第13話 魔道武器の開発
マルコさんの魔道具屋に戻ると、早速魔法陣の解析を開始した。やはり風魔法は圧力の制御だ。空気中の圧力をうまく制御して風を起こしている。
雷魔法の方はと言うと、空気中のイオンを分離させて電界を発生させている。更に、リースさんの場合はこれにも風魔法の圧力変化を使って直線的な真空状態を作っているのだ。
この真空状態の発生が、目標にピンポイントで落雷させるコツの様だ。
(だからリースさんのサンダーボルトの魔法陣は黄緑だったんだ)
俺は設計図を描いて、金属加工が得意なガレットさんを訪ねた。
「この時期に多くなってくる魔物の襲来に対応するため、こんな魔道具が出来ないかって相談されまして、その形状を考えました」
地球の知識の中からライフルの形状を想像し、鉄の筒で砲身を作る。それに木製のグリップや引き金、セイフティーレバーなどの安全機構も組み入れた。
それから、魔力の供給源は魔石だが、魔力が消耗しても簡単に取替ができるようにマガジンラック式としている。
照準器は、比較的近距離で狙えるのでフロントサイトとリアサイトの照準器方式とする。風魔法で飛んでゆく方向が一直線になるから、細かい位置調整などは必要がない。
「しっかし、珍しい形状だの。どうやって持つのかのぅ」
ガレットさんは初めて見る形状だから、持ち方が分からないらしい。当然だ。
「こうやって両手で持って、この部分を指で引くとこの先からファイアボールが高速で飛び出すんですよ」
「ほぉー、ファイアボールの大きさはどんくらいかね?」
「そうですね、10ミタール位まで小さくしようと思っています」
10ミタールは約10mmだ。ライフルとしては大きいが、弾はファイアボールなのだ。
「そんなもんでか! それで本当に魔物が倒せるのかのぅ」
ガレットさんは髭を触りだした。考え事をする時の彼の癖だ。
「圧縮したものを発射速度を上げて撃ち出し、威力を出すつもりです。多分大丈夫だと思います」
発射した後は、風魔法で弾道に沿って真空に近い状態を作り出そうと思っている。
そうする事によって空気との摩擦が起こらず、直線的に、それもスピードが落ちないファイアボールが飛んでいくと考えている。リースさんの風魔法の応用だ。
「試作品が出来るまで1週間ぐらい待ってもらえんかのぅ」
「ありがとうございます。俺の方も組み込む魔道回路や魔法陣の作成にそのくらいかかりますから」
外身が出来るまでに、何とか中身のプログラムを完成させなければならない。
俺は自分の部屋にこもって、魔道回路の設計、制御魔法陣の設計に集中した。これらの設計作業は、脳内に電子回路やプログラマーの知識があるから出来ることだ。
この武器は後衛職用という事もあって、弾道上近くに人がいる場合はトリガーを引いても魔法が発動しないようにプログラムを組んだ。
ここは重要な部分で画像認識や判断条件の設定ではかなり苦労したところだが、絶対に必要な仕様だと思うのだ。
また、魔物は夜に現れることが多いとのことで、銃口から標的に向けて光魔法のライトを照射する。スポットライトだ。これで夜でも大丈夫だろう。
◇◆◇
そしてそれから10日後、ついにライフルは完成した。
「ねえ、アル君。これってどうやって持つの?」
(これを初めて見て持ち方が分かる人は、地球人かもしれないな)
「えっとですね、右手でここを握って左手でここを持ちます。この部分を肩に付けてこことここを……」
日本での月見里拓郎の知識だ。実際に触ったことはないようだが、サバイバルゲームの知識があるので使い方はだいたい分かる。
「立った状態で歩きながら構えることもできますが、左腕が疲れてくるので魔物との距離がある場合は左膝を立てて座り、こうやって肘を当てれば狙いが安定するはずです」
「あー、成程ね。 じゃあ早速ファイアボールを打ち出してもいい?」
「では、50マタールほど先のところに標的を作っていますからあれを狙ってください。あ、ちょっと待ってくださいね、安全装置を解除しますから」
持ち運んでいる時に、誤ってトリガーを引かないようにと安全装置をかけていた。
「左膝を立てて、肘を置いて、こうだったわね」
「そして、先ず標的を狙ってから右手の人差し指をこの中に入れます。そしてレバーを引けば発射します」
「うん、分かった」
リアナさんがトリガーを引いた瞬間、防音装置を付けた拳銃のような音がして高速の光弾が銃口から放たれた。
弾丸を撃ちだすライフルと違って火薬を使ってないから、ちょっと気の抜けた音である。
しかし、鈍い音とは裏腹に圧縮ファイアボールは瞬間的に標的まで一直線に飛んで行く。そして50m先の標的を一瞬で吹き飛ばした。
「すっごーい! あんな遠くにあるのに一回で当たったよーっ!」
こちらの世界の人は、気の抜けた音でも気にならないようだ。すごく燥いでいる。
そして、5つ用意していた標的を、いとも簡単に撃ち落としてしまっていた。
「アル君よ、あっという間に標的に届いていたが、どのくらいのスピードで発射しているのかのぅ」
ガレットさんは射出スピードが気になっているようだ。
「1秒当たり約500マタールです」
「ほう、一番速いスピードでファイアボールを出せるやつが、1秒で10マタールほどの距離進むくらいじゃったかの、その50倍か! なるほどの。その分、破壊力が上がっておるのかのぅ」
ガレットさんはあごひげを頻りに触っている。
「このような武器を作ったのは、わしゃ初めてじゃが何という武器かのぅ」
「名前はまだ付いていません。この国で初めての武器という事になりますかね」
「やっぱりのう、アル君よ。この国ではな、新しい武器を作った場合には冒険者ギルドか、領主様かのどちらかに届け出なければなんのじゃよ」
(そういう決まり事があるのか。よかった、ガレットさんに立会いしてもらって)
「わしの方から、冒険者ギルドに届けを出しておこう、アル君はまだ子供じゃからの」
「えー? 明日から使えると思ってたのにー!」
リアナさんは不満そうだけど、どの世界でも決まり事は守らないと後々大変だ。
魔道ライフルの試射をした次の日、冒険者ギルドからお呼びがかかった。マルコさんも一緒にとの事である。
「マルコさん、すみません」
「ハッハッハー、大体の事はガレットさんから聞いているよ、今度はたいそうな魔道武器を作ったんだってぇ?」
「極小のファイアボールを高速で打ち出す魔道武器なんですけど、昨日試し打ちをしたらガレットさんが、『これは新しい武器だから届け出ないといけない』と言われて、現物は冒険者ギルドに持ち込んであるんです」
「なるほど、それは賢明だね。この国では武器の生産許可は国がやっているんだよ。新しい武器はA級とB級に分けられてて、その管理は王宮騎士団と冒険者ギルドがやっているんだ」
人への危険性の大小によって、分類されているのだとか。
「A級だと製造するのに国王の承認を得ないといけなくなるから、今日はそのための事情聴取だと思う」
しかし、ヤバいものを作ったねぇとマルコさんは苦笑している。
確かに、こんな武器を誰もが簡単に量産できる事になっていたら、紛争やクーデターなどが頻発して、国がいくつあっても足りないだろう。




