第85話 帰路
オルトロス族という意外な賓客を迎えた私は、
一旦、京都の研究所へ帰ることにした。
もともと、ここの用事自体が行方不明となっていた研究員を、
捜すための資料を届けることだった。
まあ研究所を出る時は、異郷の道など知りもしなかったし、
まさか研究員がそこで行方不明になっていたなど考えも及ばなかった。
しかし、それも無事解決した。
そして、今新たな仲間となるであろう人物?を仲間に加えたわけだ。
ちなみに、オルトロス族に名前を持つ習慣はない。
これは他の種族、とりわけ強大な力を持つ者ほどに、
顕著らしい。
人より強力な力を持つ彼らは、その個人を判別するのに、
彼らが持つ力のパターンを用いるそうだ。
見れば分かる、感じれば分かる。
彼らに呼び名などいらないのだ。
それに彼らに何かを記録するという文化は存在しない。
人間はその短い寿命ゆえ、
後世に記録を遺して技などを伝承する必要がある。
そうしないとある時点で全てが失われる可能性があるから。
実際に一度発明されたものが失伝して、再発見した例はある。
初期の鉄などの技術が、
戦争で失われたりして発展が遅れたこともある。
しかし、彼女らの種族はその段階にはもうない。
事実上、不老不死と言っても過言ではない彼女らは、
力の探求自体は行っているものの、
それは伝承で何とかなるものでもない。
成長し力を着ける度合いは、個人差がある。
単なる竹刀とミサイルを比較するよりも差が出るそうだ
なので、彼ら彼女らの力のパターン自体が名前の代わりなのだ。
名乗らずとも、その力のパターンで誰かは分かる。
会った事がありさえすれば。
さて、とはいえ私達人間から言うと、
名がないとどうしても不都合が出てくる。
それと今の日本に双頭の犬などいないし、
その巨躯は隠しようがない。
どうにかならないか?
聞いて見ると、彼女は姿を人の見た目に変えた。
びっくりしたが、彼女らにとって難しいことではないらしい。
何でも彼女らは、元々の身体もエネルギーの一種となっており、
やろうと思えば意志一つで外見を変えられるそうだ。
まあ、本来の姿の方があらゆる面で慣れているので、
戦闘の際はその姿をとっているそうだ。
やはり、生まれた時の姿が一番しっくりくるのは当たり前だろう。
しかし、現代の日本に彼女らを傷つけられる存在などそうはいない。
なので、人の姿でも危険はないだろう。
そして、子犬のほうは器用にもう一つの頭を消していた。
うむ、子供と言えど、人より力ある存在の一角なのだ。
そして、変身時に服を着ていないなどということはなかった。
研究員を眺めて着衣などを覚えたらしい。
まあ、彼女らはこの世界に来たことがあるらしいし、
エンキタンの列焼英さんが知っているのだ。
しかし、列焼英さんからは人と獣の勢力争いについて、
聞いていたのだが彼女からはそんな感じはしない。
うん?
そんな疑問を聞いて見ると、
「それはそうじゃ。
我らにも色々な者がいる。
血気盛んな者もいるぞ。
そなたが会ったのが我だったから、この結果になっただけじゃ。」
そんな答えが返ってきた。
まあいいや、そんなことより人の姿になったなら、
名前が必要だろう。
どんな名がいいか?
再び聞いて見ると、
「そんなに言うならそなたが決めればよかろう。
我はどうでもいいのでな。」
と答えてきた。
ううむ、改めて人の姿の彼女を見てみる。
いささか短めの黒い髪に、整った顔、スタイルの良い美女、
アテナさんとは違う意味で目立つ女性だ。
見た目は野生的な印象を覚えるが、その目は理知的で、
外見よりその目に惹きつけられる。
「はあ、じゃあオリンと言う名でいいですか?
色々ありますけど、国籍不明な感じなので、
あまり名から推測されないようにしたいですし。」
「まあ、姓はアテナさんに言えば考えてくれるでしょうし。」
と私はとりあえずの呼び名を提案してみた。
「ふむ、オリンか?
まあいいじゃろう。」
そんな話をしていると、
加賀崎さんが、街へ送ってくれることになった。
今回ここまで来る時はスクルドさんのSUVを使った。
しかし、今彼女たちは異郷の道の先へと進んでいる。
今この場所から移動するための車がない。
そこで加賀崎さんが車を出してくれることになった。
彼女のほうも研究員3人を病院に連れて行くそうだ。
まあ外傷はなかったが、あの道は力あるモノしか進めないらしい。
心身の衰弱とか起こっていてもおかしくない。
その為、一応、医師に診てもらうそうだ。
子犬を抱いたオリンと私は、
加賀崎さんと目を覚ました研究員たちと共に車で街へと向かう。
近くにある岐阜市はまだ本格的な市民生活がスタートしていない。
名古屋市のほうへと向かうことになった。
市内の総合病院まで一緒に連れて行ってもらった私たちは、
研究員さん達に責任者として、
ついていなければならない加賀崎さんと別れ、タクシーで移動することに。
そろそろ、夕食の時間だが、
子犬を連れて入れるレストランとかはあまりない。
しかし、検索してみると名古屋城の付近には色々食事処があるようだ。
うん、天明さんが聞いたら、また来ることになりそうだが、
今は目を瞑ろう。
ううん、天明さん、実は前の祭りの時、グルメ旅を逃していた。
式典へ行って、そのまま祭りへ行ったのだ。
色々あったし、飲みに飲んだこともあり、
帰りは、朝一番に京都へ直帰してお土産も買えなかった。
これは何か買っていかないといけないのか?
それとも内緒にしておくのが得策か?
迷うな?
はあ、それはともかく、
オリンさんはやはり肉だよな?
そして、食べに食べた彼女らを先導し、
新幹線で京都へと戻る私達だった。
お支払い?
カードですが、何か?
うむ、正規社員で天明さんの代わりに、
何かと支払いを任される身となった私。
新入社員だが、それゆえに信頼も厚い。
余談だが研究員の方たちは古参なほど、
支払いは、ずぼらになるのだそうだ。
研究費というのは、いくらあっても足りない。
そんな中で私費と公費の区別がなくなるのだと。
まあ、実は会社が支払う以上の資金を、
私費で投じる研究員が多いのだそうだ。
ある意味、天明さんとは真逆なのだ。




