第193話 情報収集
後ろの兄ちゃんは「あれだよ……」と、そこまで言って口を閉じてしまった。どうやら、得体の知れない人間に話してはならない事だったのかもしれない。
「警戒しなくても大丈夫だぞ。俺たちは、アルセリア王国から来た冒険者なんだ」
「おっ? アルセリアって言うと、最近出来たっていう遠い島国じゃねえか?」
「ああ、今日来たばっかりなんだ」
安心させるために冒険者カードも見せる。人がよさそうで、お節介焼きなこの兄ちゃんに、もう少し詳しい話を聞きたいからだ。
「俺たち今日この国に来たばかりでさあ、色々とこの国の事も聞きたいんだ。良かったらこの後、一緒に飯でも食わないか? お代はこっち持ちでいいからさ」
「おお、そりゃ有難いが、うちらもパーティだぜ?」
「勿論、構わないさ。できればお気に入りの店でも紹介してくれればありがたいんだが」
「おお、いいぞ。じゃあ俺らのパーティメンバーを呼んで来るわ」
見た感じ、今日の依頼を済ませて、明日受ける依頼を下見に来たように見える。おおかた、斥候役ってところだろうか。彼はギルドの中にある待機所に入っていく。
「ミラ、どう?」
「うん、大丈夫」
「何が大丈夫なんじゃ?」
フィンリアンはミラの特殊能力をまだ知らない。
「ミラさんは、その人が善人か悪人か、そして嘘をついていないかというのが分かるんですのよ?」
「ほんとか? そんなこと、どうやったら判るんじゃ?」
「何となく」
ミラの何となくは、自分でも理屈がはっきりしていない時に出る言葉だ。
「何となくのう……」
「待たせたな」
自分のパーティメンバーを探しに行った兄ちゃんが三人を連れて戻って来た。そう言えば、俺たちはまだお互いに名前を名乗っていないんじゃないか?
「いや、さほど待っていないよ」
「そうか、俺たちのパーティは、この四人だ。こっちはパーティリーダーのレイサム」
「レイサムだ、槍使いでBランクだ」
さっきの兄ちゃんより年上のようだ。真面目で堅実そうな人に見える。
「そしてこいつはトリスタン」
「重騎士のトリスタン。ランクはCだ」
彼は体が大きく、がっしりした体格だが、顔はほやっとして大人しそう。
「彼女はセリスティア」
「魔術師のセリスティアよ。ランクはB、よろしく。で、その子可愛いわね~、あなたのお子さんなの?」
魔術師の女性は俺たちより年上で、優しそうな目をしたお姉さんだ。ロングドレスに長い髪が似合っている。
両手を頬に当て、娘扱いを楽しむようにはにかんでいるこのお子さんは、実のところ、貴女よりだいぶ年上です。そう暴露したい衝動に駆られるが、そこは何とか我慢した。
「ええ、夫婦で冒険者やってるので一緒に連れてきてるんですよ」
「あら、大変ねぇ。仕事中は孤児院に預けるのかしら?」
「ええ、まあ……そうなりますかね」
この国でも冒険者夫婦の子供は孤児院に預けるのか。実際にフィンリアンを孤児院に預けたら、かなり怒りそうな気がする。
「では、こっちの紹介をするけど、俺は剣士でリーダーをしてるアルフレッド、こっちが俺の妻で魔術師のマーガレット、その右が友達で魔術師のミラベル。ランクは皆Cランク。こいつは俺たちの娘でフィンリアンだ。ところであんたの名前は聞いたかな?」
多分、彼だけまだ名乗っていない。
「おっと、俺としたことが自分の名前言うのを忘れてたぜ。俺は斥候で弓使いのフェリック、Cランクだ。俺たちも依頼を完了したところだからちょうどいい。いつもメシ食ってる場所に案内するよ」
いつも行っているという食堂は、冒険者ギルドからそう遠くはなかった。
「ここって味はまあまあだけどよ、冒険者向けに値段が安くて良く来る店だ。高けー所に連れて行ったんじゃ、おごってくれるって言うあんたらに悪いからな」
「何か、気を使わせたな」
奢ると言った俺たちに、余計な負担をかけさせないための配慮か。なかなかいい人間じゃないか。
「いいってことよ。で、さっきの話だけどよ……」
前のめりになって、耳を近づけろという素振りをみせる。
「ああ、特定の国の船だけが海賊に襲われてるって話?」
「この国の船は襲われるってところまでは行ってねえけどな、明らかに嫌がらせをしてくるらしいのよ。しかし、ベルセルクの船は襲われた事があるって話だぜ?」
「なるほど」
その商船に乗って、船員の安全と商品を守るっていうのが“商船の護衛”という依頼らしい。ちなみに任務の期間は、三日間の短期間から、往復一カ月間という長期間の依頼まで様々のようだ。
「それで、俺が言いかけた北の三国ってのがな……」
大陸は北の三国、南の三国と言われるように大きく南北に分けられている。
海賊に嫌がらせをされている北の三国というのは、エルドリア、ランヴェルド、ベルセルクの三つの王国だ。
「で、どうしてその三国だけが狙われるんだ?」
「ここだけの話だけどよ、その海賊ってのがフィンラーデン帝国の息がかかっている海賊って噂よ」
「その三つの国は、フィンラーデン帝国とは仲が悪いのか?」
「まあ、敵対してるわな」
だいたいの構図が見えて来た。要するに北の三国は共に友好国であって、フィンラーデン帝国とは敵対している。
対して南の三国であるが、そのうち二つの王国は国としての体を保ってはいるものの、フィンラーデン帝国の傘下に入っており、完全な自治権を持っているとは言い難い状態らしい。
「フィンラーデン帝国からすれば、北の三国も自分たちの手中に収めたいんだろうよ」
我がアルセリアへも使者を派遣したように、ここ北の三国にも使者を派遣したであろうことは容易に想像がつく。
恐らく北の三国は、出した要求を撥ね退けた国なのではないだろうか。我々に対して、その後は沈黙している状態も、今はこちらの三国に目を向けているからかもしれない。
「なるほどね、そのうちに強硬手段に出る可能性があるってことか」
「ああ、そのために俺たち冒険者に依頼が出ているって訳だ」
こちらの三国にこのまま目を向けさせておけば、我がアルセリア王国も暫くは安寧なのではないか。そういう考えが一瞬頭をよぎったが、それは良からぬ考えだ。
「なあ、その依頼って俺たちにもできるのかい?」
「まてまて、おめえたちはやめといたほうがいい。依頼の条件はパーティランクC以上となっているが、女が多いパーティは海賊に目を付けられやすいからな」
「私も海賊は苦手なのよ。だからうちのパーティでは受けないわ」
そう言って、セリスティアさんは眉を寄せる。
商船に女性が乗ることは稀だ。海賊に船を奪われれば、女性は攫われ、貴族であれば身代金の材料にもされる。何日も海で暮らす男たちの手に落ちた後のことなど、想像したくもない。
たしかにそのような商船に、俺の家族は乗せたくないものだ……などと考えていると、奥の方で花摘みに行っていたメグが屈強そうな男たち二人に、絡まれそうになっている。あ~あ。
「なあ、姉ちゃんや」
「あんた一人かい、俺たちがおごってやるから一緒に呑もうじゃないか」
「あら、嫌ですわね」
「……いやですわねってか? がはははは! お前、冒険者だろう? 何を、お高く留まってんだ?」
もう一人が横へ回り込み、メグの腕を掴もうと手を伸ばした。




