第12話 新しい魔道具の製作3
魔道冷蔵庫を作るにあたって、実は一番苦労したポイントは保温材の確保だった。
地球には発泡ウレタンや発泡スチロールという断熱効果に優れた材料がある。しかし、こちらではそんな物は存在しない。
どうやって性能のいい断熱材を確保するかが課題だったのだ。
藁や綿花などで試してみたが、どうもロスが大きい。微妙に対流が起こるようで魔石の魔力消耗が激しいのだ。
「地球の断熱材は中に気泡がある構造で、それぞれの気泡が独立しているから熱の移動が少ないのか? 気泡、泡、泡、バブル! そうか! バブルスライム!」
俺はそれを道具屋で見つけることができた。バブルスライムを乾かした欠片が、断熱効果として最高の性能だった。
しかしながら、冷蔵庫の大きさは日本のものと同じにはできなかった。大きくすると魔石の使用量が意外に大きかったのだ。
「マルコさん、これが完成品の“魔道冷蔵庫”です。この中に物を入れると、夏でも冬の様に冷たくなります」
「これが! 凄いぞアル君! またしても大発明だよ!」
試作1号機を見て、マルコさんもとても嬉しそうだ。リサちゃんの誕生日にも何とか間に合った。
これからは冷たいプリンを食べさせてあげられるかな。おっと、リアナさんにも連絡しておかなければ。
◇
夏の暑い日に、プリンを作って冷やしてみた。
娘さんたち二人もプリン作りを手伝ってくれる。もう何度も作っているから慣れたものだ。果物屋から買ってきたアプルを絞ったジュースも一緒に冷蔵庫に入れる。
「リサちゃん、誕生日おめでとう、今日で7歳になったんだよね」
「そうだよ、今日から7歳! あと8年したらお兄ちゃんのお嫁さんになれるんだよ?」
まてまて、それはお父さんの前で言ったらダメな台詞でしょう。案の定マルコさんを見たら微妙な顔をしているし。エレノアさんは口に手を当ててニコニコしている。
魔道冷蔵庫の蓋を開けて、中の冷えたプリンとジュースを取り出してみんなに配る。冷え冷えのココットを額に当てると、冷たくて気持ちいい!
「「冷たーい!」」
(いやいや、君たちは真似しなくてもいいからね)
「じゃあみんなで食べてみましょうか」
俺が言うと、エレノアさんがスプーンを配ってくれる。
ああ、このひんやりとした舌ざわり、口に入れた感覚。初めての体験なのに、初めてではない感覚がある。
一匙目を口に入れたらみんな目を丸くし、そして目を瞑る。その後はみんな無言で食べていた。この姉妹がこんなに静かなのは初めてだ。
「ハァ~ 美味しかったな~」
みんなうっとりとした表情をしている。満足してくれただろうか……? あいや、姉妹たちはまだ食べ足りなさそうだ。
「君たち、プリンは1日1個にしておいた方がいいよ、太るからね」
冷蔵庫に手を伸ばしかけていたエレノアさんが、そのままの形で固まっていた。
こうして、新魔道具――第二段の開発も上手くいった。
発明権料の配分は魔道コンロと同様にしたが、これがまた人気の魔道具となって王都でバカ売れすることになる。
◇◆◇
魔道冷蔵庫の開発が成功すると、足早に成長の季節が通り過ぎた。次の季節は収穫の季節と言われる実りの秋だ。
しかし、収穫を喜んでばかりはいられない。
この前、魔術師のリアナさんから相談があったのだ。
「農作物を荒らしに来る魔物は、強い魔物ってわけじゃないんだけどさぁー、数が多くって大変なのよ。この前なんか私の魔力が尽きかけちゃって、死ぬかもしれないって思ったわよ」
そこで、魔道具を応用した武器が作れないかと相談があったのだ。この前、自分の魔法から魔道具が出来たことを聞いて、きっと武器もできるんじゃないかってそう思ったらしい。
俺は、多分できると思っている。リアナさんも心配だし……。
「リアナさんにはケガもして欲しくないです。それで、どんな武器がいいと思いますか?」
「うふっ。そうねぇ、私たちが使う武器だから、後方支援用の武器。そんでもって、沢山の攻撃ができて、それも対象をピンポイントで狙えるような武器がいいかな」
(ふむふむ、地球の知識に照らし合わせると、ライフルの様な物か、マシンガン? アサルトライフルってのもありだよね。火魔法と風魔法のライブラリがあれば作れるかも)
「リアナさん、それ出来るかも知れませんよ」
「ほんと―? やっぱりアル君ってすごい―!」
「そのためには、風魔法の使い手が必要です、遠くに攻撃を飛ばすのには風魔法の応用は必要でしょうから」
狙った標的に向かって、小型のファイアボールをたくさん飛ばせるようなものを考えた。狙ったとおりに真っ直ぐに速く飛ばすには、風魔法が必須だと思うのだ。
「風魔法だったら、リースね。彼女は風魔法も得意だけど雷魔法も得意でね、狙ったところにピンポイントでサンダーボルトを落とせるのよ」
それから3日後、依頼を受けていて帰れなかったというエアリースさんが訪ねてきた。リアナさんも一緒だ。
「あらー、可愛い依頼主さんだこと」
特許権料が結構入ってきているので、今回は俺が冒険者ギルドに“指名依頼”という形で依頼を出した。リアナさんが仲介してくれたのだ。
「初めましてエアリースさん」
「あら、リースでいいわよ、みんなそう呼んでいるの」
「分かりました、リースさん。魔法を使うとなれば広い場所が必要でしょうから、前回リアナさんと一緒に行った町の外の広場でいいですか?」
「風魔法は広い方がいいわね」
風魔法も、前と同じように周囲に何もない広場が必要なので、俺たちは町の外に出る。
「アル君、準備はいい?」
「はい、いつでもいいですよ」
「周囲に集いし風の精霊よ 我に集いて敵を吹き飛ばせ! ウインドブラスト!」
リースさんの手の前方に、青色の魔法陣が出現した。
リアナさんの魔法の時と同じように、リースさんの魔法陣も左右2か所からの映像を記録してゆく。
風魔法の他に、リースさんは得意なサンダーボルトなどの雷魔法の魔法陣も収集させてくれた。
「天空の力集いて、我が目標に向かって落ちよ! サンダーボルト!」
今度は黄緑色の魔法陣が出現した。雷魔法の魔法陣は普通は黄色だが、リースさんの場合黄緑らしい。不思議だ。
得意なサンダーボルトに関しては短縮詠唱でも十分威力が強いのだが、詠唱を唱えた方が完全な魔法陣が出来上がるのだそうだ。
サンダーボルトの詠唱の時、リアナさんが俺の腕を掴んで体を寄せてくる。
「リースのサンダーボルトって、結構大きな音がするから怖いんだよねー」
「あら……リアナちゃんってば、こんなかわいい子を独り占めなんて、ダメなんだぞーーっ」
(いやいや、リアナさん? 胸が当たっていますよねっ。柔らかいのが腕に)
結局、リースさんが発現できる全ての風魔法と雷魔法の魔法陣を、数種類記録して持ち帰ることに成功した。
途中で俺のほうも「うちに遊びに来ない?」と持ち帰られそうになったが、出来るだけ早く武器の設計に入りたいからと、やんわり断った。




