第194話 パーティ名
「あの娘、お前の連れだろ? 俺たちも助けに行ってやるよ。だから早く……」
「大丈夫、心配ないよ。メグは強いから」
リーダーのレイサムさんが、メグを助けに行こうと椅子から立ち上がっているが、それを俺は手で抑えた。
何せメグは雷魔法の上級者だ。俺は絡んできた二人組のステータスは既に確認済みであり、図体のわりにレベルは低い。
「だから嫌だって言ってますでしょ? 汚い手を離しなさいな……スタン!」
「うがっ……」
メグの腕を掴もうとした方が、一瞬で白目になって倒れた。床に沈む前に、テーブルの角で顎を打ちつけていたが、あれは硬直していても痛そうだな。
「くそッ、魔術師かよ! このアマ!」
公共の場で剣を抜くことが禁止されているように、攻撃系の魔術を使うのもこの世界では規制されている。しかし、スタンだけは正当防衛の手段として認められているのが一般的だ。
「あのさあフェリック、この国ではスタンの魔術って正当防衛として通るよね?」
「ああ、それはもちろんだが、今のは詠唱しなかったんじゃないか?」
たしかに、スタンの魔術を簡易詠唱で発動できる人は少ない。
「俺の妻は優秀だからな」
「あたしも出来る」
「お? あんたも上級魔術師か?」
まずいな。ミラのやつ対抗心に火がついて、言わなくてもいいことを口走ってしまった。
「おいおい、あんたらCランクなのに上級の魔術師が二人もいんのかよ?」
「わらわもスタンくらいできるのじゃ」
「分かった分かった。そういうことか」
リアンが言ったことは嘘ではないのだが、さすがに子供にスタンの魔術は戯言だと映っただろう。ミラの発言もそれと同じ扱いに落ち着いたので一安心だ。
ミラはふくれっ面をしているが、「ここは大げさになるのを避けるぞ」と目で諭すと、さすがにミラも察したようだ。
さて、メグのほうへ行くか。仲間をスタンで倒された相方は、逆上して剣を抜いてしまっているのだ。
「メグ、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「しかし、上手に落としたねぇ」
スタンは、うまく掛ければ全身の筋肉を硬直させたまま動けなくしてしまうが、あまり強くしすぎると心臓まで硬直してしまい、下手をすると死んでしまう事もある。
「おまえ! この魔術師の連れか?!」
「ああ、そうだけど?」
「この落とし前、どうつけてくれるんだ? こんな場所で魔法攻撃は違反行為だぞ!」
「あれ? そうなのか?」
俺は知らないふりをしてフェリックの方を見る。
「いや、今の場合は正当防衛だ。男がか弱い女性の腕をつかんで離さない行為は明らかに防衛の対象となる」
俺はフェリックに目をやったのだが、寄ってきたリーダーのレイサムさんが助け舟を出してくれる。
「お前は、彼女が手を離してくれと言っても離さなかった。それに対してのスタンは間違いなく正当防衛だ。俺たち銀月の誓盟が保証する」
「なっ」
それ以降、最初に声を掛けた大柄な男は何も言えなくなった。どうやらこの銀月の誓盟というパーティは名の知れたパーティだったらしい。
なんとか動けるようになった相方を担いで「覚えてやがれ」というごく平凡な捨て台詞を吐き、二人連れは店から出て行った。
「しかし、無詠唱とはな」
その後は、食事をしながら話を進めた。
「あら、私たちの国では簡易詠唱と言ってますのよ」
「そうなのか? しかし一瞬で発動できるってことは、無詠唱だろ?」
魔法技名だけを口にして魔術を発現する場合、国によって言い方が違うらしい。
少なくとも俺はそれを簡易詠唱、一切何も口にしないで発動するのを無詠唱と思っていたが、この国では「スタン」という魔法技名を発しても無詠唱と認識されているらしい。
「何も言わず、無言で魔法を発動するのが無詠唱って言うんじゃないのか?」
「そんなことできる魔術師なんていねえよ」
「なるほど」
まったく何も口にせず、魔術の流れを制御する事は出来ないらしい。
しかし、俺専用の魔術ロッドを使用すれば、MRの思念変換機能で簡単な言葉は入力できる。この国で言うところの無詠唱が俺には可能なのだ。しかし、これを人前でやったら、大騒ぎになるだろう。
「あんただったら、海賊船に遭遇しても大丈夫だろうよ。普通の魔術師だったら詠唱している間に捕まっちまうけど、寄ってくる前にスタンが撃てるんだから」
「遠くから雷魔法でも撃てばいいんじゃないですかね?」
「うんうん」
寄ってくるも何も、遠くからサンダーボルトを撃てばいいんじゃないか? ミラも同意しているし。
「それだと、相手が全員死んでしまうだろうが。スタンで固まらせるには近距離でなければ効果がないからよ」
うーむ、殺してしまってはダメなようだ。
「まだ海賊を捕まえた事はないらしいがよ、あいつらには必ずバックがいると国王は踏んでるらしいぞ。可能ならば数人だけでも生け捕りにして、そいつらを吐かせたいらしい」
「では、私たちが商船の護衛を引き受けてはどうかしら? 私たちなら無詠唱でスタンが撃てますわよ」
今度はメグが俺たちの秘密を暴露した。もうどうなっても知らないから。
「わらわも出来るし、このアルも出来るのじゃ」
フェリックが目を細める。
「ハハハ、嬢ちゃんはまだ無理にしても、あんたは魔術師ですらないだろう」
「ハハ、そうだな。俺は魔術師じゃないな」
魔法が出来ないとは言ってない。
「アルはできる子。ファイアボールだってビュンビュンできる」
銀月の誓盟のメンバーたちは一様に怪訝そうな顔をしている。
「大丈夫。この人たちは信用できる」
「ミラの目で見てそうなのか?」
「うん」
”信用できる”というミラのお墨付きがあるのだから、場所を変えて一部だけ話をしてもいいかもしれない。
レイサムさんは何かを感じ取ったのか、真顔になっている。
「俺たちには秘密がある。この場で話するのは憚られるから、依頼を受けた現場ででも話そうと思う」
「そうなのか?」
フェリックの問いに、俺はゆっくり頷く。
「まあ……いいぞ。明日の依頼はまだ受けていないから、明日、一緒に依頼を受けてみるか?」
「わかった。それでいい」
「ああ、では明日の9時にギルドで」
今日のところは、説明を明日に持ち越して店を出た。
◇
翌朝、宿の1階で朝食を取ったあとに、俺たちは冒険者ギルドに向かった。昨日の夕方とは違って、街は漲っているように見える。
「やあ、おはよう!」
冒険者ギルドに着くと、銀月の誓盟の四人は既に到着済みだった。
「昨日はありがとな」
「ご馳走になったわね」
「いえ、いい話が聞けて良かったです」
彼らも先ほど着いたばかりで、掲示板の前で依頼を探しているようだった。
「何か、外で出来そうな依頼を受けてみます?」
「じゃあ、この魔物討伐依頼を共同で受けてみるか」
こういった冒険者どうしのやり取りは、俺にとって新鮮で嬉しいものだ。
パーティリーダーのレイサムさんは、おもむろに一つの依頼用紙を指して同意を求めた。
「はい、それでいいです」
2時間歩いて到着する場所らしいが、問題は無さそうなので同意した。
「共同で受けるってことになるが、そういえばあんたらのパーティ名、聞いてなかったな。今更だけどよ」
「ハハ、実は“月盟の絆”っていうんですよ」
「おお? 俺たちの“銀月の誓盟”に、何となく似てるじゃねえか」
不思議なことに、どちらも”月盟”の文字が入っている。
「そうですね、それで何となく親近感が湧いたっていうか、どちらも月に誓う盟友って感じの名前ですよね?」
「あら、そうなの~。じゃあ、私たちはみんな月に誓う仲間だね」
メグとフィンリアンは実は“月盟の絆”のメンバーではないが、大陸を旅する間に限った月盟の絆の臨時メンバーだ。
エミーとジムにも了承済みである。
「そうですね、これからもよろしくお願いします!」
パーティ名の縁もあって、銀月の誓盟とは一気に距離が縮まった気がした。
そして、違うパーティとの共同討伐は初めての経験だ。久しぶりの魔物討伐ということもあり、俺の心は躍っていた。




