第74話 事情聴取
休暇を終えた翌日、研究所の天明さんの研究室にいると
小野寺所長から呼び出しがあった。
1時間ほど経ったら、所長室に来て欲しいそうだ。
大きな事件が終わって、私達の業務というか、
この研究所で何の仕事をしていくのか?
そんな疑問が私の脳裏に巻き起こっていた。
古代人類史社会理科学研究所、
どう考えても何かの研究を仕事にしているはずだ。
私の前職は研究とか全く縁がなかった。
いや、会社で生産している製品の改良とかの案を出す
とかならあるのだが。
こういう研究職なんて経験がない。
もう例のプロジェクトに戻ることはないはずだ。
となれば、
私も何かの研究に携わったりすることを求められるのでは?
または、アテナさんの本業?である何かか誰かの警備とかかな?
とにかく、異業種への転向は楽なことではない。
と一時は考えていたのだが、
今日、天明さんの様子を見て考えを変えた。
何と言うか、天明さんの仕事を説明してみよう。
このところ、天明さんも社員寮のほうへ引っ越しを計画していた。
プロジェクトは流れたし、それも彼女達にとっては、
喜ばしい出来事だったらしい。
天明さんとアテナさんは、もともと例の召使いについて知っていた。
実のところ、何者かまでは分かっていないらしいが、
確実に言えることは、
彼らは彼らの事情しか考慮していないと判明しているそうだ。
遥かな過去からこの現代まで、ずっと彼らは歴史の中で暗躍してきた。
そう彼女達は語っている。
そして、人類の歴史を読み解けば分かる通り、
人類に平和が訪れたのはつい最近である。
先程の事件で、女王卑弥呼が語っているように、
人間の歴史は戦争の繰り返しだった。
今平和と言えるのは、持てる兵器の威力が段違いになり、
人類という種が根絶されてしまうほどの力を持ってしまったから。
もし本当に全面戦争が起これば、世界は火の海と化すだろう。
人間はそこでようやく我に返ったのだ。
相手を討つための武器が自分にも跳ね返り、自らを殺してしまう。
そんな事実が人間の闘争を止めた。
ふむ、こういう事を私も研究してみると面白いかもしれないな。
まあ話が脱線してしまったが、
この会社に入る前も、違う部署などでは、
こういう考え方を色々と教えてもらった。
常識とは何か?
そんな根本的な定説にメスを入れる。
他の研究者さんは皆一応に真剣に語っていた。
そこで天明さんであるが、
仕事場に入ると本棚(敢えて書庫ではないことを強調する)から
参考資料を持ってソファーに行き寝転びながら、読みふける。
ふむ、昨日まで沢山動き回った。
彼女も疲れているのかもしれない。
そう思った私は、試しに彼女の集めたであろう文献を読んでみた。
ふむ、日本が誇るジャパニーズ文化がそこにはあった。
要するに漫画だった。
浮世絵とかではなく、アニメになったりしている漫画である。
彼女は一体何を研究しているのか?
注意深く天明さんを観察してみると、
ソファーに寝転んだ彼女は、一定時間で横向きになったり、
仰向けになったりしている。
そして、近くにはポテチの袋とお茶のペットボトルが!
ううむ!
これで仕事しているのか?
彼女はもしかして作家か何かなのか?
アテナさんは紅茶を淹れて、カップを傾けながら、
私の視線に肩をすくめた。
私は真剣に考えるのを辞めた。
うん、良く考えたら私達はかなり危険な目に合ってきた。
私達は何かの映画のトレジャーハンターなどではない。
そして、私達の相手は例外なく何かのモンスターだった。
私達の主要業務、それは例の召使いに対応することなのだろう。
そして、しばらくして、私達は小野寺所長の元を訪れた。
私達が所長室に入ると、
テレビ会議中なのか、大きなモニターに誰かの姿が映っていた。
おお、本社の三枝木さんだ。
「おお、おはよう。
天明女史、クランベリー主任、そして七果君。
こちらの三枝木君は知っているかな。
うん、知っているようだね。」
「実は三枝木君から警察の事情聴取の話が出ていてね。
君達にも話を聞きたいと粘られているそうだよ。」
そう小野寺所長が、室内に入るなり告げてくる。
「おはようございます。」と返す私だったが、
正直、寝耳に水である。
警察って、例の事件についてだろうか?
まずい、あの決戦の時の映像か何かから私達の事がバレたのか?
私はあの時、得物である太刀を振るっていた。
化け物相手だったのだし、仕方ないとも思うのだが、
銃刀法違反に当たるかもしれない。
天乃稲姫の太刀は、自由に召喚したり還したりできる。
なので、いつもは手ぶらなのだが、映像に残ってしまうと、
そんな言い訳も効かない。
どうしようか?
天明さんは、術メインだし、
アテナさんは今回かなり外見の印象が異なっている。
長い槍や盾を構えているので、私以上に重武装だが、
本人と分からなければ疑われない。
そこへ行くと私はそのままの姿で太刀を振るっていた。
多少発光とかしてはいるのだが、
普通に今までリクルートスーツなどで戦ってきた。
私の衣装とか、アニメなんかにある仕様とは異なり、
戦闘時でも、いつもの服のままなのだ。
そして、今回一番の凶器であろうタロスだが、
兵器とも言えるその力は余りにも現実離れしている。
あの能力を見て、何処に突っ込みを入れたらいいのか?
今の科学ではアレは実現不可能なのだ。
よって、もっと身近な部分に焦点を当ててきたのかもしれない。
正直言って、あの化け物と戦ったので見逃して欲しい!
そんな私を生暖かく見守る天明さんとアテナさん。
天明さんは、
「今度から衣装を着替えましょうね!」
とか言ってくる。
あんたはエスパーか!
こんな時だけ心を読まないで欲しい。
そして、何を着せようというのか!
そんな様子を見て、三枝木さんは、
「ああ、そんなに気にしなくていいよ。
警察の方は、主犯の顔とかの説明だから。
倒されたとか言ってもね、
主犯の身元とか割り出すのが彼らの仕事だから。」
「そもそも、現地での生中継していたテレビ局だけど、
かなりの望遠だったからね。
それに、あのタロスを撮影してから、
色々と中継がストップしていたんだよ。
まあ、分かると思うけど、
タロスは凄い発光していたから。
あれって電磁波入っているかもだからね。
色々機材トラブルがあったそうだよ。
自衛隊のヘリも同じだね。」
「だから、主犯の顔っていうか、
最後に出てきた女王の顔なんかが撮影されていないそうだよ。
そこで現場にいた君達なんだよ。
私達もだがね。」
と説明してくれた。
ほっとしたが、服装は考えないと。
とはいえ、漫画やアニメじゃないんだから、
閃光と共に衣装が変わるなんてことは不可能だ。
それと、滋賀県や京都府警の方には、
行かなくていいそうだ。
責任者として小野寺所長が事情聴取を受けてくれていた。
所長はこう見えて顔が効くのだそうだ。
なんとなく、もやっとする言い方になったが、
今回に限っては運が良かった。
とにかく、事情聴取は愛知県警で行うらしい。
有志連合等、関東圏からも色々集まったので、
各地に分散するより、まとめて調べた方がいいとなったようだ。
表彰も行われるそうだから、現地なのは正解なのかもしれない。
出来るだけ早く行いたいそうだが、
皆都合があるし、今日も電車や飛行機の便は欠航中だ。
線路とか壊されてはいないはずだが、点検が必要。
そして、事件の関係者を調べるため1日2日は検問も行いたい。
そんな意向から今日から1週間後に名古屋へ行くことが決まった。




