表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない私は、竜王様に囚われる  作者: ゆきだるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/64

秋の夜


秋叡王と氷雅が去った後、白狐も羽雲を連れて部屋を出て行き、部屋には静かな空気だけが残った。


雪那はふう、と息を吐きながら上体を柔らかな寝台へ預けた。薬草のおかげだろうか。身体の芯がぽかぽかと温かい。


「疲れたか」


「いいえ。大丈夫です」


冬竜王が寝台に腰掛け、雪那を覗き込む。紅い双眸と目が合う。


触れたい、と思った。何故だろう。自分でも分からない。けれど、そのまま心に従うように手を伸ばし、冬竜王の頬へ触れた。


冷たい。薬草で熱を持った雪那の指先とは対照的な温度だった。


冬竜王は避けるわけでも、振り払うわけでもなく、ただ黙って雪那に触れられている。


「なんだ?」


「……分かりません」


ただ、触れたかった。冷たい肌に触れていると、不思議と安心する。冬竜王がここにいると実感出来る。


雪那が名残惜しそうに手を離そうとすると、その指先が離れる前に、するりと長い指に絡め取られる。


「……っ、あ……」


そのまま絡めた手を軽く引かれ、気付けば身体ごと冬竜王に抱き止められていた。見上げれば、長い黒髪が檻のように降り注いでいた。


そして、引かれた指先へ、柔らかな感触が落ちる。


雪那は目を瞬いた。冬竜王の唇が、自分の指へ触れている。


「え……?」


唇まで冷たいのだな、と一瞬だけぼんやり思う。だが理解した途端、一気に顔へ熱が集まった。


「と、冬竜王様……?」


「なんだ」


上擦る声が恥ずかしくて、動揺を隠せない雪那な、冬竜王は平然とした顔で答える。指先に、冬竜王の息が触れてくすぐったい。


「お前が先に触れただろう。俺が触れてはいけないのか?」


雪那は言葉に詰まる。触れてはいけないわけではいし、嫌でもない。嫌ではないのだが、落ち着かなくて、どうしていいか分からない。


心臓が早鐘を打ち、絡められた指が熱い。


そっと冬竜王を見上げると、纏う空気が、以前とは違う気がした。何が変わったのかは分からない。


けれど、見えない距離が一つなくなったようだった。


絡められた指を握り返していいのかも分からない。けれど離されたくもない。


そんな雪那の心を見透かしたように、冬竜王は耳元へ顔を寄せた。


「宮殿を見て回りたいのは分かるが、もう少し身体を休めてからにしろ」


吐息が耳へ触れた。びくり、と肩が跳ねる。耳が熱い。薬草のせいだけではない。


「わ、分かりました……」


心臓はますます暴れていた。窓から差し込む午後の光が二人を照らす。


雪那は、恐る恐る絡められた指を握り返すと、冬竜王の瞳が僅かに綻ぶ。


ふわりと身体が後ろに傾き、気付けばそのまま寝台に押し倒されていた。


雪那の銀髪が寝台へ広がり、その上へ黒髪が流れ落ちる。二色の髪が寝台の上で絡み合った。


「あ、あの?」


雪那は目を瞬いた。驚いてはいる。けれど、その姿は無防備で、警戒心もない。ただ不思議そうに冬竜王を見上げる。


その姿を、冬竜王は絡めた手を寝台へ縫い留めたまま見つめ、深く息を吐いた。


まるで胸の奥へ溜まり続けていたものを吐き出すように。一瞬だけ、その瞳に過った熱は、すぐに見えなくなってしまった。


そして、そのまま雪那の隣へ横になると、細い身体を抱き寄せた。


「寝るぞ」


「え?」


冬竜王は目を閉じたまま雪那の腰に腕を回し、頭に顔を寄せる。


「お前が意識を失ってから、まともに寝ていない」


「……眠れなかったんですか?」


「お前は俺を何だと思っている」


そう言いながらも、冬竜王は抱く腕を緩めない。


今までなら、数日眠らなくても何の影響もなかった。眠れなくても構わなかった。それが普通だった。


けれど、一度知ってしまった。雪那がいない夜がどれほど長いか。失うかもしれない恐怖がどれほど重いか。


だから、雪那が無事に目を覚ました今、冬竜王はようやく眠気を受け入れる。


雪那はふふ、と小さく笑った。そして冬竜王の胸へ額を寄せると、規則正しい鼓動が聞こえる。


その音が心地良かった。抱き締める腕が僅かに強くなる。


窓の外では秋風が静かに木々を揺らしていた。


雪那の髪から微かに香る薬草の匂い。胸元に感じる確かな体温。それを確かめるように抱き寄せながら。


その日、冬竜王は久しぶりに深い眠りへ落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ