第93話 異郷の迷い子
尖兵から逃れるため、神社の奥から異郷の道へと進む私達。
神社付近は更に降臨した尖兵たちにより包囲された状態だ。
しかし、如何に彼らでも異郷の道を封鎖することはできなかった。
ある程度、進むと尖兵たちの追撃も無くなった。
あれは何なのか?
そもそも、高度な進化体ならこの道であろうと追跡できるはず。
そんな疑問を合流した皆に伝えてみると、
「確かにそうだな。
奴らを見るのは2度目だが、異様な強さだけが印象に残っていた。
あれだけの強さだ。
この道を通れるだけの実力はあるはずなのに?」
と尖兵達を知っている風のラファエルさんがそんなことを言い出した。
すると、天明さんが口を開く。
「わたしが思うに、あれは傀儡の一種だと思います。
確かに強力な存在でしたが、その動きは単調でした。
そもそも、あの閃光と術などを封じる特殊能力、異常な耐久力、
この3つがあの巨人の特徴です。
ですが、逆に言えばそれしか取り柄はありません。
動きも連携が取れているわけではなかったです。」
なるほど、攻撃自体が効いていればあの異形の巨人といえど、
あっさり倒せるかもしれない。
あの特殊な圧をかける能力は厄介だが、
奴らはこちらの攻撃を躱したりしていない。
現に最初の内は弱点と思われる光球への攻撃を嫌っていた。
あの尖兵は確かに強い。
が、あの特殊能力を何とかすれば戦えないことはないのかも。
そんな話をしていると、
スサノオさんがこの先の事を切り出してきた。
「ふむ、私は他に用事があってな。
一緒に進むことはできぬ。
それにそちらの天使殿はこの道深くを通ることはできぬだろう。
私が安全なところに送って行こう。」
「皆、姉上への協力、感謝する。
いずれまた会うこともあろう。
それまで達者でな。」
そういうスサノオさんは、私達に別れを告げる。
確かにラファエルさんは異郷の道を進めなかったと言っていた。
大丈夫なのだろうか?
「心配はいらないぜ。
確かにこの道を遠出するのは無理だったが、
入口近くなら負担はない。
今回は案内してくれるそうだしな。」
そう言ってラファエルさんも私達の方に顔を向け、
「じゃあな、世話になった。
あの尖兵については更に分析してみるぜ。
今回は巻き込んで悪かったな。
でも助かった。
ありがとさんな。」
と言ってスサノオさんと共に道なき道を進んでいった。
ううん、どうにもこの道の仕組みが分からない。
私には彼らが立ち込める霧の中に消えていく姿しか見えない。
そちらを見ても道など確認できないのに。
「さて、帰りましょうぉ。」
そんな気楽そうな天明さんの言葉が緊張感を和らげてくれた。
「方向とか分かるんですか?」
そう私は天明さんに聞く。
ううん、アテナさんはこの道を通れるのは分かったが、
天明さんもこの道を行けるらしい。
この道はラファエルさん達でも探索不能なのに。
「こっちですよぉ。」
天明さんが進む先に道が現れる。
どうやっているのか聞いて見ると、
「ふむ、七果は初めてではないのだろう?
この道は辿り着きたい場所を強く願えば、
その場所へ導かれる。
まあ全く知らない場合は色々と探索しなければならないがな。」
とアテナさんが答えてくれた。
なるほど?
全然分からない私の頭にはすべてが謎だらけに思えた。
少し進むと何かの存在を感知した。
尖兵達の放つ圧のように、この道では力持つ者の波動を感知できる。
ちなみに私達は出来るだけ気配を消している。
それほど難しいことではなく、感情の揺らぎを制御して、
できるだけ場を乱さないよう進んでいるだけだ。
人種の進化体は獣より個体の能力は低い。
その代わりに気配を消したり、集団で連携したりする。
反対に獣の進化体はその存在を振りまいて、
敵となるものを退けたりもする。
まあ全部が全部そういうわけではないことは、
オリンさん達を見れば分かるだろう。
さて、感知した存在は複数であり、
力を抑えているのか振りまかれた力は小さいものだった。
静かに近づく私達。
ふむ、何故危険と思われる集団に近づくのか?
獣が付近にその存在を振りまいている場合は、
静かに立ち去るのが正解らしい。
だが、複数いる個体はほぼ間違いなく、人型の知性体だそうだ。
力で圧倒する獣の進化体をその知恵と連携で刈り取る存在。
いわば、異郷の道を彷徨う狩人たちが人型の進化体なのだ。
今回も相手がどう出てくるか分からない。
避けて通って罠にかかることも多いとアテナさんが言っている。
それを聞いて、まるきり盗賊のようだと思った私だったが、
天明さんが「その通りですよぉ」と同意してきた。
「お金を目的としていないだけで、
襲ってくる理由は同じ感じですよぉ。」
小声で答えてくる天明さん。
近づく気配。
よく観察してみると、この前苦戦した小人の集団だった。
どうやら獲物を狩ったのか、
今回は倒れた大きな熊のような獣の周りに集まっている。
その数は9体、だがまだ近くに潜んでいるかも?
「ふむ、ゴブリンか?」
その言葉に私は唖然とした。
えええっ、あの小人がゴブリン?
私は異世界もので最弱のモンスターに苦戦してたのかあ!
「ええと、あれってゴブリンなんですか?」
と恐る恐るアテナさんに聞くと、
にやあっと笑った天明さんが代わりに答えてくる。
「そうですよぉ!
あれは!
ゴブリンです!」
くっ、揶揄っているな!
どや顔の天明さんに、あれは強敵だったと主張すると、
「それじゃあ、私が戦ってあげましょう!」
そう言って、立ち上がり隠れている木の陰から出ていく。
幾ら何でも危ない!
天明さんを連れ戻そうとするが、
「まあまあ」と取り合わずにそのまま進んでいく彼女。
アテナさんを見れば、
「まあ、見ているといいぞ。」
と答えてくる。
ゴブリン?の集団が姿をさらした天明さんに気づき、
素早く体勢を整える。
先鋒として突っ込むんでくる5体を相手に、
天明さんが一言、術と思われる言葉を放つ。
「 力転反呪 」
彼女を襲うゴブリンの短剣の群れ。
しかし、その斬撃も突きも彼女に対して効果が無かった。
ゴブリンの攻撃を受けて、無傷な天明さん。
どういう事?
さらに彼女は素早く攻撃してきたゴブリンに拳を握り込み放つ。
重い打撃音と共にゴブリンが吹き飛ぶ。
頭蓋を砕かれたその一体を皮切りに、
拳や蹴りが天明さんから放たれ始める。
えええええ___
正直私が知る天明さんは術師系だったはずだ。
確かに怪力を持っているのは知っているが、
近接戦闘は得意じゃなかったはず。
なので、私のほうが今は中衛として彼女の前を守っている。
確かにそのはずだったが、眼前では凶戦士のように暴れまわっている。
天明さんの攻撃に晒され、既に3体が追加で戦闘不能になったゴブリン。
接近していた最後の1体が彼女の攻撃範囲から逃れると同時に、
矢が4つ、天明さんに迫る。
しかし、天明さんはその光景にも動じない。
矢は彼女に当たった。
確かに当たったのだが、どれも刺さるどころか跳ね返された。
その光景を見たゴブリンたちは、素早く撤退し始めた。
見えているゴブリンの集団は残り5体だが、
道の端に見える木々の間から更に5本の矢が飛んでくる。
その矢は天明さんの身体に当たってむなしく弾かれた。
それでも、矢の攻撃は2、3度続いた。
どうやら、撤退の援護らしい。
その様子をのんびり観察する天明さん。
しばらくするとゴブリンたちは視界からいなくなった。
私の時とはあまりに違う結果だった。
にまにましながら、私達のところに戻ってくる天明さん。
「どうでしたかぁ。」
くっ、ぐうの音も出ない私。
「天明、あまり意地悪するな。
はあ、この道には力が充満している。
術師は膨大な満ちている力を使って瞬時に術を発動できるんだ。」
とアテナさんが場をとりなしてくれる。
にまぁと笑っていた天明さんも少し真面目になって、
「今のは相手の総力と私の力を交換したんですよぉ。
まあ、ゴブリンたちはその知恵もなく術など使えないので、
交換したところで何もできませんからねぇ。
でも、わたしのほうは、
彼らの膂力とか全てを合わせた身体能力を得ました。
彼ら全員を合わせた膂力で殴られたりしたら、
一撃で倒れるのも無理はないですよぉ。」
そんな言葉を貰い、私は天明さんが相当強いことを実感した。
要約すると、隠れていたゴブリンを含む14体の打撃力と防御力を
先程の天明さんは持っていたということだ。
つまり、ゴブリン一体の14倍強い!
彼女の衣服にも効果が及んでいるらしいから、矢が刺さらない訳だ。
そして、以前私はゴブリン一体に体当たりされ吹っ飛んでいる。
むうう、釈然としないが今だ同僚の中では私は最弱らしい。
というか、鍛えれば何とかなるのだろうか?
アテナさんも天明さんも、その能力の引き出しが多く、
今だ底知れない感じだ。
「まあ焦るな。
そうだな、帰る前に少しここで運動していくか。」
そんな言葉をアテナさんが告げて、天明さんも賛同した。
先程、危ない戦闘を超えたばかりだが、
急遽、運動という名の修行が決まってしまった。




