第15話 冒険者ギルド2
俺はこの町の冒険者ギルド長をやっている、ヴァルター・クルーゼンシュテルンだ。
昨日の午後に、昔一緒に冒険者をした事のある鍛冶屋のガレットが妙なものを持ち込んできた。
これが50マタールも先の標的を一発で正確に射貫く武器なのだという。まったくその様には見えないし、俺も初めて見る形状だ。
「そんでな、ヴァルター。この武器はわしが他から仕入れものでは無く、ある者が設計したものを、外側の加工部分だけをわしが作ったもんじゃ。中身の部分はその者が作っておるの」
「その者とは?」
「聞いて驚くな、この町でも売られている魔道コンロや魔道冷蔵庫の開発を行ったアルフレッドという坊主じゃ。魔道具屋のマルコさんところで奉公中での。まだ11歳なんじゃ」
なんと! 魔道コンロや魔道冷蔵庫の開発は、たった11歳の少年がやったのだそうだ。それも今度は収穫期の魔物をどうにかして欲しいと、魔術師のリアナに頼まれてこの武器を作ったのだという。
そして、そのような少年がこれらの開発に携わっていることが知れ渡れば、悪い奴らにも目を付けられかねないから、内密にして守ってくれないかということだ。
「話の内容は分かった。先ずはこの武器の能力を見てみたいし、明日マルコさんとそのアル……」
「アルフレッドじゃ」
「アルフレッド君を呼んでくれないか。ああ、リアナも来てくれるように手配しておく」
次の日の朝、彼らは揃ってギルド長室を訪れた。
「皆、よく来てくれた。冒険者ギルド長のヴァルター・クルーゼンシュテルンだ」
皆が一通りの挨拶をしたが、その坊主もしっかりと自己紹介をした。妙に大人びた挨拶をするもんだと思ったが、気を取り直してこの武器を作ろうと思った経緯を聞いてみた。昨日ガレットから大まかに聞いているが、まったく同じことを言うのか試したのだ。
「……でこれを作ったと」
まったくウソは言っていなかった。人の殺傷の危険性のある武器はA級武器に分類されるが、聞くところによると、殺傷能力を上手く無効化するような仕組みがあるのだという。
「実際にやってみましょうか?」
間違って、いや仕組みが完全ではない可能性もある。
「いかんいかん、人で試すのは容認出来ない!」
それは、容認できないことだ。
するとアルフレッド君は人形ならその仕組みの検証ができるのだという。私は早速その提案に乗って、この武器の能力を見せてもらう事にした。
訓練場では、ギルド職員に指示して弓や投擲で使う標的を、50マタールと100マタールの位置にそれぞれ10本ずつ立てた。100マタールの距離では投擲はおろか弓でも命中させるのは至難の業だ。50マタールの距離で的を1つか2つほど射貫くことが出来れば良い方だろう。
そう考えていたのは束の間だった。昨日、試し打ちを行ったというリアナが、すべての標的を1発で命中させてしまったのだ。それも標的を射抜いたのではなく、命中したところが完全に飛び散っている。俺はひどく驚いた。開いた口が塞がらない。
リアナのやつが「気っ持ちいいー」とか抜かしやがった。俺はその顔を見て、なぜか腹立たしさがこみ上げて正気に戻った。そして無理やり言葉にできたのがこれだ。
「これはなんと! かなりの正確性ではないか! それもすべての標的が破壊されている」
「それでは次に、人へ向けられた場合の安全機能について検証します」
そして彼は10マタール程度の場所に人形を置いてきた。そして、それをリアナに撃たせた途端、その武器からは異様な音が鳴り始めたのだ。
人に向けてその武器を使おうとした場合には、このような警告の音が出て使用者に知らせるのだという。なんと賢い仕組みだ。俺はこの手でそれを確かめたくなった。
「私がやってみてもいいかね」
私が言うと、リアナは快くその武器の使い方を教えてくれた。持ち方はこれまで扱ってきた武器とはたいそう異なるが、使い方はとても簡単で、目標に向かって照準を合わせ右手の人差し指でトリガーと呼ばれる引き金を引くだけだという。
(これを引けばいいのか)
最初のリアナの破壊した標的のうち、半分だけ残っている標的がいくつかあったのでそれを狙ってみると、引き金を引いた瞬間に光弾が発射されて標的が飛び散った。
(なるほど、これは確かに気持ちいい)
人形の方を狙うと引き金は途中で止まってしまい、警告音が出る。強く引いてみてもそれ以上は動かなかった。他の標的と人形、何度か繰り返して引き金を引いてみたが間違いなく標的と人形とを認識して判別ができている。仕組みは不明だが、これだと問題は無いだろう。
この武器は今後魔物退治の主役になる可能性が大いにある。名前は何かと聞いてみると。
「ま、魔道ライフル?」
何で疑問形なのだ。ひょっとして名前を決めていなかったのか? このような高度な能力が必要とする魔法陣を作成できているというのに、なぜか考え方や言動に歳相応の未熟さや危うさを感じる。
ガレットの言うとおりだ。私の目の届くところで見守ってやらなければ危ういぞ。
俺は、彼らにあと10個、この新しい武器を作るように依頼をして、彼に冒険者ギルドのギルドカードを作るように提案した。
すると、彼はとても嬉しそうにその提案を呑んだ。ギルドカードを手にしてからも嬉しさを堪えきれない様子でカードを見ている。
もしかすると、前から冒険者になりたいと思っていたのだろうか。




