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死ねない私は、竜王様に囚われる  作者: ゆきだるま


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温もりの中で

冬竜王が部屋を出て行った後も、雪那はそのまま部屋に残っていた。


白狐はそれはもう甲斐甲斐しかった。湯を用意し、着替えを用意し、食事を運び。まるで壊れ物を扱うように雪那を世話する。


「白狐さん、ここまでしていただかなくても……」


「いいえ、やらせてください」


白狐は用意した温かいお茶を寝台横の卓に置き、お盆を抱えたまま微笑む。


「雪那様には、感謝してもしきれません。主様のあんな穏やかな顔を、私は初めて見ました」


「そんな大袈裟な……」


「大袈裟ではありません」


真面目な顔で言われてしまい、雪那は困ったように笑った。


寝台にもたれかかるようにして上体を起こすと、白狐が羽織を肩に掛ける。


身体が、想像以上に重い。人を治す時とは違う。夏の国で炎竜王を治癒した時もそうだったが、王を治癒するというのは、雪那が思っていた以上に消耗することだった。


窓の外では青空がゆっくり夕暮れへ変わっていく。冬の国に夕焼けがある。それだけでも不思議な光景だった。


「雪那様?」


「何だか、部屋が広くて落ち着かなくて」


冬の国で雪那に与えられた部屋は、春の国で幽閉されていた時よりよほど広い部屋だったが、冬竜王の私室はさらに広い。


主人がいない部屋は妙に静かだった。昨夜まで張り詰めていた空気が嘘のようで、落ち着かない。


「ふふ、そろそろ主様もお戻りになりますよ」


「はい。本でも読んで待とうと思います」


「無理は禁物ですよ」


小さく頷き、雪那の部屋から取ってきてもらった本を開く。


穏やかに、時間が流れていく。



そして――。


夕日が沈み、月が高く上がる頃、扉が開く。その音に、雪那は読んでいた本から顔を上げた。


帰ってきた部屋の主人は、その長い脚で三歩で寝台までの距離を縮める。


「お帰りなさいませ」


冬竜王を見上げると、自然と笑みが零れる。寝台を降りようと、膝に掛けていた毛布から出ようとすると、冬竜王が片手を上げた。


「良い。座っていろ」


冬竜王の手が伸びてきて、ひやりと冷たい指先が、体温を確かめるように耳の下へ差し込まれた。


「寝ていなくて良いのか」


「はい。もう大分良くなりました」


手の感触が、くすぐったくて肩を竦める。その様子を見ていた白狐が、こっそり頬を緩めた。


冬竜王はそのまま寝台へ腰を下ろす。雪那は少し迷ってから口を開いた。


「あの……」


「何だ」


「私、部屋へ戻りますね」


冬竜王が何とも言えない顔をした。雪那としては、気遣いのつもりだった。眠れるようになった冬竜王に、最早雪那が部屋にいる必要性を感じなかった。


冬竜王が覗き込むように雪那と目を合わせる。


「あれだけ、俺のそばにいたいと言っていたのにか」


「あ、あれは、その……!」


昨夜のことを思い出し、雪那は何だか気恥ずかしくなる。その様子に、冬竜王の口端が僅かに上がる。


「良い。このままここで寝ろ」


「……はい」


雪那はぱちぱちと目を瞬き、小さく頷いた。そして、ここにいていいと言われたことに安堵した。


「白狐」


「はい」


「今日はもういい。下がれ」


白狐は一瞬だけ名残惜しそうな顔をしたが、素直に頭を下げる。


「おやすみなさいませ」


扉が閉まり、部屋には二人だけになった。


暖炉の火が小さく揺れている。耳を撫でていた指先が今度は後頭部へ回った。


「……本当に、よろしいんですか?」


「何がだ」


「その……冬竜王様は、もう眠れるのに、私がいたら邪魔になってしまうのではないかと」


冬竜王は数秒沈黙した。それから呆れたように深々とため息を吐く。そして、そのまま雪那の頭を胸元へ引き寄せた。


「お前がいたから眠れたんだ」


「っ……」


低い声が耳元へ落ちる。冬竜王の肩口からこぼれ落ちた黒髪が頬を掠めて、雪那の心臓が跳ねる。


「このままそばにいろ」


何だか顔を上げられなくて、小さく頷くと、冬竜王は雪那を抱き寄せたまま、寝台へ身体を横たえた。


不思議だった。何百年も続いた夜。あれほど忌まわしかった夜。終わらない夜。


それなのに、今は少しも嫌ではない。


腕の中にある温もりがそう思わせるのだろうか。


雪那の手がそっと伸びて、ぎこちなく、恐る恐る、冬竜王の背中へ回された。冬竜王は大切なものを仕舞い込むように深く雪那を抱き込む。


「……私が先に寝てしまいそうです」 


「構わん」


眠そうな声だった。治癒の疲労はまだ残っている。冬竜王の温もりに包まれていると、余計に瞼が重くなる。


冬竜王の大きな身体に包み込まれて、互いの体温が溶け合う。


とろとろと、瞼が落ちて、夢へ沈んでいく。


その姿を見つめながら、冬竜王も静かに目を閉じた。


長い夜の終わりに、ようやく手に入れた温もりを抱いたまま。


二人は静かに夜へ溶けていった。

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