大変なんでさあ」
「そうなのか……例えば?」
「他国の商人が店を開く場合は、必ず監視役が付くんです」
新たに店を開く場合は、どの国でも地元の領主に届けを出す必要がある。
しかし、帝国内では届けを出した途端に監視役の職員が入り、細かくチェックされるというのだ。
「当然、不審なドアがあれば『この中も見せろ』となる訳です」
「見せるわけにはいかないよね。どうしたの?」
「ええ、魔道ドアを内側に設置したんです」
「ん? ……ああ、そういうことか」
ドアを開けたまま、中の休憩室を見せた……と。
建物の大きさや外観、見取り図、装飾品、販売する商品まで、店舗が完成して商品を陳列する間に細かく調査される。その内容は、逐一上へ報告されるらしい。他国の動きを事細かくチェックする国。……やはり、侮れない国だ。
――その帝国が、我が国に狙いを定めようとしている。これは、何としても阻止せねばならないことだ。




