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パタフルの剣~魔王を倒し、世界を救え~  作者: 高いところに在る橋
第二部 旅立ち
15/21

14.「人生一の大博打」

パタフル村東門の門番は恐れていた。先ほどから合わせて7名に及ぶ黒い兵隊が、村に入っていっている。彼らは口々にピッポ・ポップスの名を呼び、彼を探しているようだった。いったい何者なんだ?やがて二人が戻ってきて、門の前で勝手に見張りを始めた。門を通る人を引き留めては、簡単な尋問をしている。門番は立ち退きを求めたかったが、無理だった。あんな恐ろしい武器を腰から下げている奴らに、いったいどうやって反抗できるというのだ?俺には小屋の中で座って、黒い兵たちの様子を観察するぐらいしかできなかった。

 間もなく、小型の馬車がやってきた。俺は御者の名を知っている……商人のポット―・ローペンだ。

 

「止まれ、商人」


 門の前まで来たローペンに、黒い兵の一人が言った。ローペンは無言で従い、手綱を掴んで馬を止めさせた。


「我々はお前たちに危害を及ぼしに来たわけではない。我々の疑問はただ一つ。ピッポ・ポップスを知らないか?」


 兵の質問に対し、ローペンは無言で首を振った。


「そうか。では行ってよい……」


 兵のうち一人がそう言いかけたが、もう一人がそれを遮って言った。


「待て。その前に、その荷物の中を見させてもらおう」


 さえぎられた方も頷くと、二人の兵は馬車に近づき、その荷台の中を見ようとした。


「やめてください……これから重要な取引がございまして」


 ローペンがすかさず言った。が、兵は無視してふたを開けた。門番からはよく見えなかったが、中には商品のカーペットや布が入っているらしい。


「ご覧の通りですよ、兵隊殿。それ以上何もありはしません」


 ローペンが言った。兵のうち一人は頷き、見張り体制に戻った。しかし兵の一人はそれも無視して、中をあさり始めた。一枚、二枚、三枚……と、乱暴に布を馬車の外に放り出す。兵は荷物の三分の一を外に出してしまった。ローペンは困り果てた様子で御者席を降り、必死で布を拾っている。兵はまだ布を外に放り出している。しかしここでもう一人の兵が叫んだ。


「226番!いつまで漁っているつもりだ!そこにはどうでもよい布しかないだろう!次の者の監査に入るぞ!」


 226番と呼ばれた黒い兵はいらだしげにうなったが、荷物漁りをやめて後ろにいた別の者の監査に入った。門番はしばらくその様子を見ていた。門の外を再び見たときには、ポット―と馬車の姿はもう見えなかった。


                          ー-----

 

「危なかった……」

 

  ピッポ・ポップスが荷台から顔を出して言った。御者席で馬を操るポット―は、振り返って言った。


「心臓が止まるかと思いましたよ。あと3枚めくられたら、ばれていましたね」


 ポット―と荷台の中のピッポは、何とかゼズノゴール兵にばれ見つからずにパタフル村を出ることに成功し、終焉の大森林への道を急いでいた。


「では聞かせてもらえませんか?あなたが『ゼズノゴール』に追われる理由を」


 ピッポは説明するか迷った。打ち明けることにはリスクも伴う。しかし正直に言ってしまえば、ピッポはこのどこまで続くかわからぬ旅に、ひと時とはいえ同伴者ができたことを喜んでいた。それにポット―は頭もよい。全て話せば、きっと良い相談役になってくれる。

 ピッポは決意し、ゼズノゴール大戦の話やエレンという男のこと、そして自分がペレンという英雄の子孫であり、それ故に魔王に追われていること、そしてこれまでの旅路に起こった出来事をかいつまんで話した。

 話を聞き終えたポット―は深く考え込み、言った。


「にわかには信じがたい話ですね……世界がそのような危機に陥っているなんて。ゼズノゴールのことは僕にはよくわかりませんが、さっきのような兵がもし沢山押し寄せてきたら、パタフルは一たまりもないでしょうね」


 ピッポはゲルシュニッヅに見せられたあの地獄を、思い出した。ポット―の言う通り、もしゼズノゴール軍が攻めてきたら、パタフルは一瞬で焼き尽くされるだろう。


「だからこそ、ぼくは一刻も早くパタフルを離れなくちゃいけないんだ。皆に危害を及ぼさないために」


「それはわかったのですが、なぜアルデマンド・ベッポン街の『鍋の上の牛』を目標にしているのですか」


「それは……僕を魔王の子から助けてくれた鴉が言ったんだ、君は信じてくれないかもしれないけれど。一羽の鴉が僕を救い、『鍋の上の牛』で再会しようとだけ言って、飛んで行ってしまったんだ」


 この話を聞いたポット―は眉をひそめ、言った。


「もの言う鴉……聞いたことがあります。大昔、北の果ての山脈には、人間にも生き物にもなれる種族が生きていたと。ただの伝説ですが……僕の母親が語ってくれた物語には、鼠になれるグレイ、鴉になれるクライニッド、蝙蝠になれるケルシュが登場していました」


 ピッポも眉をひそめた。クライニッド?どこかで聞いたことのあるような……だがピッポは思いだせなかった。


「しかしエレンというのはひどい人ですね。一緒に旅に出ようとか言いながら、勝手に出発するとは」


「しょうがないさ。魔王の子たちが全員パタフルまで追ってくるなんて、彼にとっても予想外のことだったんだろうし。きっと彼は彼で、今頃必死で逃げているに違いない」


「とにかく、その鴉……伝説と関係があるのかはわかりませんが……の言ったように、『鍋の上の牛』を目指すしかなさそうですね……ここから終焉の大森林までは馬車でおよそ1.5日です。道を急ぎましょう」


 ポット―は地図を参照しながら言った。ピッポは頷き、再び荷台に隠れた。


 こうしてポット―と荷台の中のピッポは、アルデマンドへの果てしない道を進んだ。ゼズノゴール兵が追ってくる気配は、最初の一日間はなかった。一日目の夜は森の中で馬車をとめ、なるべく人目につかないようにして野宿を行った。日の出とともに、二人は先へと進んだ。

 そして再び日が陰り始めたころ、二人ははるか先に、終焉の大森林を見た。インクをぶちまけたように黒い木々が、地平線上に延々と広がっている。大きいものも小さいものもあるようだったが、共通しているのはそれが果てしなくどす黒いということだった。それは視界の両端まで続き、終わりがなかった。ここから森の入り口まではおよそ2キロと言ったところだろう。ポット―は森に入る前の最後の休憩を取ろうと、馬車を止めた。

 ポット―は荷台から水筒を取り出し、水分補給をとった。荷台には旅の食糧として水筒が数本、パタフルやニンジンといった野菜類がたくさん積んである。パタフル村を出てしばらくした後、ポット―が道沿いの小さな八百屋で調達したものだ。順調にいけば、ベッポン街までたどり着くのに十分な量だと、ポット―は確信していた。ポット―とピッポは馬車を降り、一面に広がる草原に座りこんだ。近くに人家はなく、あたりは静寂そのものだ。


「いよいよ森に入るわけだけど、本当に君はついてきてくれるのかい?パタフルのどんなところよりも危険な場所だというのに」


 紅茶をすすりながら、ピッポが言った。ポット―は笑って言った。


「危険は百も承知ですよ。ただ事実として、アルデマンドからこっちまで、あの森を通ってくる商人は少なからずいるわけですから、かならず道はあるはずです。それになんていうんでしょうかね……僕の心が、ベッポン街に行けと言っているような気がするんです。理解はしてくれないかもですが。僕の心の奥の何かが、あの大森林の向こうを欲しているような、そんな感じです」


 ポット―の言いたいことが、ピッポにはわかる気がした。ピッポは立ち上がると言った。


「僕も似たような思いなんだ。君と違って、僕には選択肢がないとはいえね。なぜだか、さざ波が丘の上でゲルシュニッヅの誘いに乗ろうとしたあの瞬間、僕もそう感じたんだ。なんだか心が滾るような……それは僕の中に、ペレンの血が流れているからなのだろうか」


「そうかもしれませんね」

 

 ポット―はそう言って、微笑んだ。しかし彼は次の瞬間、目をこらして西の方角……パタフル村の方……を見た。ピッポも振り返り、西の方から何かが近づいてくるのに気づいた。黒い影が四つ……それもかなり速い速度で。


「奴らが、追ってきた」


 ピッポが呟くように言った。次の瞬間、恐ろしい叫び声が聞こえてきた。心を引き裂く鋭い音だ。

 二人は馬車に飛び乗った。ポット―が鞭をふるい、馬はいななきをあげ、そして馬車は動き出した。


 

 

 226番は間違っていなかった、そう認めざるを得なかった。バルガロス殿配下の精鋭兵をもってしても、パタフル村でピッポ・ポップスを発見することはできなかった。したがって、226番の主張する通り、ポップスはあの馬車に乗っていたのだろう。115番はこう判断し、部下を連れて馬車を追った。そして今、ついにターゲットを捉えたというわけだ。馬車は全速力で離れようとしているが、無理がある。ゼズノゴールの黒い馬は、魔王の子が操るラプターほどではないにしても、とにかく速い。距離はあっという間に縮まってゆく。

 バルガロス殿の命令では、ポップスは殺すなとのことであった……だが勿論、協力者のあの商人は話が別だ。115番はほくそ笑み、先を急いだ。




 ポット―は再び鞭をふるった。だが意味はなく、後ろの黒い兵との距離は狭まるばかりだ。人生でこれほどまでの焦りと、恐怖に襲われる日が来るなんて思ってもみなかった。ここで死ぬのだろうか。そんな考えがポット―の頭をよぎった。いくらなんでも早すぎるよな。


「ポット―!もっと速く!速く!」


 後ろで怒鳴っているのは、この災難をもたらした張本人、ピッポ・ポップスである。僕は彼を恨んでもいいのかもしれない。彼を助けていなければ、僕は今頃パタフル村でコーヒーでも飲んでいただろう。だが彼のいう「ゼズノゴール」の脅威がおとぎ話ではないことは理解した。自分も「ゼズノゴール」をめぐるいざこざの、一つの歯車になってしまったというわけだ。だけど、この歯車はもう壊れてしまいそうだ。

 黒い兵たちは、もうその顔が見えるぐらいまで接近している。ピッポは馬車の荷物をまさぐり、カーペットや布を思いきり投げた。だが兵は馬上で剣を抜き、その全てを切り捨てた。散り散りになった布の端くれが、風にのって飛んでいった。ピッポは絶望した。あと数秒後には、黒い兵達は馬車に足をかけ、ピッポを捕らえるだろう……そしてポットーは、僕に協力したばかりに殺されてしまうだろう。だがそのとき、ポットーが叫んだ。

 

「前に!橋があります!」


 ピッポは前を見た。ポットーの駆る馬車は、たしかに一つの吊り橋にさしかかろうとしていた。だがその吊り橋は目に見えて古くボロボロでおまけに穴だらけで、その下には深い谷が口を開け、ピッポ達を待ち受けていた。


「この馬車では無理だ!」


 ピッポは叫んだ。だがポットーは返事をしなかった。ポットーは唾をのみこみ、馬に鞭を振るった。馬が速度を上げ、馬車は吊り橋に向かって全力疾走してゆく。ピッポは自殺行為だ、と叫びそうになった。だが考えてみれば、この逃避行自体がはじめから自殺行為なのだった。


「人生一の大博打になりそうです!」


 ポットーがそう言った瞬間、馬車は橋の上を走り始めた。バキバキと音を立て、車輪が橋の上を廻る。強い振動がピッポを襲い、ピッポは振り落とされないよう、馬車にしがみついた。後ろでは、橋桁が壊れる音がひっきりなしに聞こえてくる。ピッポはやがて、馬車が橋の上を進んでいるのか、それとも空中を進んでいるのかわからなくなってきた。上も下もわからず、とにかくひどく揺れている。一体どうなったのだろうか……

 馬が固い地面を踏んだ音がした。続いて強い振動がピッポを襲い、そして次の瞬間には、馬車は完全に停止した。ピッポは顔を上げ、後ろを振り返った。馬車は、吊り橋を渡り終えていた。一方で、吊り橋は通過した物の重みに耐えきれず、バラバラの残骸となって深い谷の下へと崩れ落ちていく。そして追手は、谷の反対側に並んでいた。では彼らは、この谷を越えることができなかったのだ。黒い兵達は剣を振り回した。だが彼らにはどうすることもできない。ゼズノゴール兵だろうが、深い谷を越えることはできないのだ。

 ピッポは喜びの叫び声を上げた。そしてこの大博打の勝者であるポットーの方を向いた。ポットーは馬の首を撫でていたが、振り替えると言った。


「土壇場での機転。商人にはこれが一番必要なんです」


 ピッポは声を上げて笑った。ポットーも笑いだし、二人はしばらくの間、喜びを共有した。

 そして二人は再び、前を向いた。前方には、どこまでも続く黒い木々……終焉の大森林が、鋭い枝を向けて二人を待ち受けているのだった。

 

 

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