第16話 魔物討伐1
冒険者ギルドのギルド長から依頼を受けた魔道ライフルを10挺作ったところで、俺はもう1挺だけ、同じ構造のものをガレットさんに作ってもらうよう依頼した。
以前、エアリースさんに来てもらったときに、雷魔法の魔法陣も見せてもらった。ファイアボールが出来るのだったら、サンダーボルトでも可能ではないかと考えたのだ。
結果は大正解。
トリガーを引けば、紫色が混じる白色の稲妻ビームがレーザー光線の様に一直線に飛んで行くライフルが誕生した。
今度は聞かれる前に、このライフルを“魔道ビームライフル”と名付けた。
雷だと近くに落ちた時に非常に大きな音が発生するのだが、このビームライフルはトリガーを引いた時に「ブーン」という独特の電気音がした直後にビームが発射される。
ビームが目標物に当たると、そこで初めて爆竹を鳴らしたかのような「バリバリ」という音が響くのだ。
試し撃ちは大きな岩山で行ったが、硬い岩の表面が砕け散るほど強力だった。
ビームと名を付けたのは、サンダーボルトの光が視認できる限界までも真っ直ぐに伸びたからだ。くねくねと曲がって走る稲妻とは違い、空気を裂くように一直線に放電しながら一瞬で標的に命中する。
これを『ビーム』と言わずして何と言おう。
新しい武器を作ったと受付のお姉さんに話をしたら、こっそりと付いてくるように言われた。入れられた部屋は、またギルド長室だ。
冒険者ギルド長室では、思ったとおりまたギルド長に呆れられた。
「ファイアボールの次はサンダーボルトだと?」
一通り説明をすると、ギルド長は性能評価が必要だと言って、地下の訓練場を貸し切り状態にしてくれた。ほかの冒険者を訓練場の緊急メンテナンスと称して、ロビーで一時待機させたのだ。
百m先に10個の標的を横に並べて置き、俺はその標的の左端に照準を合わせてトリガーを引いた。そしてすぐ銃口の向きを左から右になぞる。
動きに合わせて、銃口から発射されている紫白のビームが左から右へと移動する。ビームが当たった標的はそれぞれが爆竹のような音を発し、白煙を上げながら砕け散ってゆく。わずか1秒足らずの間に全ての標的が微塵と化していた。
眩い閃光が消えたあと、訓練場には焦げた匂いだけが残った。ヴァルターさんは、すぐには口を開かなかった。
◇
ギルド長室に戻ったヴァルターさんは、ソファーに深く腰を下ろして、こめかみを押さえている。
「……」
そして、やがて諦めたかのような表情で顔を上げた。
「アルフレッド君、この武器は暫く封印しよう」
ギルド長からの提案だ。
「あまりにも攻撃力が高いからですか?」
「それもある。それ以上の理由として、この武器が公に出れば、私は君を守れないかもしれない」
(俺の事を思っての事?)
「俺とガレットはね、若いころに冒険者を一緒にやっていた仲なんだよ。そしてこの前ガレットが新しい武器を持って来て言うんだ。これを開発したのはまだ11歳の子供だから、厄介毎に巻き込まれないよう見守ってやれと」
(そうだったのか、ガレットさんが。もしかすると、ギルド長が冒険者ギルドカードを作ってくれたのも……)
「この武器はとても攻撃力が高い。このような武器が世の中に知れ渡れば、必ずこれを欲しがる者が現れる。そして、欲しがる人間が善人とは限らない」
これの開発者が俺だと知れれば、あの手この手で俺を取り込むことを考えるだろう。攫われて監禁ってことも考えられるのだとギルド長は言う。
今の俺は腕力も弱い。何かあった場合には抵抗が出来ないだろう。俺は黙って頷く。
「だから、この武器は改めてこの武器が必要になった時に封印を解く。それまでこのヴァルター・クルーゼンシュテルンに預からせてはもらえまいか」
「分かりました、宜しくお願いします。その代わりと言っては何ですが、魔物討伐の現場で魔道ライフルの使われ方を見学させてもらえないでしょうか」
交換条件を出す。魔道ライフルがどのように使われるのかを一度見てみたいのだ。
「ハハ、君はけっこう狡猾なところもあるのだな」
魔物討伐の第一線での見学は、俺にはまだできないらしい。そこで、建物の屋根の上での見学ならば何とか許可できるということだった。
魔物の狩りはDランク以上の依頼であってFランク冒険者にはできない決まりだ。
Eランク冒険者に格上げとなった時に初めて、ひとランク上であるDランクまでの依頼の受託が可能になるのだ。
「冒険者のランクを上げるには、先ずは体力の向上が必要だ」
ギルド長の提案で、FランクからEランクへの昇格を目指し、俺は毎朝のジョギングとギルド訓練場での鍛錬を決意した。ギルド長自ら、俺の鍛錬に付き合ってくれるという。
冒険者ギルドの訓練場で鍛錬を開始して2日目、ギルド長から今夜の魔物討伐の話があった。
調査を依頼していた冒険者の報告で、森から農村部への魔物の移動が始まっているとのこと。おそらく今夜あたりに農村部への襲来があるのではないかという話だった。
◇◆◇
俺は、午前中の鍛錬を終えるとマルコさんの魔道具店に戻り、魔物討伐に見学者としていくことを話して理解を求めた。
「君はまだ11歳で体力も無いから、決して危険なことはしないように。解ったね」
「はい」
「お兄ちゃん、魔物の討伐に行くの? 危険じゃないの?」
「大丈夫だよ、俺はまだFランクだから魔物の前には立てないんだ。それで、農家の小屋の屋根に登らせてもらって、そこから見学をするだけなんだよ」
「ああ、それとアル君、君のその話は実は冒険者ギルドのギルド長からも事前に聞いていてね、君の護衛と言うか、何かあった場合の事を考えて、鍛冶屋のガレットさんが君に同行することになっているよ」
ガレットさんが一緒に来てくれるようだ。
鍛冶屋のガレットさんは、俺に合う大きさの皮の防具を持って来てくれた。これを身に着けないと行けないらしい。
「坊主くらいの年齢でも、森の入り口辺りで植物採集をすることはあるのよ。だから、うちの店もこの様な小さめの皮の防具も扱っておるんじゃ」
俺のお蔭で最近収入がすこぶる増えているため、これらの防具は黙って貰っとけとのこと。俺は素直にその言葉に甘えることにした。
冒険者ギルドに行くと、既に討伐隊が編成されていた。四つの冒険者パーティからなる討伐隊で、総勢18人体制だ。 リアナさんやエアリースさんもこの討伐隊に参加している。
リアナさんが俺を見つけたようで、手を振りながらこっちに歩いてくる。
「アルくーん。君、冒険者になったんだー」
俺の防具姿を見て、冒険者になったと判断したんだろう。
「まだ駆け出しのFランクですけどね」
「へぇー、じゃあ、お姉さんがこれから色々と教えてあ・げ・る」
(いきなり抱きつこうとしたから、慌てて逃げた。こんなところで何やってんすか、あなたは)
「リアナが言ってた天才魔道具師っていうのは、この子かい? そういえば……孤児院で見たことがあるような……」
孤児院に剣術の指導に来てくれていたレオンさんだ。
「そうよー、今日貸し出される魔道ライフルっていう武器は、この子が開発した武器なのよー。アル君っていって将来の優良物件なんだからー」
「魔道ライフルっていう武器が、一つのパーティに2本ずつ貸し出されるっていう話は聞いている。何でも若い魔道具師が開発したって聞いたが、こんな子供が作っていたのかよ」
(レオンさんに気を取られている隙に、しっかりとリアナさんに腕を組まれていた。ライフルは2本ではなく、2挺なんだけどね。もう、2本でもいいか)
「皆、集まっているようだな……」
ギルド長が2階から降りてくると、討伐隊を前に今日の予定を話し始める。
魔物に襲われる恐れのある農村部は、ここから4kmほど南に行ったところで、歩いて向かうらしい。
俺は、初めての魔物討伐前の雰囲気が、とても新鮮に感じられていた。




