表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない私は、竜王様に囚われる  作者: ゆきだるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/68

魔術研究塔の変人

それから翌日――。


今日も宮殿の案内をしてくれる氷雅と一緒に部屋に訪れたのは、冬竜王だった。


「一緒に来てくださるんですか?」


「昨日の続きを見たいんだろう」


氷雅と白狐、冬竜王と共に、秋の宮殿の奥に建つ魔術研究塔へ向かった。


白い塔は空高く聳え立っている。幾重にも重なる螺旋構造。壁面には無数の術式が刻まれ、窓からは青白い光が漏れていた。


「ここが魔術研究塔です」


氷雅が扉を押し開く。その瞬間だった。


「――あっ!!」


「来た!!」


「氷雅様だ!!」


「お帰りなさい!!」


わっと人の波が押し寄せた。白い外套を羽織った研究者達。妖魔もいれば人間もいる。老若男女問わず、皆が目を輝かせていた。


そして、その視線が雪那へ集中する。


「あなたが噂の治癒術師ですね!?」


「本当に見事な銀髪だわ!」


「早くお会いしたかったんですよ!」


「治癒術師なんて滅多にいませんからね!」


凄まじい熱量だった。雪那は思わず目を瞬かせる。その空気はどこか懐かしく、夏の国で出会った術師達によく似ていた。


研究と知識への飽くなき探究心。熱意だけで突っ走るような勢い。炎のような情熱と、知識への渇望。


しかし驚いたのはそれだけではなかった。


「冬竜王様!!」


「今日こそ陛下の力を研究させてください!!」


「髪の毛一本でも!!」


「いや氷魔術を見せていただきたい!!」


「血液でもいいので!!」


研究者達は冬竜王を取り囲みながら、恐怖する様子が微塵もなかった。


雪那は呆然とその光景を見つめる。冬の国ではそんな光景を見たことがなかった。夏の国でも恐れられていたのに。


だがここでは、恐怖より研究対象としての価値の方が高いらしい。


雪那の様子に、その光景を見ていた隣の氷雅が苦笑いを溢す。


「悪い奴らではないんですよ。ただ少々研究熱心でして」


「……えぇ。伝わります」


「陛下に対する恐れより、研究したい欲が勝ってしまうんですよねぇ」


その説明を聞きながら雪那は冬竜王を見る。冬竜王は明らかに面倒そうだったが、邪険にする様子はなかった。慣れているのだろうか。


その時、塔の上から足音が響いた。


螺旋階段を、一人の男が降りてくる。肩までの森のような深い緑色の髪は無造作に跳ね、研究者たちと揃いの白い外套は皺だらけだった。


けれど翡翠の瞳だけは眩いほど輝いていた。男は階段の途中で、騒ぎに気付き立ち止まる。


「おや?これは珍しい方々ですねぇ」


その視線が、雪那達を捉えると、研究者達が自然と左右へ退く。


雪那は少し驚いた。あれだけ熱中していた皆が、その視線一つで道を譲る。それだけで立場が分かる。


男は階段を降り切ると、乱れた姿からは想像も出来ないほど優雅に一礼した。


「魔術研究塔責任者、暁杜と申します」


そして顔を上げる。真っ先に見たのは冬竜王だった。


「あぁ!!お久しぶりですねぇ、冬竜王様!!」


子供のように翡翠の瞳を輝かせて、暁杜は冬竜王に駆け寄る。冬竜王は露骨に顔を顰めた。


「相変わらずのようだな」


「もちろんですとも!!陛下もお変わりないようで!!」


暁杜は嬉しそうだった。雪那は対照的な表情を浮かべる二人を見比べる。どんな関係なのだろう。


すると今度は、暁杜の視線が冬竜王の隣にいた雪那へ向いた。


そして一瞬。本当に一瞬だけ静止した。


「あなたが!!」


雪那は反射的に一歩後退った。夏の国の術師達が脳裏を過る。あの時と同じ目だった。


「素晴らしい!!なんという銀髪!なんという魔力の流れ!!」


ぐいぐいと勢いよく距離を縮めてくる暁杜に、雪那は口を開く隙さえ与えられず、ただただ勢いに押される。


「あなたが秋叡王様が話していた治癒術師ですね!?ぜひお名前を研究記録に――」


「おい、下がれ」


低い声が遮った。気付けば腰を抱かれて、ぐい、と身体が後ろへ引かれた。そのまま雪那と暁杜の距離を取るように、冬竜王に引き寄せられる。


雪那は彫刻のような横顔を見上げて、その安心できる温もりに、強張っていた身体から力を抜いた。


「近い」


「おや、これは失礼しました」


暁杜は全く気にした様子もなく、冬竜王に腰を抱かれたままの雪那を上から下まで眺め、ニコリと笑う。


「せ、雪那と申します。初めまして、暁杜様」


「雪那さんですね!!よろしくお願いします。ぜひ色々お話を……!!」


「この男には気を付けろ。変人だ」


冬竜王が呆れたように呟いた言葉に、暁杜は笑顔で頷く。


「陛下。それは研究者への最大級の褒め言葉ですよ」


全く堪えていない。雪那は思わず小さく笑ってしまった。


「お知り合いなんですか?」


「……まぁ、顔見知りではある」


「昔からの付き合いなんですよぉ」


珍しく歯切れの悪い回答に、絶対それだけではないと雪那は感じ取る。そこへ氷雅が歩み寄る。


「暁杜さん、お久しぶりですね」


「おぉ!氷雅くん!君も元気そうだね」


氷雅の肩を親しげに叩きながら、暁杜は懐かしそうに頬を緩めた。


「さぁさぁ!立ち話も何です!奥へどうぞ!話を聞かせてください!!」


暁杜に先導される形で、一行は研究塔の奥へ向かった。


歩き出してしばらく、冬竜王はようやく雪那の腰から手を離した。


「大丈夫か?」


「はい。不思議な方ですね」


暁杜のぴょんぴょんと跳ねた髪が、歩くたびに揺れる。声も大きい。落ち着きがない。けれど不思議と嫌な感じはしなかった。


「あぁ。あんなふざけた態度だが、間違いなく魔術の天才だ」


雪那は思わず目を見開く。冬竜王が人を褒める。それがどれほど珍しいことか、もう知っている。


氷雅の時ですらそうだった。だからこそ、混じり気なしのその称賛の言葉に驚いた。


「天才……」


「事実だからな」


冬竜王は淡々と言う。そして前方を歩く暁杜へ視線を向けた。


「お前の身体についても、あいつなら何か分かるかもしれん」


あぁ、だから冬竜王は着いてきてくれたのだと気付く。雪那の身体を調べるため。王石の影響、共鳴の原因を探すため。


もしかしたら、本当に何かが分かるのかもしれない。


そんな期待を胸に抱きながら、雪那は魔術研究塔の奥へと足を踏み入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ