第196話 国王の依頼
盟友の証を身に着けた銀月の誓盟メンバーは、己の体の変化に気付くと一様に顔が綻んだ。
「確かに、痛みが少なくなるね」
「かすり傷ならすぐ治りそうだ」
「俺も、力が強くなった気がする」
「ああ、重騎士のトリスタンには相性がいいかもな」
「私の魔力の減りを抑えられるから嬉しいわ」
みなさん、喜んでくれているようで何よりだ。
「ところで、依頼どうしようか?」
「すっかり頭から飛んでしまってたな」
ゴブリンの討伐だったか?
「サクッと済ませて帰ろうぜ。色々と頭の中を整理しないといけないからよ」
「じゃあ、これで魔物を探そう」
俺は魔道バッグから携帯型魔道レーダーを取り出した。
「どうでも良くなってスルーしてたんだけどよ、あんたが持ってるそれって魔法のバッグじゃないか? さっきそれから杖を取り出すところ見ちゃってよ。ってか、あんただったら別に不思議じゃねえのか」
勝手に聞いて、勝手に納得するフェリックだった。
「てか、それは何なんだよ!」
取り出した携帯型魔道レーダーを操作して魔物の状況を見ていると、フェリックが横から割り込んできた。煩いから機能について簡単に教えてやった。
「なんだよそりゃ! そんなもんまで持ってるのかよ。斥候の俺が必要ねぇじゃねーか」
「落ち込むなって相棒、これ持ってるのは俺だけだから」
「相棒って言うな! あんたを相棒に持った覚えはねーよ!」
「ちょっと、フェル」
なんとも、揶揄い甲斐のある性格だ。
心配そうなセリスティアさんに、小さく手を挙げる。
「この辺りに集中していますね」
「ああ、巣があるのかもしれないね」
「これじゃあ、よく分からない」
携帯型は画面が小さくて、解像度が悪い。
「もう少し詳しく調べる必要があるな」
「俺の出番だな!」
ドローンを出そうかなと考えていたら、何だか嬉しそうに斥候のフェリックが走って行った。そして、5分ほどすると戻って来た。
「ありゃあ、けっこう大きな巣だな」
「穴を掘ってるのか?」
「いや、掘ってるんじゃなくて建ててんだ」
「じゃあ、けっこう頭のいい奴がいるって事だな」
通常のゴブリンは洞穴や穴の中で繁殖をするが、稀に木を伐採して掘っ建て小屋のようなものを作るのがいるらしい。
「だからCランクの依頼だったのよね」
「あれだったら、Dランクだと厳しいな」
ゴブリン討伐はグランデール王国でもEランクの討伐依頼だった。
冒険者が多いグランデール王国では、群れをつくる前に討伐してしまうから、大きな巣をつくるまでには至らない。しかし、この大陸では放置されてしまうこともあって、群れて巣をつくる場合があるのだという。
その場合、Dランクのパーティでも危険な仕事になるようだ。
「あの位の規模になると、Cランクでも難しいかもしれねえ」
「どうする?」
彼の話では、林の中に出来た広場にゴブリンの集落があって、ざっと見ただけでも30匹はいるらしい。
「そうだな……この位の規模だと中に人が囚われている可能性もある。仕方ないが、誘き出して地道に削るしかないだろう……」
レイサムさんはそう言っているが、俺は魔道レーダーで人の反応を確認する。
「魔道レーダーでは人の反応はありませんね。建物の中にはゴブリンしかいませんよ」
「そんな事まで分かるのか?」
「はい分かります。まずはエリアスタンで全体の動きを止めましょう。万一囚われている人がいても、傷付けることはありませんし」
エリアスタンは、前方に向かって扇状にスタンを放つ魔法だ。
「エリアスタン?」
「スタンの範囲版です」
「そんなもんが、あんのかよ?」
エリアスタンはエリアヒールを参考にして改造した俺の独自の魔法だ。但し、分散させた分だけ効果が弱くなる。
「群れ全体に向けるとスタンの持続時間が5分程度しかないし、ボスクラスの強い魔物が居ると、スタンが効かない場合があるので注意が必要です」
「5分もあれば殲滅は可能だ。俺とトリスで突入するからフェルとセラは弓と火魔法で撃ち漏らしたのを後方から頼む。それで、あんたたちは全員魔術師だよな?」
「いや、俺は剣士ですよ? ほら」
俺は剣を取り出して構えた。
「いやいや、左手にロッドを持ってるじゃねえか」
「二刀流?」
フェリックは首を傾げた。二刀流の意味が分からないようだ。
「ロッドは……てか、何で疑問形なんだよ、まあいいわ。範囲スタンとやらで固めてくれれば、後は俺たちだけでもなんとかするからよ」
「ちょっと待って、あなたそれ何?」
ミラが自分のバッグに隠し持っていた魔道ライフルを取り出した。
「あたしはこれで行く」
「それ、武器なのかよ?」
「うん、武器。強い」
完全にスタンディングサバゲースタイルだ。
「まあ、嬢ちゃんもSSランクの魔術師なんだろうから心配はしないが、あんま無理するなよ?」
「うん」
俺たちは、フェリックの案内で音をたてないように慎重に移動し、ゴブリンたちに見つからないギリギリの位置まで近づいた。
だが、この距離ではまだ俺のエリアスタンが届かない。
まずは俺が巣の近くまで一気に近づいて、エリアスタンをかけよう。どれくらいまで見つからずに近づけるかがこの作戦の肝となる。
「俺が近くまで一気に近づいてエリアスタンをかけます」
「大丈夫か?」
「任せてください」
見つからないように近付ければいいのだ。
「じゃあ皆さん、準備は良いですか?」
「「おう」」
「それでは行きます、浮遊」
俺は浮遊魔法をかけて、一気に上空に上がった。幸いに監視役のゴブリンは下しか見ておらず、俺に気付いていない。
そして、ゴブリンの小屋の近くに向かって静かに降り立った。そこで初めて、外にいたゴブリンたちが俺に気付き、驚きながらも金切り声を上げる。
「「ギッ! ギギギーー!」」
一瞬でゴブリンたちの顔が敵意に満ちたものへ変わり、俺に向かって走り出してくる。
「エリアスタン!」
周囲のゴブリンたちは、こん棒を振り上げたまま一斉に崩れた。
みんなの方を見てOKの合図を送るが、走ってくるのはミラだけだ。あ~あ、銀月さんたちが呆けまくっている。リアンが一人ずつ頭を叩いて回っているから、すぐにこちらに戻ってくるだろう。まあいいや、時間がないから先に行こう。
さすがに本能が戦闘中だという警鐘を鳴らしたのだろう。ミラが合流した時にはレイサムさんとトリスタンさんが走り出していた。
「見張りと外のゴブリンはミラに任せる」
「分かった」
建物内に突入すると、中には数匹のホブゴブリンがいた。案の定スタンが完全に効いていない。動きは緩慢であるが、俺を睨む目は迫力がある。俺が一瞬たじろぐのを見て、剣を持ったホブゴブリンが切り込んでくるが、なんとかそれをいなした。
すかされて体勢を崩したところを、背から剣で突く。
そうして、俺とレイサムさんの剣で、5匹のホブゴブリンを討ち取っていった。
「遅くなってすまん。これで、終わり……だな」
「そうですね、もう反応は、ありませんね」
外に出ると、ミラも、外のゴブリンを片付けたところだった。
「もの足りない」
ミラは欲求不満のようだが、後方の皆に終了の合図を送る。弓を構えたままのフェリックたちが周囲を警戒しながら歩いてきた。そしていきなり……犬のように吠えた。
「お前っ!! あれは何だよ! あんな魔術が出来るんだったら最初に言っとけよ! 驚くだろうがよ! しっかしあれは何なんだよ?!」
「古代魔法?」
「お前は何でいつも疑問形なんだよ!」
俺だって、魔術書の出所が良く分からないのだ。
「最近覚えたから?」
「あ~あ、何があっても驚かねえって決めてたのによう」
ごめんな、フェリック君。
「わたくしの出番が無かったですわ」
「私もよ?」
「俺もだよ!」
今回は後衛に仕事を回せなかった。申し訳ない。
「まあまあ、そうカリカリすんなって」
「おめえが悪いんだよ!」
怒られてしまった。そんな彼に、レイサムさんが釘をさす。
「おいおい、フェル……それ以上は心臓に悪いからやめてくれ」
「分かったよ。でもよお、あんたらなら商船の護衛でも十分務まるんじゃねえか?」
「商船の護衛か……そうよね。ミラさんも前衛顔負けで強いし、メグさんも無詠唱のスタンが使えるんなら、海賊相手でも心配ないわ。リアンちゃんもだけど……」
あの魔力攻撃をぶつけられたら、どんな船だってひとたまりもない。
「リアンが攻撃したら海賊船でも沈むぞ?」
「わらわはそんな事せんのじゃ。一度船っちゅうもんに乗ってみたいのじゃー」
俺も商船には乗ったことが無い。この際やってみるか。
「じゃあ、やってみようかな。――海の情勢も、この目で見ておきたいし」
そうして俺たち月盟の絆と銀月の誓盟のメンバーで、来週ベルセルク王国へ向けて出港する、商船の護衛依頼を受けることになった。もちろん引き受けたこの航路は、海賊に遭遇する確率が一番高いとされている航路である。




