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第19話 ルナ迷宮1

 昇格試験には合格したものの、俺はなかなか迷宮に潜れなかった。


 Eランク冒険者になって初めて迷宮に潜る時、Cランク以上の冒険者が一緒に同行しなければならない決まりがギルドにある。

 勝手が分からずに、いきなり深くまで入ると命の危険がある。冒険者を守る為の策なのだそうだ。


 パーティに入って、メンバーの中に一人でもCランク以上の冒険者がいれば問題ないが、俺の場合は魔道具屋の奉公作業があるのでパーティに入るのは無理だ。だからこれまでは、一人で行動するしかなかった。


 俺は意を決して、受付のリリアンさんに相談することにした。


「リリアンさん、お久しぶりです。今度の陽の日に迷宮に潜りたいと思っているのですが、一緒に同行してくれるCランク以上の冒険者の方を探しています。誰か心当たりはありませんか?」


 陽の日というのは、地球でいう“日曜日”である。


「そうですねー、陽の日は冒険者の皆さんもお休みされている方が多いですからね。……すぐには見つからないかもしれませんねー。探してみますから数日待ってもらってもいいですか?」

「はい、お手数かけます。宜しくお願いします」


 休日なのに、一緒に仕事してくれる人いませんかって言っているようなものだ。見つからないのも当然かな。

 俺はギルド内の椅子に座り、途方に暮れていた。



「アールくんっ」


 いきなり後ろから抱きついてくる人がいる。そんな人はリアナさんしか思い当たらない。


「何をしょんぼりしてるのかなー?」

「しょんぼりしているように見えました?」

「後ろから見ててもすぐわかるよー、何があったのかなー?」


 俺はリアナさんに事情を説明した。


「……そっかそっかー、じゃあ私たち3人が一緒に行っちゃうよー」


 後ろのお二人も、ギルドでよく見かける人だけど、皆さん後衛じゃなかっただろうか?


「で、でも、皆さんは後衛なんでしょう? 前衛の方は必要無いんですか?」

「私はこれでもBランクだぞー。条件は満たしているから大丈夫なんだよー」


(なんか、顔近いんですけど)


「でも、なんか悪いですよ、陽の日は皆さんお休みされているんでしょうから」

「アル君のためなら、一肌でも二肌でも脱いじゃうよー?」


 リアナさん、その服を脱ぐリアクションやめてください。後ろの二人が呆れてますから。


「後ろのお二人も大丈夫なんですか?」

「私はノエルだよー、暇だから大丈夫」

「私ミレーヌよ、よろしく。あなた達は仲がいいのね」

「なんか、すみません。宜しくお願いします」


 こうして、リアナさんとそのお友達二人にも同行してもらい、ルナ迷宮への初探索が決定した。


     ◇


 次の休日、待望の迷宮探索の日がやってきた。


「アル君、早いねぇ。もしかしてだいぶ待ったー?」

「おはようございます。少し前に来たばかりです、今日は宜しくお願いします。」

「アル君、おはよー。今日はいい天気になって良かったねー」

「迷宮の中は、天気関係ないけどね」


 ノエルさんの言葉に、ミレーヌさんが軽く突っ込んでいる。

 冒険者ギルドの前で待ち合わせだったが、実はだいぶ待った。でも、女性には「少し前に来た」って言わなければならないのだ。


 ルナの町からルナ迷宮までは距離にして10kmほどある。歩いたら2時間ほどかかる距離だが、さすがに定期的に馬車が行き交っている。

 運賃は50リルだ。俺はお姉さんたちの分まで含め、2百リルを支払って馬車に乗った。


「私たちの分は出していいよ」

「俺がお願いしたんだからいいですって、それに懐は結構温かくなってきたし」


「アル君は、新作の魔道具で、結構儲かってるのよねぇー」


 魔道コンロと魔道冷蔵庫は量産ができるようになり、一般の人でも買えるようになってきた。

 1台当たりの単価は下がって発明権料も少なくなったが、その分台数が増えたのでトータルの収入は増えている。


「私も今度魔道冷蔵庫を買ったのよ! あれが有ると、狩りでもらった肉がだいぶ持つようになってさぁー、だいぶ助かってるわよ」

「私たちはまだ魔道コンロだけだよ。でも火力の調節がこまめに出来るから、最近は料理に失敗することが無くなったわ」


 ノエルさんとミレーヌさんは二人共同でアパートを借りているそうだ。


 リアナさんは火魔法と水魔法、それらを応用した光魔法、そして氷魔法が得意だった。あとの二人はどんな魔法が得意なんだろうか? まだ三人でワイワイ言ってるが、聞いてみたい。


「ノエルさんとミレーヌさんはどんな魔法が得意なんですか?」

「えーと、私は治癒魔法が得意かなー。水魔法と土魔法の応用だよ」


 治癒魔法は、水魔法と土魔法の両方ができてやっと使える応用魔法だ。土魔法は単独ではあまりパッとしない魔法だが、治癒魔法が使えるようになるための必須魔法だ。


「私の魔法は風魔法と防御力アップだよ」


 ミレーヌさんは防御力アップが使えるらしい。防御力アップは雷魔法と風魔法の応用系だが、何で彼女は雷魔法が得意じゃないんだろう?

 冒険者ギルドの資料室にある魔法指南書には、雷魔法が使えないと“防御力アップ”は出来ないと書いてあったはずなのに。


「ミレーヌさん、防御力アップが出来るということは、雷魔法もできるんですよねぇ?」

「そうなんだけどね…… へへ、あたしあの雷の音が嫌なんだよね。得意なのは何かって聞かれたから、雷は得意じゃないんだよ」

「なるほど、サンダーボルトって半端ない音ですもんね」


 そんなことを話していると、あっという間にルナ迷宮の入り口に着いた。


「着きましたね」

「さって、行きますか」

「アル君。先ずねぇ、入り口横の受付で、ギルドカードを通さなきゃだからね」


 リアナさんが丁寧に教えてくれる。ここでギルドカードを魔道具に通さないと入れないらしい。

 ギルドカードを取り出してプレートにかざすと、すんなり迷宮の中に入ることができた。


 中に入ると薄暗く、入り口付近で暫く目を慣らさないと奥に進めない。

 立ち止まって目を慣らしていると、天井と壁が薄っすらと光っているのが見えてくる。壁や天井に含まれている鉱石が光っているのだとミレーヌさんが教えてくれた。


 この迷宮は入り口から先は1階層になっていて、そこから下に行くにつれて2階層、3階層と階層が増えていく形だ。そして、10階層ごとにボス部屋と言われる空間があって、強いボスが待ち構えている。


 この迷宮のことをリアナさんが丁寧に説明してくれたが、実は冒険者ギルドの資料で勉強済みだ。

 自分が説明したことを全て知っている事が分かると、リアナさんが「もう、アル君って優等生なんだから」といって拗ねている。

 まあ、MR装置に記録させてもいるが、このくらいは覚えられる。


「いろいろ説明するのが、馬鹿らしくなってきたわ」


 ごめんなさい、リアナさん。でも、俺にも分からないことはある。


「さっき言われていた階層による魔物の強さですけど、ソロとパーティでは攻略にどの位の差が出るものですか?」


 ソロとパーティでの難易度の違いだ。


「えっとねぇ、職業や経験にもよるけれど、各階のボスがその魔物ランクと同じ冒険者ランクの人が5人ほど集まったパーティでやっと攻略できるとされているわ。ソロだったらその3分の1くらいが限度と考えた方がいいと思う」


 良く分からなかったが、10階層のボスが確かEランクだ。


「俺の場合はEランクだから、ソロの場合は3階層か4階層が限度だという事ですか?」

「そうなるわね、でもアル君の場合はその武器でしょ? だから私たちも興味があるわけよ。どのくらいの魔物に通用するのかなってね。でも無理はしないでよね」

「少々のケガだったら大丈夫よー、私に任せてね~」


(ノエルさん、おっとりしている感じだけど、なんだかサディスティックな匂いがする)


 暫く説明などを受けていたので、その間に完全に目が慣れた。あたりは満月の夜のように、良く見えるようになっていた。

 “ルナ迷宮”と名前が付いている所以だ。


「じゃあそろそろ先に進みましょうか。もう、目は慣れたよね?」

「はい、大丈夫です。進めます」


 俺はこの日、冒険者としても歩き出した。

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