剣の名は。
凛は竹刀入れに入っていたもう一本の竹刀を手に取る。それは、姉である蘭が公式戦で愛用していた竹刀だった。その剣を手に凛は何を思うのか…。
練習試合前の昼休憩。凛はふと自分の竹刀入れを手に取る。剣道部に入ってから、同じ竹刀を使っていたため、違う竹刀を使うかと考えていたのである。手に取るとそれは普通のとは異なる褐色の竹刀が現れた。
「凛ちゃんの竹刀、すごい茶色だよ!」
「燻竹の竹刀。竹を燻製している竹刀だね」
桃香は凛の竹刀の感想を述べた後、高杉隼人が解説をする。
「君のお姉さん、蘭ちゃんが公式戦で使っていた竹刀。その名は、花鳥風月」
隼人はそう言いながら、竹刀に刻まれている銘を示す。
花鳥風月。自然の美しい景色。自然と一体になり、強くて美しい剣道をする。まさに姉の通りだと凛は感じた。
「竹刀にも名前があるんですね。私のは…堅忍不抜?」
「そう、この竹刀の銘はどんなに辛く苦しくても、意志を貫き通す。辛い稽古でも剣道を通して、成長してほしいという意味が込められているね」
隼人がいつになく真面目な解説を桃香にした。
「なんか企んでるんじゃないでしょうね」
「まさか、剣道に対してはいつも僕は真面目だぜ!」
「どうだかね」
普段の行いがよくない隼人を妹である風見がつついたが今回はその気がないらしい。
「三者三葉。道具はみんな同じように見えるけど、みんな違う。人間と同じように…。」
隼人はそうまとめる。
そして凛は竹刀「花鳥風月」を構えた。
「あ…、普段使ってるものより、ずっと重い」
「そうだな、この竹刀は古刀型。重心が剣先にあるから重くなってるな」
薫は凛にそう解説し、次に自分の竹刀を渡す。
「これは軽いですね。いつも使ってるものよりずっと」
「銘は流星。胴張り型で古刀型とは逆に手元に重心を置いているから軽くなる。風見も同じ竹刀を使っている」
「私は~、桃香ちゃんと同じ竹刀。普及型でバランスいいよ~」
涼子も薫に続き自分の竹刀を見せる
「音穏ちゃんのはどんな竹刀?」
『竹刀の銘は隠者。実践型の竹刀だよ』
凛は音穏に質問し、竹刀を渡された。
「重っ!柄も太っ!」
自分のよりも柄が太く、重い竹刀を音穏が使っていいたことに凛は驚く。
『それでも男ですか!?軟弱者!』
音穏がその書き込みを掲げた途端、凛が音穏の頭部つかみ上げた。どうやら怒らせてしまったようだ。
「俺のこの手が光って唸る!お前を倒せと輝き叫ぶ!」
「痛い痛い痛いぃ!国際条約第1条、頭部を破壊されたものは…、痛たたたぁっ目がぁ目がぁ!」
凛は叫びながら音穏にアイアンクローをかけ、いつも無口な彼女が声を上げていた。
「まだだ、たかがメインカメラがやられただけだ!シャーイニング!フィン――」
凛が音穏にとどめを刺そうとしたところで涼子から止めが入った。
「は~い、そこまで」
「まったく、稽古中調子が悪かった奴がよくそこまでテンション上がるなぁ」
「すみません、ちょっとした出来心です」
薫は凛に呆れたように言った。その足元には音穏が転がっていたが、しばらくして立ち上がった。
『すみませんでした』
音穏がスケッチブックに書き込み凛に掲げた。凛は音穏を許した。そもそもが冗談であったということも凛は理解している。
そして凛は自分の竹刀を見つめた。
(おねーちゃんの竹刀…これで私は…)
強くなる。己を強くする。過去を払拭して次に進む。
昼休憩が終わり、練習試合が始まろうとしていた。




