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第18話 昇格試験

 朝の鍛錬と夕方のギルド長との訓練は、その後も休みなく続けた。


 Fランク冒険者として無難にこなせる薬草採取や環境美化。これらの初級依頼も、魔道具屋が休みの日に数をこなしてきた。

 そして、収穫の季節ももうすぐ終わろうとしていたころ、念願だった昇格試験の受験条件をクリアした。



 俺は今日、冒険者ギルドを訪れている。迷宮に入ることが許可される、Eランクにランクアップするための昇格試験を受けるためである。


「おはようございます、リリアンさん。今日は昇格試験を受けに来ました」

「おはようございます、アルフレッドさん。ギルド長から聞いていますよ。無事合格できればいいですね」


 受付嬢のリリアンさんに挨拶をする。

 依頼を完遂するための知識が豊富な、とても頼りがいのあるお姉さんだ。


「では、訓練場に行って準備をしておいてください。ギルド長には、連絡しておきますので」


 訓練場は、ギルド長からいつも指導を受けた場所だ。俺が指導を受けた夕方の時間は、多くの冒険者が鍛錬のために集まっていた。

 しかし、午前中はまだ人がいない。1周4百mほどの訓練場の周囲を、俺は一人で走り始めた。どんな運動でも、走り込みは基本だ。


     ◇


「ではこれより、アルフレッドのEクラス昇格体術試験を始める」


 ギルド長が宣言する。俺は今回、前衛職としての試験を受ける。

 試験は体術試験と学科試験があり、両方をクリアしなければ合格できない。まずは、体術試験からの実施だ。


「Eクラス昇格体術試験のクリア条件は、冒険者ランクDクラスの資格者からの模擬剣での攻撃を、1分間耐えきればクリアです。気を失ったり膝をついたりした時点で試験は中止となります」


 今回は特別にギルド長が、相手をしてくださるそうだ。


「俺はDクラスのレベルを体で覚えている。いつもの午後の訓練でやっているようにやれば、1分は十分耐えられるはずだ。頑張るように」

「はい」


 試験だと思えば緊張するが、いつもの訓練だと思えば……。


「では時間を測りますから、ちょっと待ってくださいね」


 リリアンさんが砂時計を準備する時間、緊張感が一気に最高に跳ね上がる。


「アルフレッドさん、準備はいいですか?」

「はい」


 俺は剣を構えた。


「では、開始してください」


 リリアンさんが砂時計をひっくり返す。


 次の瞬間だった! ヴァルターさんが一気に踏み込むと、あっという間に接近してきた!

 間に合わない! サイドステップで右に交わそうとしたが、それにも追随される!


「がっ!」


 上からの振りおろしを剣で止めようとしたが、力負けして脳天に衝撃が走る!


「くそっ」


 しまった! 足がよろめき、視界がブレる。

 しかし、何とか踏みとどまることに成功した。


 いきなりか、と思ったが、最初から気を抜いてしまった俺が悪い。

 だが、この頭の痛みで逆に冷静になれた。体も訓練の時と同じように動く。さあ、次は気を引き締めていくぞ。


 以降は、ヴァルターさんの剣筋をしっかり見て、いなす。集中して、いなす。全ての攻撃を逸らすことだけに集中した。

 攻撃はできずに守り一辺倒だが、息はもう絶え絶えになってきた。


「そこまです! 1分が経過しました。現時点でアルフレッドさんは立っておられますので、合格です! おめでとうございます!」

「最初でダメかと思ったがよく耐えた。アルフレッド、これで体術試験は合格だ」

「……ありがとうございます」


 俺はうなだれていた。

 1分間はそう長くはないと高をくくっていたが、実際にはかなり長く感じたのだ。


「少し休んでください。その間に学科試験の説明をしますがよろしいですか?」

「……はい、お願いします」


 うまく言葉が出ない程、息が上がっていた。


「学科試験は、体術試験の合格後から3週間以内に受けて合格しなければなりません。もし、それまでに学科試験に合格できなかったら、再度体術試験からの受験となります」


(なんだって?)


 この体術試験が無効になる話など、このタイミングではやめて欲しい。


「学科試験には魔物に関する知識、迷宮探索での規則、算術問題などが出題されます。そして学科試験はいつでも受けることが出来ます。勿論、今日でも可能ですよ。どうされますか?」

「はい、今日受けます」


 即答した。


 体術試験にせっかく耐えて合格したのだから、今日受けないと勿体ない。

 この日のために、時間があれば資料室にも行き、知識を身に付けてきたのだ。もちろんMR装置は装着しているが試験では使わないぞ。


「では、午後からの試験になります。昼食後に、2階の教室まで来てください」


     ◇


 そんなこんなで、俺は今、Eランク冒険者のギルドカードを手にしている。

 学科試験はもちろん問題無かった。


 昇格試験を受けた次の日、魔道具屋の仕事を終わった後にガレットさんの鍛冶屋を訪れた。

 ルナ迷宮に潜る準備をするためだ。


「剣は、両手剣がいいですね」


 ギルド長との訓練では、両手剣での練習を続けてきた。盾と片手剣というスタイルもあるけれど、魔物相手の場合は両手剣が一般的だ。

 中には剛腕が必要な大剣を持っている人もいるくらい、迷宮の魔物は結構固いのだという。


「だろうの。して、長さはどのくらいにしようかのう」


 柄は腰に下げるから、右手で簡単に抜き差しができる長さでなければならない。とすれば6テール(60cm)くらいか?


「6テール位がいいんじゃないかな?」

「いんや、アル坊には5テール位がちょうどいいサイズじゃろ。これからまだ体は大きくなるだろうが、その時には下取りで買い替えればよい」


 俺の事を、よく見てくれている。


「では、それでお願いします」


 それから、魔道ライフルを少し短めにしたものを持ち歩きたいと考えている。


「ガレットさん、これは魔道ライフルを少し短くしたものの設計図です。魔道ライフルは先日騎士団にて正式な武器として登録されたと聞きました。剣にも大小あるように、魔道ライフルにも大小あっていいんですよね?」

「そうだの、原理や基本構造が同じであれば、同類とみなされる。どれどれ……これだったら同類とみなされるの」


 良かった。形が変わればダメと言われないか、気になっていたのだ。


「これは俺専用の武器にしようと考えています。これの製作を、お願いしたいんですが」

「よし分かった、また1週間ほど時間をくれるかの」

「大丈夫です、宜しくお願いします」

「あと、これはわしからのEランク昇格祝いじゃ」


 お、腰に巻くタイプの小物入れか。基本魔石が増えるだけだから、大きなリュックとかは必要ない。魔石入れとして、丁度いい。


「ありがとうございます。このサイズだと俺にぴったりです」


 有難く頂戴した。



 そして1週間後、俺専用ライフルの筐体は出来上がった。体格に合わせてグリップとトリガーの位置を調整した。

 真っ直ぐに飛ばすための方法は、風魔法で実現している。なので、長さも少し短くできたのだ。


 あと、バックプレートからグリップまでの距離も少し短くしたので、全体的に小さい感じになった。


「ガレットさん、ありがとうございます。これって、だいぶ軽くなっていますよね」


 単に短くなったから軽くなった…‥のではない気がする。


「ああ、アル坊には出来るだけ軽い方がいいと思っての、材料を替えてみたのじゃ」


(アルミ合金かな?)


「鉄じゃないようですが、この材料って何ですか?」

「それはの、ミスリルじゃ」


(ミスリル! キター!)


「えっと、もしかして魔力を通すことが出来る材料ですか?」

「よく知っとるの、その通りじゃ。まあ何も細工せんかったら鉄より軽く、そして鉄より硬いというだけじゃがの、魔道回路で細工をする魔道具にはもってこいの材料になると思うがの」


(なるほど、魔道回路で細工か。いろいろ試し甲斐がある。魔剣……なんてのもありそうだ)


「ミスリルって高いんじゃないですか?」

「まあの、アル坊には儲けさせて貰っとるからの、これくらいは恩返しせんとのう」


 最近は魔道冷蔵庫の筐体を、多く受注しているそうだ。


「ありがとうございます。これからもまた、宜しくお願いします」

「はは、程々にの」


 それから更に1週間かけて、自分専用の魔道ライフルを完成させた。


 ミスリルで強度が確保できた分、肉厚を薄くできた。プラスチック製の水鉄砲とまでは言わないが、片手で持っても腕が疲れない。

 迷宮デビューが待ち遠しくて、その日はなかなか眠れなかった。

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