第90話 二人のラファエル その3
「俺もラファエルだ。」
そんな言葉を私達に放った彼は、
先程会ったラファエルさんとは違い、野生的な魅力を放つ男性だった。
穏やかそうだった企業の重役なラファエルさんは気品漂う美男子で、
どこかの王族と言われても素直に信じられるほどだった。
一方、今目の前にいる彼は、
どこかのアクションスターみたいな迫力がある。
服装自体も活動的な印象を受けるが、背が高く、
がっしりとした鍛えられた体格を持つ彼もまた魅力的な男性だ。
同じ顔なのだが、印象はまるで違う彼ら。
しかし、彼らは同一人物だと言う。
私はどういう意味なのか?
尋ねてみたが、言葉巧みにはぐらかされた。
仕方なく、天明さんとアテナさんに相談してみると、
「はあ、わたしが見るに、彼らの本質は同一です。
ただし、彼らは一人の人物の違う側面を強調して表わしているようです。」
「話上手で説得などの交渉に長けた人物像が、
企業のトップなラファエルさんなら、
今の彼はどこかの傭兵のような戦闘知識などに長けた人物のようです。」
うーん、分からない。
唸る私にアテナさんが、
「うむ、まあ分身と思えば分かり易いだろう。
私の一族にもヘーラクレースという奴がいる。
奴は希代の英雄として知られているが、
それも不可能とされる12の試練を乗り越えたためだ。
結果、奴は一人で12人の才覚の異なる英雄に、
分身出来るようになった。
同時間に複数の場所に存在できる力を身に着けた奴は、
現在最強の英雄として海外で活躍中だ。
その内、七果も会えるだろう。」
ええ、ちょっと信じがたいが、
アテナさんは至って真面目に語っている。
それを横目に聞いていたのか、
案内しているラファエルさんは苦笑している。
「さすがにそんなのと比べられる程のものじゃないぞ、
俺達のは。
というか、そんな奴がいるのか?」
と逆に聞き返してきていた。
今は今日泊まるホテルに案内してくれている彼。
目立たないようにか、普通自動車での移動だ。
というか、それでも高級車ではあるのだが。
その後、会合予定日まで東京観光に付き合ってくれる彼。
粗野な感じの口調だが、意外と気が回るタイプなのか、
慣れない私も素直に観光を楽しめた。
うん、そうなのだ。
これから得体の知れない会合に出席することになった私達。
不安じゃないと言えば、嘘になる。
だが、そんな私達をぶっきらぼうな感じの彼は、
巧みな演出で楽しませてくれた。
ここ数日間の付き合いだが、彼はやはりラファエルさんだった。
その口調や雰囲気、態度などはやはり違う。
しかし、彼は人への気配りが上手く、不思議な安心感を与えてくれる。
そういうところは二人のラファエルさんに共通した特性のように感じた。
今回は私達全員が各自、お土産なども買うことが出来た。
会合の日までに、色々楽しんでおけ。
そんなラファエルさんの勧めと適所な観光地案内のお蔭だ。
私は実家とオリンさん達、あとは会社関係の知り合いに、
お土産を購入した。
他の二人も色々と買っていた。
まあ、私がお菓子などの日持ちするお土産なのに対し、
彼女らは生物が多かった。
どうしてか?
彼女らのお土産は東京のホテルで全て食べられたからだ。
うむ、故郷へのお土産ではなく、
その日の夜、自分を楽しませるためのお土産だった。
というのも、彼女らが言うには研究所の人は研究大好きで、
そういうものに関心はないそうだ。
天明さん曰く、最初はお土産を贈ってみたこともあったらしい。
しかし、研究熱心な彼らは、
高級チョコだろうが名店のケーキだろうが反応は同じだったそうだ。
そこで気付いたのが、
研究員の彼らもまた出張は多いということだった。
そう調査で日本各地へと行っている彼ら。
新入社員ならともかく慣れてくると土産など買わなくなるらしい。
社員食堂があるのに、前の私のように菓子パンで済ませる人が多い。
手が離せないと言う理由で。
アテナさんもそれは言っていた。
研究員の人達の食生活は最悪だと。
社員食堂という名の高級レストランなのに、たった15分程歩けば、
辿り着くのに、忙しいの一言でカップ麺や菓子パンで済ませる。
そういう人が多いと。
特にアテナさんは警備部門からの転属だったので、
それを良く思っていなかった。
彼女らは身体が資本という合言葉を持っており、
バランスを考えた食事を採るのは基本だった。
量も多めに食べていた。
まあ、その分動きまわる体力勝負な職場だったので、
彼女の体形に変化はない。
そういう事で最早匙を投げた彼女らが、
お土産を同僚に買っていくことはない。
天明さん達のお土産とはその日の夜楽しむデザートとなった。
まあアテナさんは警備部門のほうに購入してはいたが。
ラファエルさんの忠告もあり、お土産類は配送してもらった。
有名なテーマパークにも行ってきたし、
土産話にはしばらく困りそうにない。
まあ研究所の人が相手してくれたらの話だが。
さて、高級料理や各種スイーツを堪能し、
東京観光を楽しく終えた私達。
ラファエルさん達には感謝しかない。
肉は美味かった!
この一言を今回の旅行の感想としよう。
うむ、お酒の類は全く飲めない。
そして、私の身体はここから成長しないらしい。
多種多様な高級美酒を前に地団駄踏む私に、
アテナさんが言った言葉がこれだった。
何でも管理権限を持つ存在は不老なのだそうだ。
そもそも、この身体自体が魂のようなもの。
本来なら年を取っても、この権限とやらは身に付かない。
余程の功績をもってして、死した後に昇格するとかだそうだ。
今の状態は本来の七福源治丸の魂がこの身体と一体化したもの。
そしてこの身体自体が魂の具現化なのだそうだ。
関場さんの話では、通常の人間の魂は光の球のようなもの。
それが今の私は人型であり、人間として一般の人にも視認できる。
異郷の道を行けるのも、この身体自体が進化体だから。
一般的に魂に老化などない。
人間という活動するための身体は魂が進化すれば必要なくなる。
いつか会った竜種だって、魔狼だって、小人だって、
進化固体である彼らは最早死ぬことはない。
物質的な身体は死するが、魂に死はないのだ。
直結すれば、私のこの身体は老化しないのだそうだ。
もう酒は飲めない!
あまり好きではなかったが、
一生というか永遠に飲めないとなると話は変わってくる。
その日のお土産で買ってきたお酒を、
楽しく飲み比べする二人を見ながら私は絶望に打ちひしがれていた。
はあ、まあ久しぶりに楽しい時間を送ることが出来た私達。
いよいよ、その日はやってきた。
今日こそが、会合の日なのだ。
随分打ち解けたラファエルさんと共に、
東京とは思えない鬱蒼とした木々が生い茂る山の麓へとやって来た。
少し進むと目の前に長い石段が見えてきた。
ところどころに草の芽が頭を出している。
上を見ると、古そうな神社の鳥居が見えている。
一体そこには、何が待ち構えているのだろうか?




