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死ねない私は、竜王様に囚われる  作者: ゆきだるま


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作戦会議

次の日、秋叡王の執務室には、重たい沈黙が流れていた。


机の上には地図や書物が広げられ、その中央には、雪那が描いた簡単な春の国の王城の見取り図が置かれている。


暁杜が指先で図面をなぞりながら、ゆっくり口を開いた。


「まず、状況を改めて整理しましょうか」


その言葉に、雪那は顔を上げる。


暁杜はいつもの飄々とした調子ではなく、珍しく真面目な顔をしていた。


「当初の目的は王石の破壊でした。ですが、銀狼の王が生存している可能性が出てきました」


「うむ」


「王石の持ち主本人が生きているのであれば、まず優先すべきは救出です」


暁杜はそう言って、雪那が書いた図面に指を滑らせる。


「どうしても不可能な場合のみ、王石の破壊へ切り替える方針でいきましょう」


雪那は小さく息を吐き、頷いた。その方針に異論はない。むしろ、それ以外の選択肢は考えられなかった。


「雪那さん。銀狼の王がいるとしたら、どこだと思いますか?」


雪那は机へ歩み寄り、紙を引き寄せる。


春の国で過ごした長い年月。自由はなかった。けれど、王城にいた時間は、無駄ではなかった。


「恐らくですが……銀狼の王を隠しておくなら、ここだと思います」


指先が城の中心を示し、そのまま王城の地下に当たる部分に指を下ろす。


「春の国の中心部です。城の地下に、王と限られた神官しか立ち入ることが出来ない、神域のような場所があると聞いたことがあります」


秋叡王と暁杜が、雪那が指し示した場所を確認し、顔を見合わせ頷く。


「……神域か」


「王石を管理する場所としては十分あり得ますね。では、そこを目指しましょう」


「問題はどう突入するかじゃのう」


脳裏に浮かぶのは、良い思い出など一つもない春の国の王城。雪那にとっては、監獄と同じだった場所。


「羽雲に乗って、私一人で行きます」


揺るがぬ覚悟を決めた雪那の声に、秋叡王と暁杜は一瞬動きを止める。


雪那は続けた。


「……春の国の人たちは、私だけなら油断すると思います」


春の国が冬竜王へ差し出した治癒術師。彼らは雪那を恐れてはいない。利用する対象としか思っていない。


「私なら、中へ入れます」


「では、私たちは城の外で待機しますか」


暁杜が即答した。その言葉に、雪那は思わず目を見開いた。理解が、追いつかなかった。


「……春の国まで、来てくださるんですか?」


ぽつりと漏れた声に、秋叡王が心外だと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。


「当たり前じゃろう」


「春の国の、あなたに対する執着は異常ですよ」


暁杜は呆れたような顔で、やれやれと肩をすくめる。


「連れ戻すために冬の国へ侵入。夏の国では王妃様へ危害を加え、挙句の果てには呪詛です」


「そこまで執着するのならば、何故簡単に冬坊に渡したかの方が疑問じゃ。いくらでも誤魔化せたと思うがの」


「捕まったら何をされるか分かったものじゃありませんよ」


雪那は言葉を失った。これは、春の国の人間の不始末だ。


妖魔たちを、冬竜王を、見ず知らずの秋叡王と暁杜を、これ以上巻き込むわけにはいかないと思っていた。


だから当然、一人で行くつもりだった。


なのに。


「だから、合図を決めるんじゃ。手足の動きが封じられても、話せなくなっても、お前さんが儂らに助けを求められるようにの」


秋叡王の語り口は優しいが、その内容は極めて現実的だった。


のこのこと一人で春の国へ行って、無事でいられるとは、雪那も思っていない。むしろ、雪那は誰よりも春の国の残忍さを知っている。


「あとは、万が一、合図を出せなかった場合の期限も決めておくべきじゃな」


「えぇ。必要ですね」


「銀狼の王の状況が分からん以上、あまり時間を設けすぎても何があるか分からん」


秋叡王は杖の上で重ねた手を擦り合わせながら考える。


「二日か、三日か――」


その時だった。


「二日だ」


低い声が部屋へ落ちた。全員が振り向く。それまで一言も口を挟まなかった冬竜王だった。


窓際に立ったまま、深紅の瞳だけが静かに揺れる。


「それを過ぎたら、俺が行く」


誰も反論しなかった。出来なかった。その声には絶対に譲らないという意思が滲んでいた。


雪那も何も言えなかった。冬竜王は雪那から視線を外さないまま、静かに名を呼ぶ。


「羽雲」


部屋の隅で伏せていた白い獣が顔を上げ、青い瞳が本当の主人を見た。


「雪那を守れ」


それだけだった。羽雲は音も立てず起き上がり、雪那の隣へ歩み寄り、その肩へ鼻先を寄せた。


「……いいじゃろう。では二日だ」


「さて、それでは出立まで色々と準備しなくてはいけませんね」


雪那は、窓際に立つ冬竜王を見つめ返す。雪那の意思を、誰より尊重しようとしてくれる冬竜王が、ずっと何か言いたそうにしていたことも、気付いていた。


本当は反対したいのだろう。本当は行かせたくないのだろう。


けれど、その全てを飲み込み、言葉にしない優しさを、雪那は確かに受け取っていた。


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