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死ねない私は、竜王様に囚われる  作者: ゆきだるま


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答えを求めて


朝の光が部屋を満たしていた。


窓から差し込む柔らかな陽射しが、机の上に積み上げられた書物や術式の紙束を照らしている。


雪那は椅子に腰掛けたまま、膝の上で両手を握り締めていた。


そして、ばたばたと廊下を走る足音が聞こえ、勢いよく扉が開く。


「おはようございます~」


「あぁ、来たか」


相変わらず髪をぴょんぴょん跳ねさせた暁杜が現れた。片手には書類の束。


「どうされたんですか?こんな朝から。あれ、雪那さんもいたんですねぇ」


「おはようございます、暁杜様」


気の抜けるような声音だった。その声を聞いていると、不思議と雪那の肩から少しだけ力が抜ける。


「どうせ寝とらんかったな?」


「えぇ。昨日暴走した術式を解明してたら朝になってましたねぇ」


「とりあえず座れ。雪那が聞きたいことがあるそうじゃ」


秋叡王に促され、暁杜は素直に椅子へ腰掛けた。雪那を挟むように、向かい側へ秋叡王と暁杜が座る。


二人の視線が雪那へ向いた。雪那は背筋を伸ばし、そして深く頭を下げた。


「お二人には、お時間をいただき申し訳ございません」


「構わんよ」


「気にしなくて大丈夫ですよ」


雪那は顔を上げた。胸の奥で心臓が大きく鳴る。けれど、視線は逸らさなかった。


「確認したいことが、あります」


自分に、出来ること。それを確かめるために、雪那は震える唇を引き結び、そして口を開いた。


「王石を取り出したら、私はすぐに死ぬのでしょうか」


その瞬間、部屋の空気が変わる。


先程まで気の抜けた顔をしていた暁杜の表情が消えた。ぴょんぴょんと跳ねていた髪まで静かになったように見える。


眠たそうに目を擦っていた暁杜が、険しい顔で雪那を見つめる。


「雪那さん。それは、どういう意図ですか」


「雪那、答えによっては儂らはお前を叱らねばならん」


秋叡王の顔が、穏やかな老人の顔から、秋の国を束ねる王の顔へ変わる。


「まさか、春の国の連中に、自分の王石を差し出すつもりか?」


二人の声からは、怒りが滲み出ていた。胸の奥が少しだけ熱くなる。二人は、雪那が王石を差し出して、死ぬつもりだと思って、怒ってくれたのだ。


雪那は首を横に振った。


「違います。昨日、暁杜様が教えてくださった選択肢を選ぶために、知りたいのです。私は死にたいわけではありません」


見ず知らずの雪那のために怒ってくれた二人には、素直に正直に話をしたい。雪那の気持ちが通じたのか、しばらく沈黙が落ちた。やがて暁杜が息を吐く。


「……王石を取り出したからといって、すぐ死ぬ、ということは無いと思います」


暁杜は言葉を選ぶように続ける。秋叡王が否定しないということは、二人は同じ見解なのだろう。


「いくら王石があなたの命と同化しているとはいえ、本来の寿命は残っているはずです。ただ、その寿命がどれほど残っているかは分かりません」


暁杜が言葉を選ぶように一度言葉を途切らせる。


「……ですが、限りなく少ないことは確かでしょう」


雪那は静かに頷いた。暁杜は、答えにくいであろう質問に、真摯に答えてくれた。


「そうですか。なら、良かったです」


その言葉に、暁杜と秋叡王が、質問の意図が分からないとでもいうようにお互いに顔を見合わせた。


そして、雪那は続ける。


「もう一つ聞きたいことがあります」


「何じゃ」


「もし、春の国の王石を破壊した場合、春の国は滅びるのでしょうか」


今度は秋叡王が首を横に振った。手元にあった杖に両手を重ねる。


「いや、それは無い。王石はあくまで王に力を与える装置にすぎん。歴代の王達の王石も、主人が死ねばそのまま消えた。王石が破壊されても、国そのものが消える訳ではない」


秋叡王は一度言葉を切った。


「春の国は結界の維持に力を使っておったようじゃが、破壊されれば、次の王が生まれた時に、新しい王石が生まれるだけじゃ」


雪那の質問の意図は、まだ見えない。けれど、王石を取り出した時の寿命。王石を壊した時の国への影響。


雪那が確かめているものは、明らかに同じ方向を向いていた。


秋叡王も暁杜も、その続きを待つように雪那を見つめていた。


春の国に人生を踏み躙られ、国に都合の良いように傀儡として利用されてきた少女。やっと冬竜王によって連れ出されても、春の国は雪那に対して恐ろしいほどの執着を見せる。


だからこそ、王として、術者として、見逃すつもりはなかった。雪那がみすみす死ぬつもりなら、本気で止めるつもりだった。


「……そうですか。なら、良かった」


暁杜が首を傾げた。


良かった。その言葉が引っ掛かる。


すぐには死なない。国も滅びない。その二つを聞いて安心する理由。


その理由に気付いた暁杜の目が僅かに見開かれた。


「……まさか、王石を壊そうとしているんですか?」


静寂が落ちた。秋叡王も雪那を見つめている。


雪那は膝の上で手を握り締めた。まだ確信は無い。出来るとも限らない。


それでも。


「……まだ、本当に出来るとは思っていません。それを確認したくて、お二人に話を聞きに来ました」


雪那に出来ること。雪那にしか出来ないこと。その答えは、雪那自身の治癒術式の中にある気がしていた。


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