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俺は人生を捧げない、私は全てを取り戻す!  作者: ふりがな
第6章 翼持つ舟からの招待状
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第80話 異郷へと渡る道 前編

私を迎えに来たというロキを名乗る少年とスクルドさん。


うん、ロキと言う名とスクルドさんが戦乙女だそうなので、

北欧神話のソレだろうとは思う。


しかし、彼らからはそんな威厳は感じられない。


ロキ君、と言っても本物だとすれば失礼か、

本人は気にしそうにないし、もう呼び捨てでいいだろう。


まあロキは捉えどころのない性格だが、

非常に人の感情に敏感そうだ。


というのも、スクルドさんは几帳面で真面目な印象なのだが、

何か張り詰めたところがある。


探しているものが見つかりそう、と言う言葉から、

彼女にとって重要な何かがあるのだろう。


ただそれだけに、彼女は必要以上に気を張っているように見える。


彼女は最初の挨拶以降、沈黙を貫いている。


まあ、彼女が運転しているのだが、

それでも車内は静かすぎると言えるだろう。


スクルドさんは本当に何かに緊張しているようなのだ。


そんな中、ロキが彼女を揶揄う素振りを見せるのだ。


すると、一時的に彼女は怒りからロキに食って掛かる場面が、

繰り広げられる。


重くなりがちなスクルドさんの気分を、

和らげようとしているようだ。


彼なりに、彼女に気を使っているようだ。


ロキ、神話ではトリッキーな性格で色々な面倒事を引き起こす。

かの神は、魔法使いというよりは手品師であり、

エンターテイメント性のある存在だったはず。


今の彼自身を見ても、その実力は底知れないモノを感じるが、

そんな彼がスクルドさんを気遣う様子がとても人間臭いと感じる。


スクルドさんの方だが、戦乙女という肩書きに似合わず、

心配性なのかもしれない。


ロキに反応していない時は、何かを考えこみ、

その様子はかなり焦っているようだ。


本当に何なのだろう?


何が起こったのか?

彼らに聞いて見るのだが、


「うーん、さすがに言葉では表現できないかな?」


とロキが言い、


スクルドさんもそれに同意のようだった。


一行はそれから数時間かけて、

岐阜の山中にある放棄された村、八佐部に到着した。


ううん、村自体はあれから変わりないようだが、

とにかく文書保管庫に繋がる社へ向かうことにする。


社の中にある石柱群に近寄ると、

少しの眩暈とともに周りの風景が切り替わった。


いつか来た文書保管庫だが、

今回も研究員の人達が多くの文献を所狭しと広げていた。


しかし、前回迎えてくれた列焼英さんや加賀崎さんの姿はない。


仕方ないので、文献に集中している研究員の一人に事情を聞いてみた。


「ああ、研究所からデータを届けに来てくれたのですね。」


その研究員の人は、加賀崎さんのいる場所へ案内してくれた。


文書保管庫は見た目は割と狭い図書館だ。


うん、当然だが今のような本棚があって背表紙を向けて、

立てた本が並んでいるわけではない。


当時の主流は、巻物だったりしたので、

基本は書棚に横置きされている。


本屋で推しの作品は表紙を上に向け並べているだろう。


基本的にはあんな感じだ。

まあ、あそこまで文献が積み上げられたりはしないが。


さて、加賀崎さんはこの部屋の外らしい。


ううん?

この部屋に外はあるのだろうか?


案内されたのはまたもや石柱の前だった。


前はこんなの無かったような気がするのだが。

案内してくれた研究員の人は躊躇なくその石柱に触れる。


すると、何か姿が歪み、その場から消えていた。


こんなの考えても仕方がない。

同じように私達も石柱に触れていく。


すると、一瞬後、開けた山道に景色は変わっていた。

そこには、案内してくれた研究員の人と話す加賀崎さんがいた。


「すみません、加賀崎さん。

 小野寺所長から資料データを預かってきました。」


そう言って私は鞄からノートPCを出して差し出す。


「ああ、ありがとうございます。」


そう言って、ノートPCを受け取る加賀崎さんだったが、

その表情は僅かに暗い。


「何かあったんですか?

 迎えに来てくれたスクルドさん達にも聞いたのですが、

 実際に見た方が早いと言われたのですが。」


と私が状況を聞き出そうとする。


「そうですね、実はあの文書保管庫からこの場所へ繋がる道が、

 発見されまして。

 列焼英さんが言うには、

 この場所は他の異郷へと続く道だそうなのです。」


「今まで封印されていたそうなのですが、

 突然それが無くなったようなのです。」


「それだけなら良かったのですが、

 研究員の何人かがこの道へと入り込んでしまったのです。」


と語る加賀崎さん。


ええ、こんな得体の知れないところに!


そんな感情が顔に出ていたのか、加賀崎さんは言葉を続けて、


「はは、研究者の中にはフィールドワークを好む人もいるんですよ。

 私達も現に文書保管庫に入り込んでいるでしょう。

 あそこだって、慎重に考えていれば、

 中には入らず、今も外で考えこんでいるはずです。」


「この場所も文書保管庫もそう変わりはないんですよ。」


言われてみればその通りだ。

彼女らのチームは、以前の私達が来る前に文書保管庫に入り、

研究に没頭していた。


普通に考えれば、最初は数人くらいがあの社で消えたはずだ。


現代の事情を考えれば、捜索隊とか呼ぶところなのに、

彼女らは自力で解決してしまった。


つまり、その好奇心と対応力がこの場所でも発揮されたのだろう。


そこへ道の奥から列焼英さんがやってきた。


「加賀崎よ、この先は中々入り組んでいる。

 その研究員たちを見つけるのは簡単ではないぞ。」


「うん?そなたも来たのか。」


とこちらを向き、話しかけてくる偉丈夫。


「すみません、どうなっているんですか?」


と私が聞くと、


「ううむ、おそらく蛇の件が決着したため、

 我がこの地を去るための道が開いたのだろう。

 文書保管庫の役目は終えたと言えるからな。

 しかし、まさかこんなことになるとはな。」


列焼英さんは珍しく困った顔で答えてくれる。


「この道を進むことで、異郷へと渡ることが出来るのだが。

 出口は一つではないのだ。

 この道は複数の異郷へと通じているのでな。」


「おそらく、お前たち3人は渡り切れるだろうが、

 あの研究者たちでは辿り着けぬはずだ。」


私やロキ、スクルドさんを見ながら、言葉を続ける列焼英さん。


更に、


「たぶん、まだ近くの道で迷っているはずだ。

 後はそうだな。

 この道を進むには、かなりの適応力が必要だ。

 異郷はお前たちのいる世界と法則を異とする場所もあるからな。

 道を進むことでその法則に適応する身体に変化するのだ。」


と言ってくる。


ううむ、要するにこの道を進むと身体に負担があるということか?


「僕たちの用件もこの道なんだ。

 うちのは、片目おやじが管理してたんだけどね。

 あっち側のやつを壊されちゃってね。

 今、僕らの都に入れないんだ。」


「まさかこうなるとは思ってなくて。

 都自体を異郷の狭間に作って、各異郷を繋いだんだけど。

 今になるとセンスないよね、困ったよ。」


ロキが内情を暴露するが、


「オーディン様にそのような口を叩くな!

 相手が悪すぎただけだ。」


スクルドさんはそう弁解する。


要するに彼らは何らかの事情で帰れなくなったのか。


「でも、結果的に

 貴重な異郷を渡るアーティファクトが失われたんだよ!

 あれがないと僕たちが都に置いてあった全部が使えないよ。

 弱ったことしてくれたよ!」


と続けるロキ。


初めて会った時は得体が知れなかったが、

全部は分からないが、事情を聞いた後はより人間的に見えた。


「とにかく、オーディン様に良い報告を上げなければ!」


そう言って、ここまで来るとき考え込むことが多かった、

スクルドさんは覚悟を決めたようだ。


「加賀崎さん、この道に入って行った研究員の人達を、

 見つければいいんですか?」


と改めて私は聞くことにした。


「そうなんですが、この先に何があるか分からないので、

 文献を調査しているんです。

 ただ、エンキタンの文献なので、古代文字の意訳が難しく、

 研究所の資料が必要だったんです。」


と加賀崎さんは答えてくる。


はあ、とりあえず、道を探してみよう。

ロキやスクルドさんもこの道を調べたいみたいだし。


「一応、私達で探してみます。

 何かあっても対応できると思うので。」


と私は返し、スクルドさん達に目をやる。


「同行します。」


と即座に答えてくる彼女ら。


とりあえず、先の道を行ってみるか!



 

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