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第200話 ベルセルクの国王

 海賊たちを引き渡して2日後の朝、ベルセルク王宮からの使いが宿を訪れて来た。

 王宮で謁見の場を設けるので、本日午後にパーティメンバー全員で登殿するようにとの事だった。


「そう書いてありますわね」

「冒険者への報酬の受領であれば、パーティリーダーである俺たち二人が呼ばれるものだと、そう思っていたんだが……そうなると少し問題だな」

「そうですわね」


 皆が一様にフィンリアンの方を見る。


「な、な、なんじゃ?」


 フィンリアンは、一斉に自分へ向けられた視線に戸惑い、疑問を口にする。


「だって、そもそもパーティに子供がいるって不自然だろう?」

「それならば、いつものようにアル達の子供ってことにすればよかろう?」


 推測ではあるが、パーティ全員が呼ばれるということは、襲撃時の状況を詳しく聞かれるだろうし、捕らえた海賊たちからは、子どもからスタンが発動された――という事実が、既に伝わっている可能性だってある。


「英才教育を受けた子供とか?」

「お前、見た目がまだ5歳くらいなんだぞ」

「こんな小さいうちから、スタンの中級魔法が使える子なんて皆無ですわね」


 では、どうするかである。銀月の誓盟の皆には迷惑をかけるが、最悪はとんずらすることも選択肢の一つだ。


「わらわが龍族だという事を打ち明ければ済むことであろう?」

「まあ……今はそれが最善かな」


 俺たちまで身分を明かす必要はない。もしここで、俺がアルセリアから来た国王だと知れれば、大変なことになるのは明白だ。

 敵対もしていなければ友好国としての条約も交わしていないのだ。そんな国に、一国の主が冒険者に成りすまして入国しているなどあっては、それこそ国家間の大問題になりかねない。


「今回はそれでいこう。銀月の誓盟のメンバーともよく打合せして登殿することにする」


 銀月の誓盟のメンバーと打ち合わせをしたところ、全員がその方針に同意してくれた。


「ここの国王さんに、このブレスレットを着けさせるわけにはいかねえからな」


 若干勘違いをしている者もいるが、まあこいつも盟友の証を付けているから大丈夫か。



 王都フォルステンは交易の盛んな港町であり、王宮は入り江の奥の頑丈な城壁に守られた場所にあった。入り江を囲む石造りの城壁は、まるでサン・マロのような佇まいだ。


「頭を上げよ」


 午後、王宮へ赴いた俺たちは、フォルステン王宮に到着すると休む間もなく謁見の間へと通された。これだけでも、国王が今回の件をどれほど重く見ているかが分かる。


「先ずはこの国の王、ボレスワフ・スロヴィンスキとして其方らに礼を言いたい。この国と他国間で交易している商船への醜行を繰り返していた海賊どもをよくぞ捕えてくれた。最近は特に暴虐が過ぎておったのだ」


 頭を上げて確認したところ、ベルセルク国王の年齢は、四十をいくつか超えたくらいだろうか。

 中肉中背で一見温和な顔立ちだが目の奥の輝きは鋭く、四半世紀ほど前、フィンラーデンからの侵略の脅威に屈することなく、これまで強固に国を守ってきた威厳が滲み出ている。


「捕えてくれた6人の囚人からは、重要な証言を引き出すことができた。これまで生きた状態での捕獲が困難だったため事実が判明することがなかったが、ベルセルク王国として大きな交渉カードを手に入れる事ができた。そこで、其方たちには相応の褒美を取らせたい」


 どこの国に対するカードなのかは言ってくれなかったが、高い確率でフィンラーデン帝国だろう。海賊が出た海域というのはフィンラーデン帝国に一番近い場所なのだ。


「冒険者パーティ銀月の誓盟のリーダーであるレイサムよ、どの様なものが良いか其方らの希望があれば申してみよ」

「はっ、できますれば経済的な報酬を希望いたします」

「相分かった、そのように取り計らおう。報酬の額については追って申し伝えるから暫し待たれよ」

「有難き幸せにございます」


 この国の報酬の出し方は、どの様なジャンルを希望するのかを聞いてから決められる。

 例えば名誉や称号、特権や役職などを希望すれば報酬額に応じた称号や特権、役職が与えられる仕組みのようだ。

 経済的な報酬を希望すれば、予め決められた額の通貨が用意されている。謁見の場では俺たちの希望を聞いて、具体的な額は後で提示される決まりなのだろう。

 次は俺たちの番になるのだが、さて……何を希望しようか。


「月盟の絆のリーダーであるアルフレッドよ、どの様なものが良いか、其方らの希望はあるか?」

「いえ、特に希望はございません。しかし、もし可能であるならば、将来どうしても必要になった時に、一つだけ願いを聞き届けていただけませんでしょうか」


 国王陛下は怪訝な顔をしたまま黙ってしまった。怒ってしまったのだろうか? 銀月の誓盟の皆も驚いた顔を一斉にこちらへ向けている。


 静寂が、ひと際長く感じられる……。


「ぐふっ、ふはははは! 面白い! わしに借りを作らせるというのも面白いが、今後も更にわしとの関わりを持とうというその心意気が気に入った!」


 ふう、怒ってしまったかと思っていたが、思考を巡らせていただけのようだ。


「アルフレッドよ、そなたが申した「将来、一つだけ願いを聞き届ける」という件、聞き届けようぞ」

「有難き幸せ」


 さて、報酬の話は難なく終わったが、本題はこれからだろう。


「うむ。時にアルフレッドよ、其方のパーティには成人女性が二人いるうえ、海賊が襲ってくるかもしれぬという商船の護衛を引き受けたのは少々無謀ではなかったのかな? それもその様な小さき子女を連れて依頼をこなすなど」


 んん? カマをかけに来たのか、それとも何も知らないのか? よくわからないな。こちらの出方を探っているのか?

 いずれにしても、後からでも確実にバレてしまう事だから、先に話して口外しないと約束してもらった方がいいな。


「それに関しては、折り入ってお話しする事がございます。但し、この話はこの場だけの事として秘匿されますようにお約束いただきたく存じます」

「貴様! 口が過ぎるぞ!」


 国王の横で、近衛騎士が怒鳴った。


「よい」


 いち冒険者が、国王陛下に対する口の利き方ではないのは重々承知の上だ。不敬罪にも値すると剣に手をかけた騎士を手で抑え、スロヴィンスキ国王は「分かった」と頷いて次の言葉を促した。


「ありがとうございます。実は私たちの子供に見えるこの子は、私たちの子ではありません。さらに、この子はスタン魔法を使えます」

「ほう」


 陛下の口角がニヤリと上を向く。やはり事実が耳に入っている。


「実はこの子、エルドリア王国にある赤龍の里の出身なのです」

「なんと! 今、赤龍の里と申したか?」

「そうなのじゃ! わらわは赤龍の里の長、ヴァルゼグリオスの娘フィンリアンじゃ」


 俺が答える前に、フィンリアンが自分の正体を明かした。


「やはり、赤龍の……であれば、その姿は人化されておるのか?」

「そうなのじゃ」

「なんと、それならば魔法を放つことも造作ないことであろう……生きておる内に赤龍の人化状態を目にすることが叶うとは……」


 龍化して見せなくても俺たちの話を素直に受け入れてくれたのは有難いことだ。


「であればフィンリアン殿、貴女は今何歳になられるのだ?」

「えーっと、56歳?」

「おまえ、まだ55歳だろうが」

「そうだったかの? てへ」


 またそうやって子どもぶる。つい頭を撫でてしまったではないか。


「アルフレッドとやら、お主まさか……いや、今は聞くまい。そなたが言った『将来、一つだけ願いを聞き届ける』という希望についても、確かに心得た」



 こうしてベルセルク王国には、貸しを一つ作ることができた。これからの事を考えると、報酬を将来への投資に変え、貸しを作るのも有益だと思うのだ。俺たち月盟の絆のメンバーの身分についてもバレること無く、ホッとしながら謁見の会場を後にした。



 その後、謁見の間の準備室に移されて、重臣と思しき人物が入ってきた。


「私はこの国の宰相を務めているバーデンベルクと申す。この度は我らを苦しめていた海賊の討伐と、そのうち6人の捕縛。誠にご苦労であった。では早速であるが、銀月の誓盟への報酬額について申し伝える。エルドリアとの取り決めによって、今回の功績に対しては少額であるが760ガリルを用意させてもらっている。その代わり、陛下からの個人的な感謝の証として、王印付きの感謝状と王紋入りの短剣を贈りたいと言われている」

「身に余る光栄でございます」


 大陸においても、通貨はグランデールやアルセリアとほぼ同じ価値だ。760ガリルという事は日本円にすると凡そ760万円となる。そこそこ高額ではあるが、それよりも王紋入りの短剣の方が価値は高そうに感じる。


「月盟の絆については、報酬を一旦こちらに預けられた形となる。次の機会にこれをどう活かすかは其方らにかかっていると言えるだろう。なお、感謝状と短剣は彼らと同様に贈らせてもらう。この国の如何なる都市においてもこの短剣を見せれば、本国王家が保証する者としての待遇を約束されるであろう」


 王家の紋章というのは特別な存在である。王家紋章入りの短剣を授けられるという事は、貴族に準じた敬意と礼遇が期待できるというものだ。

 この短剣が、俺にとって意外なところで役に立つ未来があることは、この時まだ知る由もなかった。

200話まで物語を進めることができました。

ここまで読んでいただいた皆さま、誠にありがとうございます。

次話も読んでみようと思われましたら、ぜひ「ブックマーク」、「評価」をお願いいたします。

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