第89話 二人のラファエル その2
メルカバール・カンパニーのビルにラファエルさんを訪ねて、
やってきた私達。
元々は先の事件で蛇対策に協力を求める趣旨だった。
しかし、蛇本体を倒した今、再びの連絡。
その内容は、日本の誰かとの交渉で私達が示した遺跡の話が出たそうだ。
その辺りの詳しい事情は分からないが、
蛇の事件と無関係ではないだろう。
本来は遺跡で例の蛇が復活すると私達は予想していたのだから。
とにかく話を聞くため、ビルの中へと歩みを進める私達。
エントランスは広く、そこかしこに大画面のモニターが設置され、
上映予定の映画やドラマ、
そして、最近流行りのヒーローたちの広告映像が流れている。
うむ、日本のオタク文化というよりは、
最新テクノロジーを駆使した未来な空間が広がっている。
またAI技術を導入しているのか?
俳優やヒーロ―達が受け答えする各種ブースがあったりもする。
モニターに映るヒーローに話しかけると、
そのヒーローが会話に参加してくれるのだ。
その様子は実にリアルで、
各種のプロジェクタ―を使った演出も入るという豪華さだ。
ここは企業のエントランスのはずだが、
ここに入るとその独特な空間に魅了され翻弄される。
なるほど、日本のビジネススタイルはもう古いとか言うらしい。
確かに訪れた顧客をこの入口で捕まえて離さない演出がなされている。
ここで圧倒された顧客はいい意味でも悪い意味でも、
相手のペースにハマった状態で話を持っていかれるだろう。
目の前の光景に圧倒されながら、
何とか受付らしきカウンターに辿り着いた私達。
今回も天明さんが交渉を開始する。
会社に所属しているはずのラファエル・サンエンタングル氏に、
取り次いでもらおうとする。
すると、この会社にはそのような人物は在籍していないとの
答えが返ってきた。
うん?
おかしいな。
確かにここを待ち合わせ場所に指定してきたはずだ。
もう一度、今度は容姿や用件を含めて説明する。
その説明を精査し、
もう一度社内の情報を検索してくれる受付の人。
ううむ、何か間違ったかな?
天明さんとアテナさん、そして私は目を合わせ、
どうしようかと考えを巡らせる。
しかし、しばらく調べていた受付の人が、
ようやくラファエルさんを見つけてくれた。
何でも、今、アメリカの本社から重役が訪問中だそうだ。
その重役の名が、ラファエル・サンエンタングルだった。
そう言えば、1か月の間、日本に滞在予定とか言っていたな。
なるほど、国外から一時的に来ていたのか。
ラファエルさん、ううん、この呼び方は失礼だろうか?
しかし、確か天使な人だったはずだ。
天使の名では姓はなく、その名が唯一無二の大天使を指すはず。
もう今更だし、良しとしよう。
受付の人によると、ラファエルさんは今も社内にいるそうだ。
問い合わせてみると会ってくれるらしい。
余談だが、このビルは地上30階ほどあるらしい。
ちなみに地下も5階ほどあるが、
そこは設備関係の施設が入っているらしい。
そして、会談に指定されたのは最上階である30階だった。
もしかしなくてもラファエルさんは、
この企業体でトップクラスの地位にいるのかも。
いや、普通に最上階と言えば、
代表取締役やCEOなどのオフィスがあるイメージだ。
しかし、ここは日本支社である。
いきなり訪問した本社の人間の扱いが支社のトップと同じ扱い。
要するに只の人ではないということだ。
さて、エレベーターで案内された私達。
ちなみに、普通には最上階へは行けないため、
案内役に秘書と思われる人が迎えに来た。
大きな部屋の中心に機能性を重視した机が一つ。
そしてその周りを無数のモニターが、
部屋全体を囲むように設置されている。
会社のトップがいる場所というよりは、
何かの司令室のような雰囲気だ。
中央にある唯一つある席に座る、
高級そうなスーツで身を装うラファエルさん。
その姿からはある種の気品が漂う。
「やあ久しぶりだね、お嬢さん方。
この間は挨拶もせず帰ってしまい、申し訳ない。
何分にも私達の正体はまだ一般には知られたくなくてね。」
「ふむ、この部屋では話しにくいな。
隣の会議室を使おう。
そこならゆっくりできる。」
と私達に声を掛け、彼は立ち上がって、
秘書の人を下がらせた。
彼の後を着いて行く私達。
部屋を出て少し歩くと、扉が見え、
ラファエルさんがその中へと入って行く。
続く私達。
中の様子は、長く立派なテーブルや椅子が置かれた会議室だった。
どう見てもテレビなどである重役会議に使われるような部屋だが、
今はラファエルさんと私達以外、誰もいない。
「話しやすいよう、適当に座ってくれていいよ。
あと私の事は以前言ったようにラファエルと呼んでくれ。
もう私の正体は勘づいているだろうからね。」
私達は話しやすいよう、ラファエルさんに合わせて、
座ることにした。
またいざという時、相談しやすいよう3人固まっている。
「まずは、大変だったね。
私達もこんな大事件になるとは思っていなかったよ。
アメリカ本土でも、幾つかの騒ぎはあるんだけどね。
ここまであからさまに一般に露出した事件はないよ。
ここ最近、日本で活発に動いている者たちがいるようだ。
私達も何かあれば、協力するから遠慮せず頼ってもらいたい。」
そんな言葉を掛けてくる彼だが、
確か関場さんの言葉によれば、彼ら天使は何かの計画を遂行中らしい。
その計画につられるように、色々な事件が頻発中だと聞いた。
「あの、例の遺跡で会合ということでしたが、
それって何の会合でしょうか?」
私は疑問に思っていることを口にすることにした。
ド直球だが、私達はその場所が蛇の本体の封印された場所としか、
知らされていない。
その情報は前に会った時、共有していた。
今、彼が何を求めて私達に連絡してきたのか、
その情報を少しでも引き出したい。
あの事件に関連した何者かがまだ他にいるのか?
だが、それを話してもらえるかどうかは分からない。
だからこそ、目的の方を聞いたのだ。
わざわざ、私達を呼んだのだ。
何も話せないなら、協力することも出来ないのは、
分かり切っている。
すると、
「ふう、まあ全ては話せないな。
君達を信頼できないという訳ではなくてね。
まだ上手くいくかもわからないものなんだ。
私達の交渉相手が本当に求めているモノを持っているのかも、
分からない。
ただ、交渉のテーブルに乗るに当たって、
君達の言っていた遺跡を指定してきたんだ。」
「あの場所は、先の事件の怪物本体が封印されている。
それは間違いないんだよね?」
という質問に、今度は天明さんが答える。
「ええ、わたし達の情報ではそういうことになっています。
ただ、岐阜の事件で復活されちゃいましたけど。」
「となると、その情報自体が何かを隠すためのモノかもしれないね。
あの怪物クラスを封印するに当たって、何等かの力がある土地を、
選んだ可能性がある。」
「私達なら復活する兆しが見えてもすぐ対応できるような場所に、
封印する。」
「あるいは、絶対に復活できないような仕組みを築くか。」
「うん、そうだね、少し希望が見えてきたよ。」
「実は、交渉の席に君らを呼んでほしいと言われている。」
その言葉にアテナさんが、
「うん?
私達をか?」
困惑した顔を見せ、疑問を呈する。
「そうだよ、確かに君達だ。
そうだね、私達の最終目的は話せないが、
今回の目的については話しておこう。」
とラファエルさんが説明してくれた。
「私達が求めているのは、古代にこの日本の地に降り立った、
ある舟についてだ。
ここまで関わったのだから、知っているかもしれないが、
私達は一般的には天使として知られている。
だが、まあカテゴリー的には私達は君たちにとって異星人に当たる。
もう数千年も前に地球へ来たわけだが、
私達は当時の技術をもう持っていない。
だが今事情があって、宇宙への帰還方法を捜しているんだ。
なに、他の恒星系へ行くとかではないよ。
ちょっとした旅行に行くのさ。」
「この地球には太古、様々な種族が訪れていた。
その中で宇宙からの訪問者が他にいるんじゃないか?
そんなことを考えていたら、いくつかの例が上がってね。
シュメールやエジプトなども候補になっているんだけどね。
この日本にも同様の訪問者がいる可能性を見つけた。」
ええっと、それって天孫降臨か何かかな?
でも、確か、異郷の道には確かに猿田彦と呼ばれる存在がいた。
異郷の道を行く存在は上位存在ばかりだから神の降臨でいいはずだ。
「うん、天皇制を疑っているわけではないよ。
それより、不可思議な神様が祭られているだろう。
君たちは異郷の道は知っているかな?」
顔を見合わせる私達に、ラファエルさんは続ける。
「うん、知っているようだね。
あのね、私達も調査しているんだけど、
あの道を行くには舟などの乗り物は使えないんだ。
ごく一部に空間を繋げる方法を持つ者がいたけど、
高位の生体じゃないとあの道は通れない。
持ち込んだとしても動力機関などが持たない。」
「そこで、いくつかの文明で空から来た存在の記述を調べた。
異郷の道は異世界へ渡れるという驚異的なものだが、
私達の目的には合致しない。
私達は宇宙へ行く手段、
それも今の技術より効率良い方法を捜している。」
そこでアテナさんから質問が入る。
「ふうむ、貴方達が宇宙を目指していることは分かった。
だが、異郷の道を行けば故郷には行けるはずだぞ。
そもそも、あの道はこの宇宙の各所にも繋がっている。
行けるかどうかはその者次第だが、行きたい場所に行けるのが、
あの道の特徴だぞ。」
そんな裏情報を話す彼女だったが、
ラファエルさんの端正な顔は陰るばかり。
アテナさんのその言を受け、
それまでより丁寧な言葉使いになった彼は、言葉を続ける。
「はあ、貴女は異郷を渡ってきたみたいですね。
通りであの実力を振るえるわけだ。
一応私達も調査はしたんですが、
あそこは私達では通り抜けられませんでしたよ。」
「まあ、そこで空を飛ぶ乗り物を描いた神話等に注目したんですが。」
「シュメール文明の調査は難航しています。
あそこは幾つかの特殊な機構が見つかって、解読不能です。
エジプトに異星人の影が?も調査しましたが、
肝心の船が見つからなかったのですよ。」
「そこで日本のアメノトリフネノカミが注目されました。
空を飛ぶための乗り物と言う観念から宇宙船の類ではないか?
そんな期待が掛けられているんです。
実際伝承でも船の類という伝わり方が為されていますし。
あと、私達は数千年くらい地球に滞在していますが、
ただ空を行くだけの乗り物は現在ある飛行機くらいですね。」
そのラファエルさんの言葉に、
「ううむ、まあそうだろうな。
そもそも、異郷の道を通れば大体のところへは行けるからな。
私の一族も色々な場所へ進出したしな。
宇宙を技術の力で渡っていくなど、時間の無駄でしかない。
実力が付けば、あっという間に別の宇宙や異世界だからな。」
と珍しく歯切れ悪く答えるアテナさん。
「ソレをもっと早く知っていれば、
私達も大掛かりな移民船など作らなかったんですが。」
はあっと溜息を付いたラファエルさんだったが、
「でも、今はそれでよかったと思いますよ。
お蔭で切り札になりましたから、、」
と言葉を濁す。
「とにかく、今回貴女方をお呼びしたのは、
交渉相手の要望でもあるんです。」
「あと、そこのお嬢さんにはお礼も言いたいそうですよ。
そう言えば、貴女方は付いてくるとも言っていました。」
ううん?
私を見てそう言うラファエルさん。
何の事だろう?
「どうしますか?
着いて来てもらえますか?」
私達は互いの顔を見合わせ、
「まあ行ってみましょう!」
と言う天明さんに賛同することにした。
「それでは、会合の日まで私の部下を着けます。
費用は私のほうで持ちますので、気にしなくていいですよ。」
と言って、秘書の人を再び呼び出し、
私達はエントランスへと戻った。
そこでしばらく待っていて欲しいそうだ。
それにしても、また何か変なことになったなあ、
そんな感想を抱く私。
そうこうする内に、一人の男性が私達の元へやって来た。
「よお、あんたらか?
遺跡に同行する物好きは。」
そう声を掛けてくる男性は中々に弾けた恰好の外国人だった。
というか、ラファエルさんじゃないか!
その雰囲気や話し方、服装の違いはあるが、
その顔は今しがた、このビルの最上階で会っていた彼そのものだ。
「ええと、貴方は誰ですか?
サンエンタングル氏と同じ波長ですが、どこか違いますよね?」
変な問いかけをする天明さんとそれに頷くアテナさん。
その言葉に、
「はは、鋭いねえ。
双子で騙そうと思っていたが、そうもいかないとはな。
まあ、今言えるのは俺もラファエルだと言うことだけだ。
よろしくな、嬢ちゃん方。」
と答えるラファエルさん??
その言葉に天明さんとアテナさんが、少し不機嫌そうにしている。
良く考えれば、天使と言う存在について何も調べていなかった。
まあ、公になってはいないので調べようもないのだが。
ここに来て、その存在もまた、
不可思議なものだと言うことが示されつつあった。
宗教上の存在であり、唯一の神様に仕える存在。
だが、あの召使いに仕えている感じはしない。
高度な文明の主であり、正しくこの星を守ってきた彼ら。
果たして天使とは何者なのか?
謎に包まれた彼らに関わることは、いかなる意味を持つのだろうか?




